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ただの人也。  作者: 梅酒
外伝 天月彩音
38/51

038「運命を狂わされた女 3」

 天月の出向期間の三ヵ月はあっと言う間に過ぎ、出勤最終日を迎えた。

 既に独身寮のマンションも引き払い、この日は午前中にお世話になった研究所の職員や研究員、そして軍の訓練施設に挨拶をして回る予定となっている。

 だが、一番お世話になった遠藤教授は、恩師である望月に再び呼ばれ京都に行った後だった。


「短い間でしたお世話になりました」

 一通り研究所でお世話になった研究員や職員に分かれの挨拶を終え、最期に副主任の男性研究員の元を訪れた天月は、彼に遠藤にも「よろしくお伝えください」と伝えると、研究所を後にした。

 その後、軍の訓練施設にも足を運び、短いが一緒に汗を流した新兵達や教官、関係職員にも挨拶をして回ると、迎えの車に乗って三ヵ月間過ごした地から旅立った。

 結局、遠藤教授が打診した情報開示の許可は下りず、天月は何も知らないまま研究所を後にすることになった。それともう一つ。

 アレックスの質問。あの質問の意図の答えも分からずじまいだった。

 一応、何度かアレックスにその意図を聞いた天月だったが、彼からは「何れ解る」とだけ言われ続け、天月も話せないのだろうと納得してそれ以上聞くことは無かった。

 ただ、嬉しい報せもある。

 三ヵ月の魔力成長度合いが認められ、まだ三級下位相当の魔力量しかないものの、天月には朧三式の製造が正式に認可が降りた。

 まだ製造が決まった段階で受領は数ヵ月から半年は先だが、天月が今後装着する朧は彼女専用具となることが決まった。

 そして、これから彼女が向かう場所が、魔導鎧を研究、開発している軍の魔導技研。天月がこの三ヵ月の間、お世話になったアレックス技術少佐も所属する軍施設となっている。


「天月、聞いたぞ。お前さん、三式を着れるらしいな。替わってくれても良いぞ」

「そうなんですけど、今でも信じられなくて」

「何よ、素直に喜びなさい。朧三式を造って貰えるなんて、普通無いんだから」

 魔導技研に向かう道中の車内。送迎に来た先輩二人に、天月は揶揄い混じりの祝福を受け、天月は恥ずかしそうにまだ夢ではないのかと溢していた。

「まぁ、お前さんの言いたい事も分かる。俺でも、いきなり三式造ってやるって言われても、何で?って思うだろうしな」

「あんたはその場で踊り出すでしょ。やった~、これで俺もエースだぁとか言って」

「いや、さすがに俺でも冗談としか思えんぞ。造ってくれるならありがたく受け取るけどよ」

「私も。正直、天月が羨ましいわ。それで、魔力はどれだけ上がったの?」

「今は四級中位に届かないくらいです」

「まじかっ」

「凄いわね。確か五級中位くらいだったわよね?」

「はい。丁度真ん中あたりでした」

「三ヵ月で一階級上昇か…。そりゃあ、上も期待するか。成長は止まってないんだろ?」

「最後に測定した時も、上昇量に変化はなかったです」

「私達が三級下位から中位だから、一年後…。下手をしたら半年後には追い抜かれてそうな勢いね」

「だな。二級に届く可能性は確かにあるか」

「研究所でも同じ事を言われました。一日ごとの上昇量が成長最盛期に似ているそうです」

「あぁ、なるほど。確かにそれなら納得だな」

「そうね。私が一気に伸びたは、13歳の頃だったかしら。当時は六級くらいだったから、三階級くらい上がったのよね」

「そんなに!?」

「平均は二階級くらいよ。私はかなり伸びた方ね。人によっては一階級しか上がらない人もいるわね」

「だな。俺は成長最盛期前に天月と同じくらいの位置にいたが、最盛期に二階級上がって三級止まりだったからな。俺のダチに最盛期前に四級の奴がいたが、そいつは二級に届かない所で止まったらしい」

「元々高い人でも、そこまで伸びないもんなんですか?」

「そういや、天月は後発組だったな。魔導学だと、そこら辺はあまり触れないからな。知らないのも無理ないか。魔力の成長最盛期は一年ほどで、あとは緩やかになっていく。この事から、()()()()()と同期してると言われていてな」

「身体の成長ですか…」

「分かりやすいのは第二次性徴期だな。その頃に魔力の成長第二最盛期も来るんだよ。一応、伝えておくと魔力自体は20代前半まで成長し続ける。その成長幅が最盛期は桁違いにでかい」

「第二最盛期?ということは、第一最盛期もあるんですか?」

「ある。生後一年未満の赤子時が第一最盛期とされてる。一級以上の化け物は、この時点で五級以上の魔力を持ってるらしい。あと身長がどれだけ伸びたかでも変わると言われてるが、これは当てにならん」

「ならないんですか?」

「ならないのよねぇ。私、157cmしかないけど三級よ」

「俺は177ある。天月とほぼ同じくらいだな。だけどこいつと同じ三級だ。なっ?当てにならないだろ」

「確かに言われてみればそうですね」

「それより、天月はやっぱり射撃仕様にしてもらうの?」

「はい、おそらくそうなるんじゃないかなと思います。今回は特例ということで、私の希望は通らないそうなんです」

「それは残念だな。でも、三式を受領できるだけ運がいいぜ」



 日ノ本陸軍魔導科学技術研究所野頭支部。通称魔導技研。

 この野頭支部では主に魔導科学技術の研究と、陸軍の魔法兵及び魔導兵に支給される魔導鎧の開発を行っている。

 そして、三式以上の魔導鎧の製造は、この技研に併設されている試作機製造工場のみで行われている。


 天月が技研に到着したのは昼を過ぎ、夕刻の時間。今日の予定は、天月の朧三式を設計、開発する技研側の責任者と顔合わせのみで、明日から天月の身体と魔力の測定。そして、鎧の使用についての説明を受けることになっている。

 まだ出向中のため、天月本人はスーツ姿のまま施設に入場し、職員の案内で施設の奥へと進んでいく。

 初めて訪れる技研は、軍の施設らしく掃除が行き届き、理路整然とした雰囲気が漂っている。その雰囲気を肌で感じた天月は、たった三ヵ月しか離れていなかったはずだが、そこに懐かしさを覚えた。

「此方です。谷根蔵です。天月軍曹をお連れしました。入室許可を願います」

「許可する。入ってくれ」

 案内の軍人が中からの返事を待ってから扉を開け、天月に中に入るように促す。

 天月は案内の軍人に軽く会釈で感謝を伝えると、部屋に入った。

「数日ぶりだね。天月軍曹。まだ出向先に籍はあると思うが、階級で呼ばせて貰うよ」

「はっ、了解であります。研究所から引き続きよろしくお願い致します。大崎技術少佐」

 部屋の中で天月を待っていたのは、研究所で測定用魔導鎧の測定を担当していたアレックスとその部下。彼らが測定に引き続き天月の鎧の開発も担当することになっている。

「あぁ、任せてもらおう。座り給え」

「失礼します」

 天月が席に着くと、隣からこの三ヵ月で集めた魔力測定のデータ資料と仕様書を渡された。

「見て分かる通り、君のように後発組かつ、成長期間を過ぎた者で魔力が成長した例は一つもない。世界を見渡しても一例もな。こちらも貴重なデータを取れる機会に恵まれたことに感謝している。さて、既に伝えたと思うがその書類にある通り、君の朧三式は20旅団から既に基本仕様が届いている。そして、この三ヵ月で得た君の基本生体データを基に、此方が君の体格と予想魔力量に合わせて仕上げる。何か質問は?」

「…予想魔力量が二級ではなく一級相当になっている理由は何でしょうか?」

「あぁ、それか。君は魔力成長最盛期を知っているか?」

「はい。生後一年間と第二次性徴時に約一年。魔力の成長が大幅に上昇する期間の事です」

「その通りだ。後発組の多くはこのどちらか、あるいはどちらも経験せず終わる。君は資料によれば二次性徴後の覚醒者だな?」

「はい。18歳で覚醒し、準魔法師基準の認定を受けました。その後軍に準魔法師基準で入り、二年前に五級相当まで成長し止まりました」

「そうだな。少し魔力の成長について講義しよう。何れ君に開示される情報を理解するために必要なはずだ」


 魔力の自然成長は一般的に25歳前後まで続く。これは一般人、魔力持ち共に共通である。だがもちろん、平均よりも早く成長が止まる者もいれば、30歳近くまで成長が続く者もいる。ただし、一度成長が止まると再び魔力が成長を始めることは無い。

 これは世界共通の常識であり、天月は世界で初めてその常識を破ったと言える。

 魔力の成長幅が大きい期間、つまり魔力成長最盛期と呼ばれる機会は二度ある。一つは生後一年間。二つ目が第二次性徴から約一年間。この二年間は自然成長幅が最低でも二倍、最大で五倍ほどに上がる。

 この二度の恩恵を受けれるのは、生まれながらの魔力持ちである先天性魔力覚醒者のみで、後天性魔力覚醒者は第二次性徴前に覚醒すれば、一度はその恩恵にあやかれる。

 ただし、後天性魔力覚醒者の多くは自然成長値が、先天性魔力覚醒者には届かない。彼らの多くは中級魔法士と呼ばれる五級の壁を越えられず、準魔法師から下級魔法士のまま、その生涯を終えることになる。

 天月は彼女が持つ因果によって、覚醒時の魔力上昇量が多かったことに加え、この自然成長値が生まれながらの魔力持ちに引けを取らなかったおかげで、成長が止まるまでに五級に滑り込めた。

 そして、23歳の時点で魔力の上昇は止まり、同時に魔導兵として特殊魔導戦技部隊に配属された。

 そして今、彼女は過ぎたはずの魔力成長最盛期を25歳にして迎えた訳である。


「というわけだ。君に今起こっている事が、いかにあり得ないことか分かって貰えてかな?」

「はい。解りました。その…魔臓に異常があるのでしょうか?」

 天月はアレックスからの説明を聞き終え、同時に不安に苛まれた。

 彼女の瘴気耐性は低い。さらに言えば、瘴気を遮断する鎧を脱いで半月以上の期間を汚染地区で過ごした。

 その事から、何かしら魔臓に異常が起きているのではないかと考えた。今はまだいい。命に関わるような異常はない。だが、この先は分からない。

 分からない事が余計に、彼女を不安にさせた。

「今のところ異常は見られていない。私は工学専門だからな。魔臓については多少知っている程度だ。だが、この資料では魔臓は正常と書かれている。確かにこの先の事は解らない。突然、何かしらの異常を引き起こす可能性もある。だが、それを気にし過ぎていては、先に進めないぞ。今は頭の片隅に留めておけばいい」

「申し訳ありません。専門外の事をお尋ねしました」

「気にしなくていい。そこに気付けたなら、君は大丈夫だろう。私が君なら、声を上げて喜んでいただろうな。皆もそうだろう?」

 アレックスの問いかけに、開発チームの面々は苦笑いを浮かべながら頷く者や、自分ならこうだろうなと在りもしない未来を想像して、それに酔いしれるものもいた。

「と言う訳だ。普通は宝くじが当たったらという妄想をするだろう。それと同じだ。その危険性まで妄想する人は少ない」

「確かに、そうかもしれません。私も魔力が成長していると言われた時は、妄想してました」

「だろう。私だって同じだ。さて、今日はもう遅い。知らぬ中ではないが、このあと皆で食事でもどうだ?」

「はい。喜んで」

 天月の返事を聞いたアレックスは、早速と言わんばかりに資料を片付け始め、「今日は私の奢りだ。場所は何時もの場所だ。天月を案内してくれ」と告げると、部屋から颯爽と去って行った。

「あの…」

「行くよ。少佐の奢りだ。着いて来い天月軍曹」

 呆気に取られていた天月と違い、彼の部下は慣れているのか撤収の流れも早く、何時の間に女性士官に背を押されて、天月は技研を後にした。

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