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ただの人也。  作者: 梅酒
彷徨う魂
27/51

027「華の都 7」

 カブキヤで買い物をした日から二週間。仁成の生活に大きな変化はない。あるとすれば、夕食後にプラモを作る時間を設けたことくらいである。

 それから、少しずつだが仁成に変化があった。それは緊張が少し解れた事。

 普段の生活から授業態度、それに午後の鍛錬も部活感覚で気負った様子の無い仁成だが、里香子と一馬の眼は騙せていなかった。

 二人の眼には、自分達が任務で瘴気汚染区域に入る時、常に魔獣に襲撃される緊張感と同じものを、仁成が纏っている様に見えていた。

 だが、プラモ作りを始めてから徐々にその緊張感が良い意味で減り始めていた。自然体とまでは行かないが、年相応の趣味に没頭する男の子と言った感じの姿に、里香子は少しだけ安堵した。

 日本にいた時の日課でもあったプラモ作りが、仁成の精神に安定をもたらしたことは間違いなかった。


「プラモを買い足しに行こう」

 そして休息日の朝、仁成は朝食時に二人にその日の予定を告げ、希望通りに二週間ぶりにカブキヤに行くことになった。

 以前買って帰ったプラモデルは、作り易さを重視してパーツも少なく、単純なデザインのものを中心に買っており、一週間もしない内に買って来た全てのプラモは組み終わっていた。

 それからさらに一週間。仁成は組み終わったキットを分解し、二つの世界の違いを探ったり、ブランクを埋めるために素組みしたプラモを使って、買い集めた工具の使い心地の確認とそれらの習熟のために、基礎的な模型技術の練習に当てていた。

 そして、練習用として買って来たキット全てが使い終わり、今出来ることがなくなったので、同じ物と少し複雑なキットもついでに買いに行くことにした訳である。

 


 朝食後すぐにカブキヤに向かった三人は、まだ店も開いていない時間に到着した。だが、事前に一馬が連絡を取っていたおかげで、すんなりと店の中に通された仁成は、早速前回買ったプラモと、少しパーツ数も多く組み立てまでの時間がかかるプラモを選び始めた。

 前回と違い一人で何とかカウンターまで辿り着いた一馬は、相変らず客商売をする気があるのか分からない琴音に出迎えられた。

「本当にこんな時間に来たんだねぇ」

「まぁな。言われた通り、表の鍵はかけて置いた。それにしても模型も意外に奥が深いんだな」

「どうしたんだい?変な物でも拾い食いしたのかい?」

「してねぇよ。あいつが作ってる所を見てたら、一つ作ってみないかと誘われてな。同じ模型を作ってみた。そしたら間違った所を切ったり、パーツのつなぎ目が浮いて嵌り切らなかったり、ゲートだったか?あれの処理に失敗して抉れるし、完成して立たせてみたら不格好な上に腕は外れて落ちるしで、同じ模型を作ったとは思えない出来だった」

「まぁ、最初から上手く出来る奴はいないよ。そういえば何か言ってたかい?」

「何のことだ?」

「模型を実際に作ってみた感想みたいなものだよ」

「あぁ~。かなり言ってたな。あとで聞いてくれ。正直、半分以上専門用語らしきもので何言ってるか分からなかった」

「そうかい。なら坊やが選ぶまで待ってようかね」

 今回、里香子は仁成について店の中を周っている。まだ慣れていないとはいえ、仁成よりも細身の彼女は店内を歩くだけなら、問題無く仁成について周れた。


 そんな里香子だが、昔から魔導関連に触れていたことで、一馬同様に魔導鎧の模型や玩具を発見して少しだけはしゃいでいた。

「あら~、懐かしい」

「里香ちゃんもカズ君と一緒で興味あるんだねぇ」

 何分の一スケール化は分からないが、最新機の朧の合金玩具を手にして、細部まで記憶の朧と見比べる里香子。その姿は、最初にカブキヤにい来た時に一馬が見せていた姿と一緒だった。

「懐かしいと言っても、男の子たちが持ってたってだけよ。怪獣の玩具とセットで特撮の再現をしたり、自分達だけの話を作って遊んでたのよねぇ」

「男版人形遊びって感じかな?」

「そうね。それに近いかも。それにしても、子供の頃は気付かなかったけど、再現度高いわね。ん?でもこっちの陽炎はいまいちね。何でかしら?」

「単純に製造年の違いじゃないかな?反対側のエリアに並んでる玩具。かなり古い物から新しい物まであるけど、最近出たと思われる玩具はそれなりに質が良かったよ」

「需要が増えたのかしら?」

「単純に技術が上がっただけかもしれない。里香ちゃんの言う通り、子供の数が増えて需要が増加したのかもしれない。玩具には三人の客がいる。誰か分かる?」

「…ん~、一人は子供よね?」

「そうだね。正解。もう二人は?」

「…ご、ごめん。分からない」

「答えは簡単なんだけどね。それを買い与える親。最後に大人だよ」

「親?…あぁ、そっかそうよね。子供が欲しいと言っても、それを買う親が与えても良いか考えるわけか。でも大人?…あぁ、これが偏見なのね」

「そゆこと。例えば、この魔導鎧の玩具。子供の頃に好きになって、大人になっても好きな人はそれなりにいるはずだよ。でも、大人が買い集めるのは醜聞が悪いっていう風潮があるなら、やっぱり買い渋るよね。他にも際どい水着衣装の女の子のフィギュアがあったとして、里香ちゃんは自分の子供が欲しいと言ったからといって、買い与える?」

「絶対、無しね」

「でしょ。でも大人なら?欲しい人いるかもしれないでしょ。でも話を聞く限り、こういったフィギュア系の玩具も中学生に上がる頃には卒業して、それぞれスポーツや武道に打ち込んでる。実際、街中にある運動場や競技場を見ていても、小学生高学年くらいの子共からお年寄りまで、幅広い年齢層がいたからね。それが当たり前。早々に意識が変わることは無いと思う。だから、玩具会社は大人向けに商品を作らないんだと思う。何故なら売れないし、世間の偏見と目が強いから。そうなってくると玩具を必要とする子供に焦点を当てたほうがいい。それはつまり、子供に玩具を買い与える親を標的にしているということだね」

「……はぁ。ねぇ、本当に。本当に、あなた18?」

「18で間違いないよ?疑り深いねぇ」

「それとも、あっちだと普通なの?」

「情報化社会に生きてたら、少し考えれば誰でも思い付くし、あっちには世界的なゲーム会社が幾つもあってね。その中の一つに、世界中の親が「子供に買い与えたいゲーム会社」と呼ばれるほど、信頼される企業があったんだよね。だけど、こっちの世界には無いみたいだね」

「そんな企業があるのね」

「あっちの大人はその企業のゲームで育ったと言っても過言じゃないほどにね。模型もそうだよ。あっちでは国民的なロボットアニメがあったんだけど、その版権を持つ企業が大々的にブランド展開して、世界的にも有名な一大ジャンルに確立させてた。子供から大人まで、世界中にそのプラモ愛好家がいたし、プラモを改造してそれを評価する大会もあった。比べて、こっちのプラモは、大人の隠れ趣味程度の位置付けなのかもしれない。実際何個か作ってみて思ったけど、造りが粗いんだよね。道具も揃ってるようで揃ってないし、単純に市場が狭いのかもしれない」

「やっぱり、あなた18歳じゃないわよ…」

「それは心外だなぁ。知ってる?会社って儲けないと、事業が潰れるし、社員も養っていけないんだよ?」

「そんなこと知ってるわよ」

「分かってなさそうだから、聞いてるんだけど?」

「馬鹿にしてるの?そのくらい子供でも分かるでしょ」

「あのね。俺が言いたいのは、これら商品を見てるだけでも、産業として成長できる余地があるのに、そこに金が集まってない。つまり投資先として見られてないって言いたいんだよ。もし市場が大きいなら、お金は自然と集まるし、発展する。そうなれば企業はより、その事業に予算を組んで儲けようとするでしょ。でも、作ってみたプラモのキット。どれもひけが多いし、パーツ同士の咬み合わせもいまいち。自分でパーツを処理しないと、素組みも出来ない粗悪なキットもあった。対象年齢五歳以上のキットなのにだよ?これってつまり、低予算で事業を回してるってことだからね」

「儲かってないって事よね?なら、何で続けてるの?」

「さぁ、それは分からないかな。まぁ、版権物はその版権を持ってる企業が作ってる場合が多いから、アニメや特撮産業とも密接な関係があるし、人気の作品ともなると関連玩具が売れるからね。里香ちゃんも子供頃に流行ってた物ってあるんじゃない?」

「まぁ、あったけど。男の子なら、やっぱり魔導鎧とか変身ヒーローものとかかな?女の子はキャラクターものの人形だったりしてたかな」

「IP事業ってわかる?」

「IP?」

「知的財産の略語だね。例えば、この魔導鎧の知的財産は誰が持ってると思う?」

「魔導鎧を作った会社かしら?」

「それも間違ってないけど、この魔導鎧の権利を持ってる個人、あるいは組織って、必ずしも魔導鎧を制作した会社が保有しているわけじゃないんだよ」

「じゃあ、誰が持ってるの?」

「さぁ、そこは俺にも。大抵は開発した企業が持ってる場合もあるけど、キャラクターなんかはデザイナーや原案を考えた人が持ってる場合もあるかな」

「その知的財産権を持ってるとどうなるの?」

「こっちが何処まで法整備してるかによるけど、あっちだとかなりしっかり権利が保護されてたからね。例えば、玩具製造会社のA社が魔導鎧の玩具を作ろうとしても、知的財産権を持っていないから勝手に作ることが出来ない。勝手に作って販売して訴えられた場合、あとで権利を保有してる会社成り個人に損害賠償+罰金の支払い+商品の販売差し止め、場合によっては市場に流れた製品の回収も加わる」

「回収まで?」

「当たり前じゃん。違法に作ったパクリ商品だよ?そこで権利を保有しているB社にお金を払って製造許可を買う。もしくは、1000円の魔導鎧の玩具が一つ売れる度に10%の100円をB社に支払う契約を結ぶとかして、製造と販売を合法化する訳」

「…えっ?じゃあB社は権利を保有してるだけでお金が入ってくるってこと?」

「そゆこと。それがIP事業の本質だよ。だから、必ずしも権利者が製品を作ってるわけじゃない。権利者が自社ブランドとして展開してる場合ももちろんあるよ」

「複雑ね…」

「あっちだと創作物。音楽や小説、アニメ、漫画、イラストとか幅広いね。その代わり版権を誰が持ってるか分からない物もたくさんあったり、逆に版権がバラバラで過去の作品のリメイクや、再放送とかが出来なかったりしてた」

「待って。例えばだけど、私が何かキャラクターを考えてそれを公表したら、そのキャラクターの知的財産を持ってるってこと?」

「基本そうなるね。ただし、この日ノ本にその知的財産に関する法があればの話だよ」

「調べてみる?」

「暇な時にでも調べるよ。まぁ、あっても人気が出ない限り意味はないけどね。ん?これは10年前くらいのかな?」

 里香子と話しながらも、プラモを選ぶ手と眼は止めない仁成は、箱が少し傷んだ古そうなキットを一つ手に取る。

「古そうね…。12年前のものよ、それ」

「丁度良いね。前回買ったキットはどれも新し目の物ばかりなんだ。古いキットを組み立てれば、ここ十年でどれくらい企業が力を入れてるか分かるからね」

 それからしばらく、仁成は里香子に合わせてゆっくりと店内を周りながら、前回買ったものと同じプラモも幾つか集め、里香子にも運ぶの手伝ってもらいながら一馬と店主のいるカウンターに向かった。


「毎度。前にも買った同じ物もあるけどいいのかい?」

 会計のため、仁成と里香子がカウンターに積み上げたプラモの箱。その中に

、前回と同じプラモも混じっていることに気付いた琴音は、一応確認のために仁成に尋ねた。

「間違ってないよ。練習素材としてはそこそこ良かったからね」

「はいよ。ところで、組んでみた感想はあるかい?」

「う~ん。粗悪の一言に尽きるかな」

「そっちの兄さんからは、いっぱい愚痴を言ってたって聞いたけど?」

 仁成は面倒そうな顔で一馬を見ると、彼は俺知らないとそっぽを向いていた。

「先に確認しとくけど、この人は大丈夫なの?」

 そっぽを向いたままの一馬から視線を外し、仁成は里香子に顔を向けた。

「大丈夫よ」

 里香子から返って来た簡潔な返事に、仁成は仕方ないと言った感じで実際に組み立てた感想を容赦なく話し始めた。

「対象年齢五歳以上にしては、どれも大小様々なバリが残ったままで危険。安全基準ガバガバ。パーツの大きさがミリ単位で違うものもあるし、嵌めこんでも隙間が出来る。はめ込み部品が折れやすかったり、亀裂が入ってるのも論外。全体的にひけが多いのも、モデラ―からしたら処理が面倒の一言。素組みじゃ、まともに二足立ちがほぼ不可能なキットもあった。でも、どのプラモの全体的に立ち姿が不格好。可動域も狭いから飾る楽しみも無い。あぁ~、あと左右対称のはずのパーツの大きさが違うのも気になった。パッケに載ってる絵には、左右共に同じ模様や凹凸があるのに、実際のパーツには片方だけだったり、なかったりする。全体総評、粗悪。以上」

 一気に捲し立てた仁成は、他に何かあったかな~と言いながら、記憶を遡り始める。

「あのさ、これは?」

 琴音は仁成が前回も買い、今回も買おうとしているプラモの箱を指差し、何処か緊張した面持ちで仁成に尋ねた。

 横で見ていた一馬は、それが仁成が一際酷評していたプラモだと気付き、そっと横目で仁成を見る。何故なら、箱には『カブキヤ』のロゴがあったから。

「今の聞いてた?それが一番酷いキットだったよ」

「…そっかぁ」

「はぁ。これオリジナル?」

「まぁ、そうなるね」

「まず、他の製品よりも明らかに質が悪い。特にパーツの精度がバラバラだ。金型成型だよね?」

「そうだね」

「なら、金型製作の段階でケチったでしょ?ケチるなら、もっとシンプルなデザインにしなよ。細かすぎ。デザイナーは誰?」

「…私と、もう二人」

 既に致命傷を負い、目にはうっすら涙を浮かべる蕪木琴音32歳、既婚、子有り。しかし、目の前の青年は容赦なく続ける。

「基本デザインは悪くないけど、コンセプトに一貫性がない。デザイナーに責任者設けずに、三人であれもこれもって足していった結果でしょ?まずは金型成型に掛かる予算を考えて、シンプルなデザインにしなよ。どうせ、試作も一回か二回で通したんでしょ?」

「はいぃ~。仰る通りですぅ~」

 既に半泣き。いやその後ろには何時の間にか数人の男女が同じ様に、仁成の駄目だしを受けて顔を強張らせている。その中の一人はおそらくデザイナーだろうか、琴音より先に泣き始めていた。

「初めから難しいものを出しても意味ないよ。あと、これって設定ちゃんと作ってる?」

「設定?」

「背景の話だよ。仮にこれが主人公機だとして、これからシリーズ展開するに当たって、ライバル機、僚機、量産機、後継機の下地となる世界観を作るんだよ。細かくなくてもいい。あとで幾らでも拡大解釈が効くようにすればいい。それに買い手にも想像と考察する余地を残しておくと、公式の外で世界が勝手に広がって盛り上げてくれるからね」

「…お願いがぁ」

「何?」

「相談役として…」

「今は無理。知ってるでしょ?」

「そこを何とかぁ」

「今は先にやることあるの。そっちもでしょ?」

 それからしばらく、後ろにいた従業員(蕪木家親族)も説得に参加し、仁成を勧誘を始める。だが。

「落ち着くまで待って欲しいね。さっきから言ってるけど、俺は俺で忙しいの」

「まぁ、一応。はい」

「なら、待ちなよ。あと聞きたいんだけど」

「何かしら?」

「工具や道具。どれもホムセンで買えそうな物ばかりだけど、あってる?」

「あってるわね」

「そう…」

「何か気になることでもあるのかい」

「う~ん。里香ちゃんにもさっき言ったんだけどね。模型とかフィギュア、産業としてあまり育ってないよね?」

「そうね。はっきり言って育ってないわね。最近は少しずつ、御客は増えてるけど…。産業としてはまだいまいちかも」

「だよね。棚を見渡してみた感想だけど、新作の数が全体的に少なめ。昔出たままそれっきりの商品が多い印象がある。魔導鎧とか一部のキャラ物は別だよ。特にミリタリーとか車とかかな。金型成型の技術向上で昔は出来なかったことが今なら出来るはずなのに、新デザインの物があまり出てない気もする」

「中には潰れちゃって、もう再販されないメーカー品も多いから」

「あぁ、そうなんだ。それは仕方ないか。ねぇ、知的財産権ってあるの?」

「あるわ。と言っても、日ノ本はその辺りの権利が曖昧だったの。数年前にようやく法が整ったばかりで、昔の権利は宙に浮いたままになってたりするのもあるって話よ」

「遅いね。まぁ、仕方ないか。日ノ本は元々戦闘民族ぽいしね。まぁ、あるなら今のうちに動きなよ」

「???」

「その潰れて権利が曖昧なメーカー品の知的財産。持ってるだけなら経費掛からないでしょ?今なら、そこそこ安く譲ってくれる人もいるし、浮いてる権利もあるんでしょ。法的にカブキヤの権利として買い取るなりして、所得しちゃいなよ」

「それでどうするの?」

「はぁ~。デ・ザ・イ・ン。戦車とか実際にある物は省くとしても、オリジナル作品や版権物なら、「そのデザインはうちの○○を丸々パクッてるだろっ。それ売り出すなら、ちゃんとインセンティブ払え」って言えるでしょ?別にカブキヤが生み出したものじゃなくても、知的財産権さえ持ってれば権利者の権利になるんだから」

「…な、なるほど」

「ついでに言うと、プラモ事業に参入するなら、権利もってるんだから、自社で丸パクリが出来るってことだよ。まぁ、とりあえずこのプラモ。一旦製造と販売も止めなよ。バリも残ってて危険。小さな子が怪我してからじゃ遅いよ」

「はいぃ」

「デザイン担当!」

「「はい!」」

 仁成は今も琴音の後ろに並ぶ中にいるであろうデザイナーに声を掛けた。そして案の定、先程から泣いている女ともう一人、若い男が返事を返して来た。

「まずはデザインの責任者を決めること。もしくは、それぞれの案を出して、どっちのコンセプトが良いか社内アンケート取るなりしなよ。それから、予算内で製造できるシンプルなデザインを最初は心掛けること。その中に二つか三つ特徴や個性を持たせる。味方機と敵機でコンセプトは明確に分けるか、統一して世界観を表現しないと駄目。金型に予算突っ込めないなら、なおさら細かなディテールは除外。わかった?」

「「は、はい」」

 泣きながらも必死に返事をする女と、緊張して声が裏返る男。ただ、しっかりと帰ってきた返事に仁成は満足気に頷き返した。

「次、設計は?」

「外部の知り合い」

「そいつアマチュア?それともプロ」

「一応、それで飯食ってる人だけど、セミプロかなぁ」

「なら使えないから切ること。あんな手抜き仕事。信用できたもんじゃない」

「いや、あの。それはぁ。こっちが無理を言って…」

「切る!条件が悪いなら断るのもプロの仕事なの。それでも受けたなら、最低限の仕事はするのがプロなの。それすら出来ない奴を雇い続けてどうするのっ!」

「はいっ!」

「とりあえず、設計については予算をきちんと立てて、ちゃんとした外部業者や個人に頼むか、既存の模型メーカーに相談してみるのも手かな。ここはケチっちゃダメ。金型の精度にも関わってくるんだから。もちろん、金型が一番重要なんだから、そっちもケチらない。試作もきちんと重ねて、問題点がないか実際にキットを組んで確かめる。んで、メーカーに伝手くらいはあるでしょ?」

「まぁ、あるけど」

「その伝手で事情話して、業務提携なり委託出来ないか相談。だけど、まだするな。さっき言った背景設定や、最低でも味方と敵合わせて5~6体くらいデザインが固まって、将来的な展開を見据えたプレゼンの用意が済んでから相談する様に。その時に、ディテールアップされたバージョンも用意しとけば、将来的にリメイク再販とかも見据えてる事もアピールできるでしょ」

「わかった」

「あと真衣ちゃんが言ってたけど、まずは先に通販事業。これをカブキヤの子会社化するなり、事業部化が先。従業員も確保して、トップはカブキヤから人材を派遣して据えること」

「それは来年に隣の物件が空くから進めてるんだけど」

「それなら、先にそっちに集中しなよ。話を聞く限り、今の主事業なんでしょ?」

「まぁね。アドバイス通り、しばらくはそっちに集中するよ」

「最低でも一年から二年は、そっちに力を入れて事業の安定化と成長させないと駄目。そこで得た利益を元にプラモ事業に投資。どう見ても順番間違えてる。裏でコツコツ、準備だけは進めればいいでしょ。見た感じ、勢いだけで始めたみたいだし、一度落ち着いた方が良い」

 とは言いつつ、その粗悪なカブキヤオリジナルプラモを三つ購入する辺り、仁成の思いやりが窺える。

 実際、彼が組み立てて思ったのは、ここで潰すには惜しいだった。と言うのも、カブキヤのオリジナルプラモは日本のロボットアニメの流れを汲むデザインであり、他のロボットプラモよりも見慣れ、懐かしささえ感じる物だった。

 だからこそ、仁成は密かにカブキヤに手を貸すことを決めている。裏では何か怪しい仕事をしていることは確定だが、それでもこのプラモを完成させてやりたい。

 仁成の内なるオタク魂に火が点いた瞬間でもあった。



 カブキヤを後にした仁成は、一馬と里香子と共に昼食を取るために行きつけの大食いチャレンジメニューがあるレストランに立ち寄った。

「何時もの」

 店に入って早々、里香子は迷わずチャレンジメニューを厨房カウンターにいる壮年の店主に告げた。

「お嬢ちゃんの姿が見えた時から作り始めてるよ」

「ありがとー」

 そんなやりとりがされている間、仁成と一馬は何時も通り案内されるままに置くの個室にと進んでいく。

 そして席に着くと、今日は何を食べようかとメニューと睨めっこを始める。

「やっぱり迷うね」

「だな。どれも美味いからな」

 少し大通りから外れた小さな老舗レストラン。店内はレトロな雰囲気を残した落ち着いた内装で統一されている。

 そして、この店のメインシェフであり店主は、元皇国ホテルの料理長も務めたほどの腕前を持つ人物だった。

 そんな人物が腕を振るう店だが、メディア取材など一切受けないためかあまり知られてない。地元では手頃な価格で美味しい洋食が食べられる店として愛されている。

 だが、その裏では皇族もお忍びで訪れることがある隠れた名店として、業界では有名な店だった。

 このレストランを見つけたのは他でもない里香子である。彼女の食に対する情熱は本物で、地元でもないこの京の都で雑誌やテレビにも紹介されない様な店を、何処からか情報を手に入れてくる。

 そのおかげで、仁成は京の都に来てから食に関しては困ったことがない。一馬も仁成の財布で美味しい料理を堪能できるということもあって、文句が出るはずもなく。基本、外食は全て里香子が行きたいところに行くことが自然と定着していた。

「俺はこのキノコとチーズのパスタにしようかな」

「う~ん、なら俺は前来た時に選ばなかったステーキにするか」

「私はどうしようかしら?」

 チャレンジメニューでは足らないと言いたげに、里香子も何時の間にかメニューを広げ悩み始めていた。その姿にもはや突っ込む者はこの場にはいない。

 注文を待つ女性も微動だにせず待っている。もちろん、仁成と一馬も気にせず、副菜や飲み物を選び始めていた。

「よし、私はこのパスタとリゾット。それとサラダはこれとこれ。あと飲み物はこれを」

 既に注文を終え待つ二人から遅れること少し、里香子も女性店員にメニューを見せながら、一つずつ指先を当てて注文を終えた。

「畏まりました。注文を繰り返します。キノコと――――。以上でお間違えありませんか?」

「間違いありません」

 主に確認は里香子の注文だけである。仁成たちの注文は既に厨房に通され、店主の息子の手によって調理が開始されている。これもまた何時も通りの光景である。

 里香子がチャレンジメニューを食べている間に、その他の注文を二人が捌く訳である。

 しばらく待つこと最初の料理が運ばれて来た。もちろんそれは里香子のチャレンジメニューである。

「ごゆっくり」

 運んで来た女性店員が去ると同時、里香子は分厚いステーキとこちらも分厚いハンバーグが乗った大きなプレートを前に手を合わせた。

「お先に頂きます」

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