表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの人也。  作者: 梅酒
魔導のすゝめ
44/51

043「目覚め 3」

 朧に慣れるために少し歩いた先、数百mほどの平地とその奥に盛られた斜面が見え始める。その周りには様々な機材と共に数十人の軍人が集まっていた。

「殿下。ようこそお越し下さいました」

「出迎え御苦労。市川少尉。彼が今日明日と、雷電の試射を行う只野仁成君だ」

 隆愛に紹介されると仁成が着ている朧のフェイス装甲が上がり、透明なフェイスガード越しに市川と対面する。

「初め…あれ?どこかで会ったことあるよね?」

 歳はおそらく三十代後半。市川の顔を見た仁成は記憶を掘り返す。だが、これだという場面が思い浮かぶことはなかった。

「ははは。ほんの少しだが、確かに会ったことはある。だが、覚えていてくれてるとは思わなかった。私は紫雨大尉の隊に所属していた。君が月夜だったな。魔獣に咥えられたまま、私達の前に現れたあの場にいた」

「あぁ、あの時の。もしかして天月さんの隣にいた?」

「あぁ、そうだ。飛び出しそうになった彼女を抑えていたのが私だ」

「それじゃ、今日はよろしく」

「あぁ、任された」

 計測班の隊長市川から、仁成は計測と試射の流れの説明を受けた。

 まずは三つの姿勢で、それぞれ1マガジンずつ試射を行う。その後、仁成が最も楽な姿勢で。弾は最初の3マガジンを除いて、10マガジン分が用意されていた。

 傍には補助役の魔導兵二人が待機し、その他の者達は少し離れた位置で見学。その中に月夜達はいない。彼女達は日ごろの運動不足解消のため、魔導兵相手に別エリアで追いかけっこをしに行っている。


「只野君。君は魔力操作は出来ないと聞いている。普段はどうやって魔導具を?」

「え~と、なんとなく」

「分かった。君が今着ている朧は、少し手を加えてある。手だけは君の手と連動する様にセンサーを取り付けある。今、そのセンサーを起動する。試験は済んでいるが、確認のため握って見てくれ」

「了解。…お、動いた」

「問題なさそうだね。姿勢は此方で操作するが、君が撃ちやすい姿勢を出来るだけ再現するから、遠慮なく細かく此方に教えてほしい」

「了解。んじゃ、警察署でやってた感じでやろうかな」


 射撃台など無いただ見通しが良いだけの平地。数百m先には人工的に盛られて造られた丘があるだけ。

 仁成はまず、立ち姿勢での射撃から入った。

 仁成の射撃姿勢は、過去に見たミリタリー映画と警察署にあった射撃教本を基にしている。戦いを生業にする軍人から見れば、荒が目立つ射撃姿勢に違いない。

 だが、周りにいる軍人はそれを指摘することは無く、ただ見守っていた。

「撃つよ~」

 のんびりとした合図の後、仁成の周りの空気が変わる。

 集中。

 仁成は周りの全てを遮断し自分だけの空間、世界に入りこんだ。

 普段ならまずは小手調べ程度に考える。だが、今回はそんな事をいちいち気にしない。何故なら、用意された弾丸は300発以上。警察署にいた時では考えられないほど贅沢な状況。だから、最初から遠慮などしない。

 そう決めた仁成は何時もの練習通り、ルーティン化した動作を行い、そこに猪を倒した時のことを重ねる。

 ゆっくりと息を吐き切り、最期のルーティンを終えると、丘の斜面に向けて一射目となる引鉄を引いた。


ーギュイイイイイイイイイイイイインー


 音速で飛ぶ戦闘機の様に、勢いよく雷電の銃口から放たれた弾丸は、空気を切り裂き、丘の地中深くまで突き刺さった。

「・・・・・・・・・・・・・」

 初めてまじかで見た仁成が撃つ雷電の威力に、その場にいた全員が息を飲んだ。

 まず音が違う。次に弾速。そして最後に威力。

 一般的な魔導兵が放つ雷電の射撃音は、もっと低い。かたや、仁成の射撃音は甲高い。

 弾速も同様。ほぼ引き鉄を引くと同時に、数百m離れた斜面から聴こえてきた固められた土が削られる音は、殆ど差が無かった。

 何よりも、威力が全く別ものだった。普通なら、弾丸は斜面の土に突き刺さるだけ。だが斜面の表面は抉れ、なおもその先に地中深くに突き刺さっていた。

「報告。リミッター限界値で―――」


ーギュイイイイイイイイイイイインー


 報告が上がると同時、再び甲高い音と共に斜面が抉れる。それからも等間隔に、射撃場に独特な空気を切り裂く音は続き、弾倉が空になる頃には丘は削れ、その先の景色が覗いていた。


「う~ん、いまいち」

 30発の射撃を終え、一旦下がって来た仁成が漏らした感想に、一同はあれの何処に不満があるのかと、驚きと疑問を持った。

「只野君。観測記録ははっきり言って、素晴らしいものだった。体調に異変はないかい?」

「うん?特に問題無いよ。でも、違和感あるんだよね。猪倒した時はなんだろ、もっと何かが乗ってた気がするんだよね。何が違うんだろ?」

「それは…、もしかしたら朧を着ているからかもしれない」

「あぁ、そっか。市川さんの言う通りかも。それにしても朧凄いね。さっきは雷電の事ボロカス言ったけど、確かにこれなら基本装備にしたくなる気持ちが分かるよ。反動が殆ど無くて撃ちやすかった」

「それでも、君は雷電を欠陥品と思っているんだろ?」

「そうだね。開発者の立谷さんには悪いけど、それでも継戦能力に難有りだと思うよ。今さ、市川さんが体調はどうか聞いたじゃん。魔力切れを気にしたんでしょ?違う?」

「その通りだ。観測して見た所、君が一射ごとに雷電に込める魔力量は、朧側で設定しているリミッターの限界値を常に記録していた。それを休まず一定の感覚で30発。平均的な魔法士でも魔力切れにはならない。だが、若干の魔力酔いを感じていてもおかしくない」

「なるほどね。ねぇねぇ、そっちの二人は撃てるの?」

「無理だな」

「私は出来る」

 仁成は補助に入ってくれていた朧を着た軍人に問いかけ、二人からはほぼ即答で返事が返って来る。

「つまり、命中率じゃなくて、込めれる魔力量で威力が大きく変わる兵器ってことでしょ?指揮官からしたら、常に状況が変わる戦場や戦闘で誰に任せるかを、個人の魔力量も加味して決めなきゃいけない訳じゃん。それって判断材料が多すぎて、とっさの判断の妨げにならない?」

「それを行うのが指揮官の仕事だ」

「そうじゃなくてね。指揮官だけじゃなくて、それを判断できる兵士が居なくなった場合どうするのって言いたいのよ。精鋭部隊と言えど、士官ばかりじゃないでしょ?」

「…そうだな」

「でしょ。だから、人によって魔力切れを起こすタイミングが違い過ぎる雷電は信頼性に欠けるんだよ。第四師団の魔導兵が死んだ理由って、この雷電だと思うよ」

「雷電が死んだ理由…」

「屋上から戦いぶりを見てたからよく分かったんだけど、雷電を最後まで使って戦ってた人と、途中で雷電を投げ捨ててサブの銃に持ち替えてた人の差が激しかったんだよ。サブ銃も確かに魔導銃かもしれないけど、雷電に比べれば威力は劣ってる印象だった。それに雷電で消費した魔力がすぐに戻る訳でもない。雷電を捨てた人が多い部隊から一気に魔獣に押し負けて、結果雷電を撃ち続けてた人も飲まれていった感じだね」

 立谷からの返答はない。ただ、仁成から告げられた事実を租借し、考え込み始めた。

 その事を特に気に留めた様子も無く、仁成は再び射撃位置に戻してくれるように告げると、考え込む立谷の前から立ち去った。


「次はどうする?」

「う~ん。伏せの姿勢で撃ったことないんだよね」

「そうなのか。なら試してみるか?」

「そうだね。やってみるよ。基本姿勢とか分からないから、任せるね。あと、さっきの立ち姿勢も後で修正してよ」

「分かった。違和感があればすぐに教えてくれ」

「了解」

 伏せた状態は仁成が思っていた以上に窮屈なものだった。特に首への負担が大きく、これを維持し続ける兵士の忍耐力に仁成は密かに賞賛し、自分は二度とやりたくないと周りに溢した。

 さらに続けて、一番練習したであろう片膝立ちでの射撃。これは立ち射撃の時よりも違和感は下がり、観測でも最も良い数値を記録した。

 だが、仁成が警察署の屋上で見せた異常な現象は一度も起こらなかった。


「とりあえず、一度休憩を挟もうか。体調に変化は…なさそうだな」

「元気だよ」

 朧を脱ぎ、外の空気に触れながら話す仁成に、周囲に集まる人間はどう反応すればいいのか分からない様子だった。特に普段から朧と雷電を扱っている魔導兵である里香子達は困惑を通り越し、どこか諦めに似た遠い眼で抉れた丘を見詰めている者が多かった。

「只野君。先程の話は置いておくとして、朧有りで雷電を試射してみた純粋な感想を教えてくれるか?」

「良いよ。あれとこれとは全くの別の話だからね」

 簡易休憩所として、テント下に置かれた椅子に座りながら、立谷が仁成に問いかけた。

「朧ありきだけど、撃ってて気持ち良かったかな」

「気持ちよかった?」

「うん、気持ちよかった。なんだろ、貰った魔導銃を撃ってる時はなんかこう引っ掛かる?いや、違うな。詰まる感じがあったんだよね。それが雷電だとあまり感じないかな」

「感じることは感じるんだな…殿下」

「いいよ。外してあげなさい」

 立谷が何を言いたいか、すぐに察した隆愛はすぐに許可を与えた。それに続けて、立ち入り禁止区域をさらに広げる様に指示も出す。

「仁成君。休憩後の試射は雷電のリミッターを外す。君が猪を倒した時に使用した雷電を調べたら、中の魔導回路がほぼ焼き切れていた。雷電のリミッターは朧と連動している。朧側で供給される魔力を抑えているんだ。だが、あの時の君は朧無しで撃ったと聞いた。つまり君はあの時、リミッターなしで雷電を撃っていたということだ」

「でも壊れるんじゃない?いいの?」

「壊れる可能性は高い。が、今回は気にしなくていい。一応、段階を分けてリミッターの上限を開放する。面倒かもしれないが、観測データも取りたい。協力してくれ」

「良いよ。俺はどっちかと言うと雷電よりも朧の方に興味あるし」

「その朧の着心地はどうだ?」

「悪くはないんだけど…」

「なんだ?」

「やっぱり、自分で自由に動きたいよねぇ」

「ははははは。それは君次第だ」

「そうなんだよねぇ」


 仁成が隆愛と立谷の三人で、談笑交じりに雷電と朧について話している場所から少し離れた位置で、教師役となる二人も観測データを見ながら話し合いをしていた。

「どうする?今なら辞退できるぜ?」

 観測データを見ながら言葉を失っている十波に、瀧川は少し挑発する様に問いかけた。

「…いえ、一度引き受けた以上、ここで辞退はしません」

「そうかい。なら、聞け。もう分ってると思うが、あのガキは魔力量だけなら、特級の枠に入ってる。雷電のリミッター解除状態での連続試射数は確か120前後だったはずだ」

「あの子は撃てると思いますか?」

「どうだろうな…たぶん撃てるんじゃねぇかな。それにまだ、あれを見せてない」

「例のあれですか」

 例のあれ。二人は映像でしか見ていないが、仁成が警察署の屋上で見せた異様な光景。仁成本人には知らされていないが、この試射の目的の一つは仁成が見せたあの現象の再現。

 同時に、十波にその危険性をその身で感じさせるためでもあるが、瀧川本人もその眼で確認したいと思っている。

「あれは、俺達の予想が正しければだが、京の都郊外に突如発生し、すぐに消えた似非瘴気溜りと同じのはずだ」

「私は当時、京の都から離れていたので見ていないのですが」

「俺もだ。普段は地方の汚染区域を周ってるからな。映像や写真も残っていないが、目撃者は多数いる。調査も行われたが、僅かな瘴気溜りに似た残照を観測した以外、何も分かっていないらしいからな」

「ここで彼にあれを再現させ、観測して照らし合わせるんですね」

「あぁ、その通りだ。もし予想通りなら、瘴気ではないという確証が得られるって訳だな」

「しかし危険では?」

「だから、段階を踏んで検証をしてるんだろ」

 二人が見詰める先、生徒となる青年が何時の間にか立谷と仲良く、雷電魔改造計画なるものを語り合っていた。



 少し長めの休憩を挟み始まった、リミッターを段階的に解除しながらの試射は順調に進んだ。が、それは試射を行っている仁成だけの話で、周りにいる見学者と観測班、そして護衛部隊達は全く違った。

 一つリミッターの上限が解放される度に甲高くなる銃撃音。それに合わせて加速する弾速と威力。何より、リミッター限界値の魔力を常に消費しているにも拘らず、全く魔力酔いも魔力切れも起こす気配の無い仁成に、見ている者達は恐怖さえ覚え始めていた。

「殿下。立ち入り禁止区画変更の通達が完了しました」

「御苦労。さて、明日までに丘が持つか…」

「既に夜間の間に直す手配していますので、御安心を」

「なら問題ないか。本番は明日だ。魔法士も動員して、出来る限り固める様に伝えてくれ」

「了解致しました」

 的となっている丘。その一部は度重なる射撃に耐えられず崩れ、一発の弾丸が丘を貫通し、その先のエリアに飛んで行った。

 まさか丘を貫通するとは予測していなかった市川は、すぐに朧を停止させ試射を一時中断させた。

 そして、すぐに立ち入り禁止区域を広げる措置が取られ、その間に少し早めの昼食に入っていた。

「本番?」

「あぁ、明日は朧無しで撃ってもらうつもりだ」

「うえ。また肩が粉々になるのか」

「それについてだが、試して欲しいものがある」

「?」

「衝撃を吸収、分散する肩当を用意した。君が身に付けていた肩当。あれをサイズや厚みはそのままに、素材を変えて魔道具化した肩当だ」

「ほほう。それは楽しみだね。試してみて良かったら頂戴」

「試作品で良ければ良いだろう。一般兵からの評判は良い。特に狙撃手や重機関銃手などからは、手袋などにも施して欲しいと要望が上がっている。形は変えるだろうが、採用される可能性が高いそうだ」

 自分の肩当が何時の間にか魔道具化されている。そして、それが正式に軍の装備品になるかもしれない。それを聞いた仁成は、自分でも魔道具を作れるのか、もし作れるなら何を作るか、隆愛と談笑しながら考えるのだった。


 その後、昼食を挟んで行われた試射も順調に進み、予定されていた時刻よりも早く、用意されていた弾薬をすべて使い終わった所で、一日目の試射は終わりを迎えた。

 最後の1マガジンは、リミッター再上限値の状態で撃たれ、回収された雷電は技研に回されることになった。



 演習場施設内の宿舎。予定よりも早く試射を終わらせた仁成は、隆愛にカブキヤの件について相談するため、彼に用意されていた宿舎に琴音とともに訪れた。

「それで、相談したい事とは何だい?」

 琴音も交えて話したいと言われ、隆愛は少し警戒して話を促した。

「警戒しなくても、別に危ない相談じゃないよ?」

「そうなのか?」

「御時間を頂きありがとうございます、殿下。私が経営しているカブキヤについては御存じでしょうか?」

「ん?あぁ、確か子供向けの玩具を販売している店だったと記憶しているけど。あってるかな?」

「はい、その通りです」

「それが今回の相談と関係あるのかい?」

 仁成からの相談。そこに何故、御庭番の隠れ蓑である表の顔の名が出て来るのか、隆愛には全く予想がつかなった。

「隆君、それが大いにあるんだよ。一緒に出資しない?」

「出資?カブキヤにかい?」

「そうそう。そのカブキヤにだよ」

 そこから仁成は、隆愛にカブキヤが新たに立ち上げようとしている事業と、そこに日乃産業の後ろ盾と業務提携が欲しい事などなど、包み隠さず話した。

「つまり、カブキヤはこれまで子供向けだった一部の玩具を、客層を広げるために大人向けにの製品開発と製造、そして販売を始めていくつもりなんだね?」

「はい。間違いありません」

「需要は見込めるのかい?言っては何だけど、玩具は子供の物という偏見が私の中にもある。正直、利益が出るか怪しいのだが」

「それに関してですが、これを」

 琴音は仁成から言われて用意していた資料を隆愛に見せた。

「これは?」

「カブキヤが数年前から始めた通販事業の業績と販売商品。名前は伏せてありますが、購入者の年齢層別にグラフに起こしたものです」

「…子供より大人が多いけど、子供への贈り物という線は捨てきれないな」

「はい。その点は確かに不明ではありますが、もう一つ見て頂きたい資料が御座います」

 さらに数枚の資料を出した琴音は、隆愛に資料内容を説明をしながらその反応を待った。

「…仁成君の意見が聞きたいな」

「その資料から分かる通り、購入者が買った商品は彼らが子供の頃に流行っていた作品や玩具と重なる。もし子供や甥っ子、姪っ子に送るなら、今流行っている作品や玩具を買うはずだよ。一部は自分が子供の頃の玩具を送った可能性はあるけど、七割は自分のために買った可能性が高いと思う。中には蒐集家もいるから七割ね」

「新規顧客の数に比例して、売り上げも確かに上がってはいるが…」

「顧客の一部には、華族の方や社会的な地位を持つ方、それとテレビ出演をしている芸能関係者もいます」

「一応調べたけど、ここ数年で少しずつだけど、ライト層の需要も増えてるんだよね」

「ライト層?とは何のことだ」

「あぁ、ごめん。あっちの世界の言葉なんだけど、軽いって意味。こっちにもボクシングとかの重量別に分けられる競技があるでしょ?そこからヘビーユーザー、ライトユーザーって呼び方がされるようになったんだよ」

「軽いという意味か」

「例えば、ある歌手が好きだけど、ライブに足を運ぶほどじゃないないし、毎回シングル曲を買うほどではない。だけど好きくらいの感じかな」

「あぁ、なるほど。その程度でいいのか…。そのライト層が増加していると?」

「数値的にはね。今、始めればそれなりに儲かる。けど出遅れると儲からない」

「今、始める根拠は?」

「大企業が金で殴りに来る前に、先行者特権で突き放す。ついでにブランド価値を持たせたいんだよ。さっきも話したけど、主にロボット系のプラモデルとフィギュアを主力に、アクセサリーも充実させたい」

「アクセサリー?装飾品のことか?」

「此処で言うアクセサリーは、プラモ制作のための小道具や塗料の事だね。他にも、改造用キットやフィギュアの材料みたいなものも販売したいかな」

「工具ならそこらの工具店に売っているし、材料だけを売るのか?」

「そうだよ。プラモならプラスチック板とか、太さの違うプラ棒とかね。フィギュアの場合は骨格と粘土。あと専用塗料をブランド展開したいね」

「…既に販売している業者がいるのではないのか?」

「あるにはあるけど、専用じゃないんだよね。それに、どこも大手の下請けが主事業の零細企業。売れてないか、製造中止してるところばかりなんだよね」

「つまり売り上げが無いということだろう。増々上手く行くか怪しいぞ」

「まぁ、そう思うなら出資まではしなくていいけど、日乃産業には話を通しておきたいんだよね」

「何故、話しを通しておきたいんだ?」

「オリジナルの魔導鎧を作って販売したいんだよね。架空の物語と設定を添えて、対抗するオリジナルの魔獣も作って。そんでシリーズ展開したいんだ。けど、話を聞くと魔導鎧関連の国産玩具は、日乃産業が独占してるみたいだから。喧嘩したくないわけよ」

「あぁ、そういうことか。勘違いしないで欲しいが、独占している訳ではないぞ?」

「そうなの?」

「周りが遠慮しているというのも確かにあるが、日乃産業の主用事業は魔導鎧の製造だ。魔導鎧は時の天皇が主導し開発された事は知っているか?」

「それは聞いた」

「なら話しは早い。日乃産業が権利を保有しているんだよ」

「あっ、そゆこと。理解、理解。ライセンス契約結べばいいだけなのね?」

「そうだ。そもそも、魔導鎧の玩具に関しては確かに日乃がほぼ独占している様に見えるが、製造は玩具メーカーに全て委託している」

「あぁ、そうなのか。ならライセンス契約か、日乃にプレゼンして業務提携結べばいいのか」

「どちらでも好きな方を選べばいい。それにオリジナル商品というなら、魔導鎧の名前にこだわる必要もないと思うが?」

「ん~。それも考えはしたけど、魔導鎧ってブランド価値が欲しいんだよ。かなり人気なんだよね。そうだよね?」

「はい。人形玩具の中では、人気アニメなどのロボット商品と比べても人気は引けを取りません」

「元々人気があるんだし、そこに乗っかる手はないってことだよ」

「ふむ…。出資するかはもう少し考えさせてくれ。それと、日乃には私からも話を通しておく。事業計画をしっかし固めてから、話しを持って行くといい」

「ありがとうございます。殿下」

「ありがと。あぁ、そうだ。他の魔導鎧も見てみたいんだけど」

「それなら日乃が洛外に魔導鎧の展示場を出しているはずだ。時間のある時に尋ねてみるといい。そちらも話は通しておこう。動かせないが、着ることも出来る鎧もあったはずだ」

「へぇ~、そんな所あったんだ。帰ったら早速行ってみるかな」

「丁度いいから他の話もしよう」

「いいよ」

「では私は」

「あぁ、すまないね。君達の献身は常に耳に届いている。先程の話も悪いようにはしないと約束しよう」

「はい。失礼いたしました」


 琴音の気配が完全に消えるまで待った隆愛が話を切り出した。

「今朝、君は魔導鎧を造りたいと言っていたね?」

「うん言ったね。自分専用とか言ったと思うけど、別に専用とかじゃなくて魔導鎧は造ってみたいね」

「先ほども言ったが、魔導鎧の製造は日乃産業の主要事業の一つだ。もちろん、他にも魔導鎧を製造している会社は存在するし、日乃一強という訳ではない。国防にも関わる重要な産業でもある事から、市場競争力を磨かせる意味でもライセンス料は比較的安い」

「それで?」

「私と共同で会社を立ち上げないか?」

「…ほほう、そう来たか。そこで例の皇族専用機も作っちゃえってことね?」

「その通りだ。少し込み入った話をしよう。君には迷惑極まりない話かもしれないが、皇族が一人廃嫡される可能性がある」

「廃嫡?だれが?」

「それは伏せさせて欲しい。民間人には余り馴染みが無いかもしれないな。廃嫡となると継承権そのものを失う。また、後々禍根を残さぬように臣籍降下の措置も取られるはずだ」

「んで、その継承持ちは、何をやらかして廃嫡になりそうなの?」

「何も」

「ん?」

「表向きは何もしていない。が、裏である実験に手を出していた可能性が浮上した。証拠は何もないけどね」

「キナ臭い言い方だねぇ」


()()()()()()()


 隆愛の一言に、仁成はどこかで聞いた事のある計画名に、顔色を隠すのが一瞬遅れた。

「知っている顔だな?」

「はぁ…。その名前は知らない。それを俺に話すってことは、月夜が人工的に生み出された魔獣だって知ってるってことだよね」

「あぁ、知っている。実は君が月夜達から離れている間に、件の皇族が密かに月夜とその子供達を回収しようと動いていた。月夜は人口魔人化計画の前身である、人口魔獣創造計画の一体で間違いない。一応、記録を漁ったが個体は絞れなかった。当時、計画を主導していた責任者が、その記録のほとんどを抹消して逃亡。僅かな記録しか残っていない」

「その計画に手を出そうとして廃嫡になりかけてるってことは、禁忌なのかな?」

「あぁ、禁忌指定されているほか、この計画の元責任者は皇族だ」

「はぁ~。つまり、禁忌以上に皇族にとっては汚点な訳だ」

「理解が早くて助かるよ。さすがに天皇に興味が無いとはいえ、禁忌を犯そうとした者を継承に残す訳にはいかない。だから」


「隆君は欲しい訳だ。今生天皇だけじゃない。その下の朝廷、そして国民の誰もが納得する実績が」


「力を貸してくれないかな。相手は決して馬鹿ではないし、神通力もその地位に相応しいものを持っている。ただ選民意識が強く、今の時代にはそぐわない為政者ではあることは確かなんだ」

「なるほどね。つまり、平民階級が国政に関わるのを嫌ってると」

「一昔前の国政に戻し、国会も閉鎖したいと思っているだろうね。表には出さないけど、望月教授の事も平民としか見ていない」

「教授?」

「彼は平民ながら、朝廷議会の議席を与えられているんだ。他にも数名。本来は華族以上の者しか与えられない議席を持つ平民はいる」

「俺のことも嫌ってそうだねぇ」

「…言葉を濁さずに言えば、君の事は本当に嫌っているよ。天皇陛下とは真逆だ」

「これ天皇には?」

「秘密にする。君にはこれまで以上に危険な目に遭う可能性もある。それでも、私は君に力を貸して欲しい」


「良いよ」


「…ありがとう」


「ただし、中途半端なものは造らない。造るなら、特級魔獣を相手に出来る様なやばい鎧を造ちゃおう。それを隆君自ら着て、単独討伐して貰おうじゃないの。目指せ雷神越え。えい、えい、おー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ