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ただの人也。  作者: 梅酒
魔導のすゝめ
43/56

042「目覚め 2」

 仁成との顔合わせの翌日、指導を担当することになった瀧川と十波の二人は、特別に金崎と小番の朧から回収された映像を見ることが許可され、和彦と隆愛も同伴して視聴することになった。

 その映像を視聴する前に、二人には予め凄惨な映像である事。仁成がこの時既に、隆愛の庇護下にいた事。そして、この映像を見た事と内容は口外禁止である事が伝えられた。

 それらを了承した二人は、仁成が自分を攫おうとした第四師団所属の魔導兵に対し、躊躇なく魔獣をけしかけ、それを冷静に見届ける姿。最新銃である雷電を使用する二人と違い、性能の劣る銃で六本尾の魔獣を相手に押し返し続ける姿。そして、雷電を手に取ってから映像が和彦の雷撃によって少し途切れるまでの間に、仁成と月夜を包む異様な黒い球体を見て、息を飲むことになった。

 視聴後、隆愛は講義に戻るため退室したが、残る三人は休憩を挟んだ後に、改めて仁成の指導について話し合いがもたれた。

「まず二人が気になっているであろうことから先に話そうか」

「最後の球体上の黒いあれのことか?」

「あぁ、あれのことだよ。が、あれについては私も近くで見ていないからね。確かな事は言えない。同じ魔獣狩りとして活動する信也君なら分かると思うけど、金崎と小番の両名は一級魔法士の中でも上位の実力を持つ魔人だ。その二人があの球体の前では、身の危険を感じたそうだ。まるで瘴気溜りの近くにいる感覚だったそうだよ」

「ちっ、なるほどな。だから俺が選ばれた訳かよ…」

 自分が意図的に指導役に選ばれた訳を知り、瀧川はイラつきを隠そうともせず、舌打ち交じりに不満を溢した。

「理解が早くて助かるよ。私が直接指導してもよかったんだが、さすがに目立つからね」

「はぁ~。旦那のお願いじゃなきゃ断ってる所だぜ。…了承した。ただし、あのガキについては任せてもらう。それでいいか?」

「良いよ。十波君。君には座学を任せるが、その際に実習をする場合は、私か瀧川君が必ず同席する。私達がいない所では絶対にさせないで欲しい」

「…分かりました」

 十波は少し不満を感じつつも、有無を言わせぬ望月と瀧川の雰囲気を感じ取り、それを了承した。

「十波、不満だろうが我慢してくれ。あれがもし、俺と教授が考えている通りのものなら、場合によってはガキを殺す勢いで止めないといけない可能性がある。お前にそれが出来るか?」

「殺す…教授!」

「悪いが、これに関しては彼が正しい。私も殺めたいとは考えていない。ただ、最悪はこの一帯に居る全ての人間が死ぬ可能性があるんだよ。理解して欲しい」

「ここ一帯の人間…」

「教授、一回見せた方が良いかもしれん。何処か人里から離れた。出来れば京の都から離れた場所で」

「そうだね。その方が良いかもしれない。景月君に連絡して手配して貰うよ」

「分かった」「分かりました」

 その後は十波が中心になり、約半年間の座学プログラムの大枠が出来上がると、それに合わせ瀧川立ち会いの下で実践講義が組み込まれることになった。そして、指導開始を一月後の八月と定めた三人は、その日はそれで解散することにした。



 魔導学の指導員との顔合わせから数日。仁成の元に指導開始日と大枠の日程が届いた。

 開始は一月後、その間に一度だけ京の都から離れ、山中にある軍の演習場で、朧を着ての雷電の試射が予定されていた。

「朧を着れるのか。やったぜ」

「あくまで試射のためだからな」

「分かってるよ。それまで何しようかな~」

「それなら、琴音からの依頼を受けたらどうなんだ?」

 一馬から提案は、以前からお願いされていたカブキヤのお手伝いの事。忘れていたわけではないが、仁成は自分の事を優先していたため優先事項としては低かった。

「まぁ、迷惑も掛けたし。それもいいか」

 本来なら、今仁成が住んでいる物件は、カブキヤの通販事業のための倉庫兼発送店舗となる予定だった。

 だが、一階部分は小型車ほどの月夜でも出入りできる出入り口と、広さがあることで彼女達の部屋になっている。それどころか、世話人として一緒に派遣されて来た女性隊員の部屋も何時の間にか完成しており、カブキヤの事業店舗としては使えない状態になっていた。


「というわけで、俺のせいで事業計画が遅れているのは申し訳ないから、この近くで使えそうな物件を買い取って、そこをカブキヤ通販事業所にするのはどうだろう。金なら俺が出資するよ?」

 カブキヤのカウンターで、相変らずダラダラしている琴音の元に向かった仁成は、今だに狭い店舗裏で発送に追われる従業員達のために動き始めた。

「いいのかい?」

「いいよ。裏手の店舗予定物件。もう月夜達が住むために改装しちゃったから」

「なら、半分でいいよ。さすがに全額は申し訳ないからね。で、物件だけどもう押さえてある。ここから徒歩10分ほどの所にある仲卸業者が使ってた倉庫兼事務所物件なんだけどね」

 そう言いながら、琴音は仁成に物件情報が乗った紙を一枚差し出した。

「裏手の物件より随分大きいね。でも、通りに面してて、トラックが乗り入れできるだけの駐車場もあるのは良いね。少し高い気もするけど、これから事業拡大を目指すならいいんじゃない?住居とまでは行かないけど事務所と休憩所なんかもあるみたいだし」

「ちょっと早すぎるとか言われると思ったよ」

「早すぎるとは思うけど、他所に取られる前に押さえておくのは良いと思うよ。ここって洛外では端っこかもしれないけど、主要幹線道路や高速道路へのアクセスは良いからね。一日で周れる関西地方は自前の配送で済ませて、他は配送業者に委託すればいい。自前の配送事業は規模によるけど、それなりに稼働が見込めるなら部署化するか、子会社化するのも有りだと思うよ」

「まだそこまで考えてすらないよ」

「考えといた方が良いよ?」

「何故だい?」

「あのね、こっちの世界ってプラモとかを趣味にするのって、今だ偏見があるんでしょ?子供の玩具だって」

「あるね。少しずつ無くなってはいるけど」

「なら、今がチャンスだよ。洛外を周って見て思ったけど、玩具屋はあるにはあるけど子供向けの物しか揃えてない店が殆ど。プラモ専門店なんて数軒しかなかった。人口もいて、物流もある。開発も進んでる首都でだよ?少なすぎるよ」

「何が言いたいんだい?」

「大人向けに事業を展開すれば、今なら一人勝ちできるよってこと」

「…詳しく!」

「あっちの世界では、大人でもアニメを見るほど一大産業になってるって言ったよね。あれはプラモやフィギュアにも同じことが言えるんだ。要は大人向けの玩具もあるってことね。他にプラモ制作会社が専用用具や塗料の開発もしてた。自社ブランドとしてね。例えばニッパーやヤスリとかね。エアブラシもプラモ用モデルを業者が出してたし、コンプレッサーも住宅で使える様に静穏性を持たせた小型のものがある。他にも塗料を吸い込む換気機能が付いた塗装ブースなんかもね」

「…そんなにあるの?」

「あるよ。カブキヤはそこらへんの工具なんかは市販品を並べてるよね?」

「そうね。一部はホームセンターには置いてないモノもあるけど、殆ど市販品ね。塗料もプラモ用かと言われると違うし」

「そこを狙い撃ちしよう。まだ、大手も手を出しにくい今なら、需要を独り占めできる」

「でも、市場は小さいと思うけど?」

「だから、独り占めする意味があるの。小さいから事業への投資は最小限で済む。なのに需要を独り占め。つまり合法的に独占できる。だって、誰も競争相手がいないんだからね。市場が大きくなって、大手が金の匂いを嗅ぎつけて札束で殴ってくる前に、ブランドを確立して強固な地盤を作るんだ」

「…ブランド」

「ブランド価値を舐めちゃいけない。これよりカブキヤの○○の方が使いやすいなとか、塗料も乗りがいいなとか。小さいけどその違いに、男は拘りを感じる。男は何時まで経っても少年なんだ。女性の中にもね。そこを擽る。決して大衆向けとは言えない。けど、隠れた需要は必ずある。それに自社ブランドのプラモ作りたいんでしょ?最初からブランド価値を持たせる意味でも、効果はあると思うよ」

「…分かった。その口車に乗ってやろうじゃないかい。その代わり」

「開発費用でしょ?喜んで出資してあげるよ。あと、後ろ盾があった方が良いね」

「後ろ盾か…。でもうちは」

「あぁ、分かってるよ。御庭番だもんね。だから下手な後ろ盾はつけれない。俺が言いたいのは、利権に絡むかもしれないから、そっちの話」

「利権か。確かにそれはあるかもしれない」

「例えば、国産魔導鎧の玩具。あれ造ってる会社、一社しかないよね?」

「そうね。日乃産業しかないわ」

「海外の魔導鎧もあるけど、そっちは幾つかの商事が抑えてるみたいだけど、国産に関してはその華山だけだ。つまり」

「それなら問題無いわ」

「問題無いの?何で?」

「その日乃産業。天皇家が抱える事業の一つよ。それに国産魔導鎧の開発は、時の天皇陛下の主導で行われた経緯もあって、不可侵なのよね」

「お、おう。…まさかの事実に俺、困惑」

「だから日乃産業を通せば、魔導鎧のオリジナル商品も出せると思うわ」

「なら後ろ盾が初めから居るようなもんか…。その日乃産業にも出資して貰う?」

「…そうね。親分を出し抜くのは気が引けるわ」

「それなら、一人知り合いがいるから相談しといてあげるよ」

「…知り合い?ってまさか」

「魔導大学に通ってる瀧川隆って人。解るでしょ?」

「はぁ、お願いするわ」

「任された。と、その前に事業計画書を頑張って作らなきゃね」

「そうね。忙しくなるわねぇ」

「その代わり、店の整理しといてあげるよ。一月は暇だからね」

「本当に?!頼むわ!」

 それから約一月。朧の試射に県外に向かった四日間以外を、仁成はカブキヤの荒れ果てた店内の整理整頓で過ごすことになる。

 その最中、何故かカブキヤの中で遺物が見つかることもあり、琴音たちは頭を抱えることになるのだが、当のトレジャーハンター仁成はというと、また誰かに恩を売れるぞとほくそ笑んでいたとか、いないとか。



 七月某日。仁成は月夜達も連れて、某県山中にある第20旅団が所有する演習場に足を運んだ。

 護衛部隊を除いた同行者は、御庭番棟梁の蕪木琴音。そして仁成に魔導学の座学講師の十波瑠璃。同じく魔導実技講師の瀧川信也の三人。

 今回の目的は仁成が警察署屋上で見せた異様な光景の再現であり、演習場の一角を貸切っての実験的要素も含まれている。同時に、仁成が以前から朧を着てみたいと言っていたため、その要望を叶える意味もある。

 試射予定地まで、軍の装甲車に揺られる仁成は、既に成人しているとはいえまだ十代の青年。朧を着れるとあって終始機嫌良く揺られていた。

 ちなみに月夜達は、広い演習場とあって装甲車に並走して、普段の運動不足を解消していた。

「お前の従魔速いな。あれでまだ余裕ありそうだぞ」

「俺の従魔じゃないよ。どっちかと言うとあっちが御主人様。それに今は形式上、天皇陛下の従魔になってるみたいよ」

「あっ?お前が飼われてるのか?」

「そそ。あいつらには花井町にいる間、かなりお世話になったよ。特に月夜さんは熊さん討伐作戦で助けてくれたからね。頭が上がらないのよね、俺」

「そういや、お前が灰炎をやったんだったか」

「正確には合成獣と灰炎をぶつけるための囮になっただけだよ」

「それでも、お前の手柄だろ。俺でもやらねぇぞ。そんな危険な賭け。どっちが勝手も最悪、一級クラスの魔獣が生まれてる可能性があるんだからよ」

「生憎、俺はそこら辺の知識は皆無だったからね。まぁ、さすがに近づいただけで服が燃えて皮膚が溶けるとか聞いてなかったから、死にかけたよ」

「普通は灰炎に近づいただけで死んでんだよ。朧の外装にでかい穴開けるんだぞ、あの熊」

「へぇ~」

 丁度一年前、日ノ本を駆け巡ったニュース。その裏側をしれッと話す仁成に、十波は聞いていいのかと隣に座る里香子に眼で訴える。

 そんな十波に対し、里香子は優しく宥めつつ前に座る二人を睨みつけるのだった。

 だが、当の二人は特に気にする様子も無く、仁成が試射することになる雷電について話し始めていた。そこでは雷電が如何に欠陥品かを、信也相手に熱弁する仁成の姿があった。

 それを聞かされていた同車内には、雷電の開発者である軍側の技術士官も同乗しており、額に大きな青筋を浮かべていたとか。


 試射場となる地点に到着し、仁成が降車するとそこには意外な人物がいた。

「やっ」

「あれ?隆君じゃん。やほ~。あっ、相談したいことあるんだよねぇ~。このあと時間ある?」

「ん?相談か。予定は?」

 仁成達より一日早く現地に入っていた隆愛は、隣に控える初老のスーツ姿の男に問いかけた。

「今日は試射見学後、予定はありません」

「そう。いいよ。何の相談か気になるけど、あとの楽しみにしておこう。こっちだ」

 隆愛の登場だけでも驚くべきことなのだが、気安く話しかける仁成とそれを特に気にした風もなく答える隆愛に、事情を知らない者は目を見開き驚いていた。

 そんな一同の事など無視して、仁成は隆愛の隣を歩き始める。

「いやぁ~、朧を着れるとは思わなかったよぉ~」

「楽しみで仕方ないって感じだね」

「そりゃそうでしょ。何れは自分だけの魔導鎧を造ってみたいね」

「なら、私の魔導鎧も造ってくれるかい?」

「いいよ~。飛び切り威厳のあるものにしよう。無駄に金の装飾とかつけて」

 軽く請け負った仁成だが、それが無理な事を彼は知らない。

 皇族の中でも継承権を持つ者は漏れなく魔力を持たない。その代わりに神通力を持つ特別な存在。だから、隆愛には魔道に関する道具は一切使えない。

 仁成にその事をどう伝えるべきか、周りの人間は悩んだ。だが、しかし。

「ところで、瀧川さんは魔力ないでしょ?魔導鎧じゃなくて、別名を考えなくちゃね」

「あれ?教えたっけ」

「(月夜に教えてもらったんだよ)いやいや、この間少し電話で話した時に言ってたじゃん。魔蔵はあるのに魔力を生み出せない病を治せないか研究してるって」

「(なるほど。やはり賢いね。あの女王様は)あぁ、そういえば少し話したね。魔導に頼らない鎧か。何か良い名前を考えなくちゃいけないね(そこまで使いこなしてるとは驚いたよ)」

「(自分で言うのも何だけど、使いこなせてるのかいまいち分からないんだよね。月夜以外と話したことないし、月夜と話す時も何となくで使ってるから)公募でもする?採用者には魔導鎧の超合金人形プレゼントとか付ければ、かなり集まると思うよ」

「(何となくね。それで?)公募か。有りだな」

「(月夜は魔力とは違う波動を感じたって。神の子孫だし、神通力とかあんの?)何れは、魔導鎧の技術を民間レベルに落とし込んで、生活のために使えるようにするなら、その花形になると思うよ。最初の非魔導鎧ってね」

「(ふふふ)民間にか…。(あると言ったら?)教授がこの間話してくれた内容は君の案だったのか」

「(天皇、皇族専用機とか浪漫の塊じゃん)あぁ、そう言えば教授に俺のメモ渡してたっけ。こっちはそこらへんが少しおざなりになってる気がするよ。民間企業にも、たくさんの可能性が眠ってるんだから、技術の発展の切欠は何処に眠ってるか分からないよ」

「(ははははは。浪漫か。確かにあるね。それに権威の象徴としても使えるね)検討してみるよ」

「よろ~。(さすが第二位。俺の言わんとするところにきづいたか。あっ、造るなら日ノ本神話を参考にした方が良いよ)おっ、あれが俺が使う朧?」

「そうだ。量産型の一式だ(必ず参考にしよう)君の身長に合わせたものを用意した」


 背面と脚部の一部が開き、乗り込み口が開いた状態で置かれた朧の前に立った仁成は、改めてSF要素も合わさった外骨格を見て興奮していた。

「う~ん、やっぱり格好良いねぇ。俺的にはリアル系ロボをイメージしたものを作りたいけど、戦国時代の甲冑をイメージしたこのデザインも捨てがたいねぇ」

 仁成が言った通り、朧は日ノ本の甲冑をモデルにしている。その他の国産魔導鎧も、その全てが同様である。

 仁成としては、もっと機械に寄ったデザインの方が好みなのだが、実際に目の前にするとこれはこれで有りだとも思ってしまう。

「リアル系が何なのか分からないけど、早速乗ってみるかい?」

「なんか注意事項とか聞かされると思ってたけど?」

「君は魔力感知ができないからね。説明しても無駄なんだよ」

「あっ、そゆこと。じゃ、遠慮なく。お邪魔しま~す」

 軽くディスられているのだが、そんなことはお構いなしに乗り込み始めた仁成は、本当に始めて乗り込むのかと言うほどスムーズに乗り込むと、「こっからどうするのぉ~」と少し大きめな声で隆愛に問いかけた。

「本来は魔力で開閉も起動も行うが、今回は此方で全て操作する。動かないでくれ」

「りょうか~い」

 朧の両脇に控えていた軍人が外から背面の装甲を閉じると、朧の中は真っ暗になる。

「鎧を起動する。外からも中の様子が分かるように有線でつないでいるから、気にしないでくれ」

 わずかに聴こえる声、おそらく外では隆愛が大声でしゃべっているのだろう。それから少しして、目の前が明るくなり外の景色がはっきりと見え始めた。

「うおおおおお。すげぇえええええ」

 思わず叫んだ仁成に、耳元から隆愛の声が届く。

「どうだい?外が見えるはずだけど」

「見えてる、見えてる。これ何?すげぇんだけどおおおお。えっ、まじでなにこれえええ」

 仁成が興奮するのも無理はない。外から見た朧の頭部は完全に視界が塞がっている。もちろん西洋兜のような目出し穴も開いていない。

 この形状から中にモニターがあり、外部カメラからの映像で視界を確保している者だと、仁成は予想していた。

 しかし、実際に鎧を着てみて最初に思ったのは、どこにもモニターが無いだった。あるのは透明なフェイスシールドとその外側に頭部装甲の裏側が見えるのみ。これでどうやって視界を確保するのかと、仁成は不思議に思っていた。

 だが、そんな心配はどこえやら。起動と同時に装甲は透明になり、普段の視野角そのままに視界が開けていた。

「それは幾つかの魔法を組み合わせて、装甲を貫通して視界を確保している。日ノ本が開発した魔導技術の一つだよ」

「まじかっ。要はこれ、マジックミラーを外装に付与した感じか?これ温泉の壁に使ったら、女風呂覗き放題じゃん。この技術開発した人、絶対覗き魔だろ。褒めて遣わす」

「……ぶっ、「あはははははははははは」」

「・・・・・・・・・・・・」

 仁成の興奮気味に飛び出た失言に、男性陣は笑いが止まらず、女性陣は冷たい眼を男達に向けていた。

「すっばらしいぃぃ。風営法次第だが、これまじで商売できるぞ。まずは有名なセクシー女優をキャストに呼んで、客を引っ張って来くれば…。ぐへへへへ。男の夢と浪漫と希望が詰まった施設。行ける。行けるぞ。がはははは。これは絶対に金に生るぞおおおお」

 朧に乗れる興奮よりも、男の夢。既に雷電の試射の事など頭にない仁成は、その後も大きな独り言で夢を膨らませ続ける。だがそこに、暴走を続ける仁成を現実に戻す声が届く。


「仁成君。随分と楽しそうに妄想が捗ってるみたいだけど、許可が降りないと思うわ」

「男の夢と希望って、随分下品なのねぇ」

「それは仕方ないわよ。ほら、おサルさんだもの」


 女性陣から畳みかけるように続く非難の声と、鋭い軽蔑の眼差しに、笑っていた男性陣は一瞬で静まり返る。

 だが、仁成はそんな女性陣の眼差しに違う可能性を見出す。

「ふむ、いいね。その視線は間違いなく豚志望の変態客の心を鷲掴みできるポテンシャルがある。途中で覗きがバレて、キャストのお姉さんたちから罵詈雑言を浴びせられるコースもありだな。あっ、でもそうなると元々のコンセプトから離れるか…う~ん、悩ましい」

 さらに妄想を膨らませ始めた仁成に、里香子達は逆に背筋を凍らせ、恐怖を感じ始める。

 それを察したのか、隆愛は強引に進めることにした。

「うおっ」

 急に動き出した朧に驚き、仁成は身体を硬直させる。

「仁成君。夢を語るのはそこまでにして、本来の目的に移ろうか」

「ほ~い、了解。ところで、風俗目的だとやっぱり許可降りない?」

「降りないだろうねぇ。一応この魔導技術は日ノ本の軍事機密技術だからね。同盟国以外には卸していない技術になる」

「無理かぁ~。まさか一歩も歩かずに夢と希望が潰えるとは、いと悲し」

「まぁ、諦めてくれ。(ちなみに聞きたいんだが、その施設は君のいた世界では現実可能なのかい?)」

「仕方ないね。それじゃ、久々に欠陥銃を撃ちますか(探せばあると思うよ。あっちだと変態大国としても知られてたからね。それこそヘンタイって言葉がそのまま世界中で通じるレベルで浸透してる)」

「欠陥銃?(ははは、彼方の世界の日ノ本人は凄いな)」

「う~ん、例えるならだよ。意味も無いのに徒歩一分の場所に燃費最悪の車で行くみたいな。でも、燃費最悪なのに性能が中途半端なんだよね。それが雷電だよ。(お褒め頂き、至極恐悦)」

「それは、使用者…なるほどな。君の言いたいことが分かったよ。確かに欠陥品だ」

「でしょ?せめて、道路を真っ直ぐ造ってあげて、アクセルをべた踏みできるようにしてあげなきゃ駄目よ」

「殿下」

 すぐ後ろに控える傍仕えが、二人にだけ聞こえる様に囁く。

 その声に振り向いた二人は、すぐ後ろで俯きながら寂しく歩く技術士官の姿を見つけた。

「言い過ぎた?」

「少しね。立谷中尉。君を責めている訳ではないよ。言葉を変えれば、仁成君は雷電を最高の銃だと言っているんだよ」

「殿下。それは…」

「答えは単純。レーシングマシンに乗ってる人間が、免許取りたての初心者なんだよ」

「初心者ですか」

「雷電のスペックを引き出せて、それを30連射できる魔導兵はどのくらいいるの?」

「…多くても一割ほどです」

「だよね。だから欠陥品と言わざる負えないんだ。軍隊は一番下に合わせるのが基本。それを優秀な指揮官がまとめあげるから機能する。それは精鋭部隊でも一緒。魔導兵の中で一番弱い兵士に合わせなきゃいけない。それが使いこなせない様な武器を配備するのは、愚策だよ。加えて言うなら、実戦は何よりも信頼性が一番大事だよ。俺の…この人、俺のこと知ってるの?」

「此処にいる者は全員知っている。あと、彼は望月教授の末の息子だ」

「あぁ、そうなんだ。なにぃ!?つまり月の女神から生まれたのか。何ともけしからん。やっぱり前言撤回。こいつは無能だ」

 いきなり起こり始めた仁成に、立谷は身を仰け反らせる。その後ろでは事情を知る面々が、呆れたように溜息を吐いていた。

「こらこら。立谷中尉、気にするな。彼は君の母親の信奉者なんだよ。詳しく知りたければ、両親に聞いてみるといい」

「は、はい」

「それで、何を話そうとしていたんだ?」

「くっ、くそ。何と羨まけしからん男だ。ふぅ…俺の居た世界にカラシニコフって言う小銃があるんだけど。その銃は塩水につけて錆びていても、砂漠で砂嵐にあっても、泥を被っても撃てる銃なんだ。その銃は世界で最も人を殺し、最も製造され、購入された銃としても知られてる。確か一億丁以上製造されたはずだよ」


「「一億!?」」


「そう一億。それに、製造から五十年以上経った今でも、発展途上国の紛争地帯では使われてるらしい。あと、小学四年生くらいかな。そのくらいの歳の少年でもちょっと練習すればすぐに使える。ある国の兵士が自国の銃を捨てて、敵兵から奪ったカラシニコフを使ったっていう実話もあるくらい、戦場にいる兵士から信頼されてたとか」

「雷電にはその信頼性が無いと」

「残念だけど、無いと言わざる負えないかな。ただ、狙撃の様な一撃必殺の銃と考えれば悪くないどころか優秀。なんせ、素人の俺でも三等級の猪の硬い頭をかち割れるんだから。出来れば反動を抑えるアタッチメントが欲しいね。そうすれば、朧以外の魔導鎧でも、射撃手の腕次第で化けるんじゃない?」

「つまり君は用途が違うと言いたいんだね」

「まぁ、そうだね。正確には、前線で戦う兵士が持つ小銃としては、信頼性に欠けるかな」

「貴重な意見ありがとう」

「でも威力に関しては、これくらい欲しんだよね。警察署の周りにいる魔獣。瘴気が広がって以降、全体的に強くなってる気がしたんだよね」

「戻るのかい?」

「戻ると言うか、月夜達を長く汚染区域から話しておきたくないって感じかな」

「それは、月夜達の格を上げるためか?」

「そうだね。せっかく人慣れしてる天然の魔獣だよ?育てなきゃ勿体ないでしょ。だから隔月毎くらいに行ったり来たりさせたいんだよね」

「育てるか…検討しておくよ」

「よろ~。それにしても、乗って見て思ったけど、かなり人の動きに近いね。これ、魔力で遠隔操作とかできるようになれば、また違った運用も出来そうだよね」

「…後で詳しく聞かせてくれ」

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