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ただの人也。  作者: 梅酒
彷徨う魂
26/56

026「華の都 6」

 仁成は京都に滞在しているが、月夜達のことをもあるため、そう長い期間滞在するつもりがなく、事の成り行きを見届け次第帰るつもりでいた。

 だが、事の進展次第では京都に留まる可能性が出てきたため、それなら今買っても買わなくてもあまり変わらないかと思い直し、趣味の道具を揃えることにした。ついでに裏がありそうな店主。その秘め事に関わらないための逃げる口実にもなる。

「極みシリーズの様な物はないか。残念だ。やすりも種類が少ないな。スポンジやすりとかもないのか…。これは自分で作るしかないのか?」

「おっ!初めて見るお客だね。ようこそ、カブキヤへ。ゆっくり見て行ってね」

 仁成がブツブツと独り言を呟きながら、プラモ用の道具や工具を吟味している横から、仁成と同じか少し年上、人懐こそうな愛嬌ある顔の女が声を掛けて来た。

「どうも~。ねぇ、道具や工具は此処にあるだけ?それとも他にもある?」

「ここに並んでるものだけだよ。塗装用のエアブラシは裏にあるから、実物を触って見てもらえるけど、コンプレッサーや塗装用ブースはカタログから取り寄せになるね。他にも取り寄せ商品があるから、気になったら言ってね」

「分かった。まぁ、塗装までする余裕がないから今はいいかな。あっ、人気のプラモってどれか分かる?分かれば数点買って帰ろうと思ってるんだよね」

「ちょっと時間もらえれば調べられるよ」

「じゃあ、お願い。あとニッパーとか使用感試せる?」

「試せるよ。お試し用があるから、カウンターまで来てくれれば出してあげるよ」

「なら行こうかな」

 仁成は手に持っていた梱包されていたニッパーを棚に戻すと、女の後についてカウンターまで戻った。

 カウンターの周りにも商品が飾られており、それを眺めながら待つこと5分程、カウンター越しに女がアクリル製の半透明のケースを三つ持って戻って来た。

 何時の間にかゲームモニターの光は消え、ゲーム機と思われる箱の電源も落とされていた。

「はい。この中に入っているのが、棚に並んでる物と同じ奴だよ。他にもあるから、試しながら待ってて。試し切り用のランナーはこれね」

「ありがと。早速試すよ」

 カウンタ―横のスペースに置かれた三つのアクリルケースの表には、それぞれお試し用ニッパーのステッカーと番号が油性マジックで書かれていた。

 仁成は一番上から順に蓋を開き、中に収納されているニッパーを一つずつ、手に取って、持ち手の感触から実際に試し切り用のランナーを切って、それぞれの特徴を確認する作業に入る。

 日本ではプラモを販売しているメーカーが、模型用工具や道具をブランド展開していた。日ノ本ではそこまで模型産業が発展していないのか、どれも仁成が使っていた専用工具に比べ、工業用やホムセンに売られているのものと思われるものばかり。値段もバラバラで実際に使用しない事には、品質が解らない。

 ただ、プラモを主軸にしている店らしく、ある程度模型製作の事が考えられた商品を揃えている様だった。

 その中から、仁成は以前使っていた物と使用感が近い物を探す作業を続ける。

 真剣に選ぶ仁成は、違う工具も持って戻って来た女の声にも反応せず、ただひたすらに指先の感覚だけを頼りに試し続けていた。

「これとこれ、それとこれかな」

 仁成が選んだのは太いランナーでも切れる大型ニッパー一つと、ランナーゲートを切る用の小型ニッパー二つ。小型のニッパーの一つはパーツに残ったゲートを処理するために切れ味の鋭い物を選んだ。

 それからも、従業員の女が出してくれた工具を一つずつ使用感を試し、とりあえず素組みと簡単なディティールアップが出来るだけの最低限の工具や道具を選び終えた仁成は、選んだ工具の名前を頭に叩き込む。

 少し前。正確には京都に来てから、此方の常識を学ぶ内に、仁成は自分の記憶力が阿保みたいに上がっていることに気付いた。

 そして、それを検証していくうちに記憶した内容を消したり、または複製し違う記憶と連結させたり、内容ごとに記憶や知識を纏めたり分けることも出来る事にも気付いた。それはまるでパソコンやスマホのコピペやフォルダー管理、編集、ゴミ箱などの機能がそっくりそのまま頭の中にある様な感覚だった。

 ただ、まだ完全にこの能力を把握も使いこなせている訳ではない。ただ記憶するだけなら簡単だが、コピペなどの機能は意識を集中していないとできない。問題もある。

 もしこれがパソコンやスマホと同じなら、そこには必ず容量制限がある。パソコンなら、残り容量は調べれば簡単にわかるし外付けの媒体もある。スマホも何だかんだでかなりの容量を誇り、足らなければ必要のない物から消せばいいだけだが、仁成自身ともなると慎重に為らざる負えない。

 もしもパソコンやスマホ同様にHDの様な記憶媒体があり、それを元にした能力だとするならば、仁成本来の脳の記憶力とは別に、脳内外付けHDの様な物がある事になる。

 それがあると仮定した場合、仁成の記憶は一体どちらの記憶媒体。つまり、脳に記憶されるのか、それとも外付けHDに記憶されるのか判断がつかなかった。

 そのため、仁成はこの能力を使うときは慎重になっていた。もし無い場合、仁成本来の脳内記憶を弄っていることになる。もし間違えた場合、最悪全ての記憶を失う可能性さえあるほど危険な能力だからである。

 この能力についてはまだ誰にも話していない。誰にも明かしいていない一番の理由は面倒事になりそうだからだが、まだ仁成が景月達を信用していないからでもある。もう少し事の成り行きを見守り、このまま景月に世話になるのか、それとも別の者に世話になるのかを決めるつもりでいた。


「ねぇ、君ってもしかして琴姉が雇いたいって言ってた子?」

「ん。琴姉が誰なのか知らないけど、君が立ってる場所でゲームばかりしてる店主の人の事を指してるなら、そうだね」

「やっぱりそっか。少し前に琴姉が真剣に雇うかどうか悩んでて、皆にも相談してたんだ。店の中を泳ぐように歩き、商品箱を綺麗に積める逸材だって」

「そりゃどうも。でも、今は無理だし、もしかしたら別の街に引っ越すかもしれないから。もし、此処でバイトするにしても、身の回りが落ち着いてからだね」

「そっか~、残念。さっき君が工具棚の所で探してるの見てたけど、綺麗に積み直してたから、琴姉が言ってた子だって思って。出来れば週に一度でいいから、来て欲しいくらいなんだけどなぁ。駄目?」

「駄目だねぇ。さてと、プラモはどれが人気なの?」

「駄目かぁ~。ん~とね。プラモこれに書いてあるのが人気だよ。探すの手伝おうか?」

「いや、良いよ。まだ、君のお姉さんの用事は終わりそうもないし、ゆっくり他も見ながら探すよ。ありがと」

「そっ。見つからなかったら言ってね。凡そなら何処にあるか分かるから」

「分かったよ。その時は手伝ってもらうよ。それじゃ」

 が、一切迷いなく歩き出し、最初の一つ目をあっさり見つけた仁成の姿を、監視モニター腰に見ていた蕪木綾は、どうにかして仁成を雇えないか真剣に考え始めるのだった。



「それで、何処まで知っているのか。聞かせて下さい」

 この店の主であり御庭番棟梁の琴音でも、これまで様々面で対応していた一馬でもなく、里香子主導で話し合いは始まった。

 琴音が言ったように、佐那里香子の本当の階級は日ノ本陸軍少佐。仁成には一馬と同じ曹長と偽っており、実年齢も琴音と同じ32歳。だが、陰の存在であり、公式には認められていない琴音達と違い、里香子は正真正銘日ノ本陸軍少佐。この場を仕切り、主導権を持っているのは間違いなく彼女の方だった。また、彼女は仁成の護衛部隊の現場指揮官でもある。

 その相方である一馬はこの任務に抜擢された際、彼女から敬語禁止を言い渡されており、実の所かなり苦労している。女が好きなのは確かだが、それも設定として盛っており、実際の所は結婚まじかの婚約者もいたりする。

「まずは先に謝罪を。私の個人的な興味から、身辺をお騒がせしたことお詫び申し上げます」

 今回琴音が動いたのは、御庭番として正式な任が降った訳ではない。彼女が察した違和感。何故そこそこ腕の立ちそうな軍人が、一般人を護衛しているのか気になったからである。

 もし何か裏があり、それが京の都に禍を齎すなら、正式に奏上し排除も厭わないつもりでいた。もちろん、仁成を雇うための身辺調査も兼ねてである。

 だが、いざ調査を開始して見れば、彼が滞在するマンション周辺には御庭番でさえ気付くのが難しい程の隠密部隊が配置されており、気付くのが遅れた若衆の一人が捕縛もされかけた。

 そしてその日のうちに、御庭番一番衆棟梁兼総梁に呼び出された琴音は、こっぴどく叱られた訳である。

 ただ、仁成の趣味が模型である事が判明したことで、どうせならやらせるかということになり、四番衆も今回の任に就くことになった訳である。

「それに関しては既に上で話がついています。謝罪も不要。気にする必要もありません。それで?」

「感謝します。名前はタダノヒトナリ。18歳。約八か月前に突如花井町に現れ、それから半年以上高濃度の瘴気汚染区域に滞在し続けている変人であり、魔人であること。魔獣を三頭使役していること。灰炎の炎をまともに受け生還していること。三等級の魔物を一撃で仕留めるだけの魔力を有していること。そして、第四師団の魔導兵千人を間接的に殺めた事。未確認の情報として、()()()()()()()()()()()()である事。以上です」

 琴音が話した情報は全て、総梁から琴音と四番衆でも上位の数名のみに明かされた情報である。

 その中で、花井町に長く滞在する魔人がいることは四番衆内でも知られていた。だが、四番衆の管轄は京の都の洛外。山陽地域は管轄外のため、あまり情報は入って来ていなかった。

「…最後の二つ以外は概ねその通りです。彼の名誉のために伝えておきます。第四師団が彼に関与する権限は一切無く、その許可も指令も出されていません。完全な独断行為に当たります。民間人である彼に理由もなく銃を向け、拘束しようとしたこと。また、彼を誘拐する意図があったことも確認され、この件は派遣部隊の独断によるものとして処理されています。その裏には復権を狙っている旧武士、あるいは旧貴族の陰がありますが、上手く逃げられました。同時に只野仁成には、この件の正当防衛が認められ、無罪であることが確定しています」

「それは申し訳ありません。こちらの情報不足でした」

「いいえ。この件も秘密裁判による判決のため伏せられています。もしかしたら、総梁が伝え忘れていたか、そこまで明かす必要なしと判断した可能性もあります」

「はい。それで、異世界人の可能性は高いと言われていますが?真偽のほどは?」

「ほぼほぼ、そうだろうと言われていますが、確定はしていません。何分、科学的にも魔導学的にも根拠が乏しく、専門家でさえ断定不可能です。ですが、私達は彼が異世界人であると仮定して動いています」

「分かりました。私達もその方針に従いましょう。それで、そちらは私達に何をお求めになるのか、改めて伺いたい」

 実の所、既に総梁から琴音に任は言い渡されており、この場は本当にただの顔合わせ。ついでに、仁成にそれとなく御庭番の存在を匂わせるための場である。

「知っていると思いますが、私達の庭は山陽地域です。首都京都近郊には詳しくありません。今も陰で御庭番が支えてくれているおかげで、私達は彼の護衛に集中できています。貴方方には、私達が見逃している、あるいは見逃した鼠の処理をお願いしたい」

「承りました。京都御庭番四番衆が棟梁。蕪木の名に懸けて、鼠は一匹たりとも逃がさない事を御約束します」

「お願いします。さて、ここからは言葉遣いを砕いても結構。彼について少し話しましょう。彼はまだ、此方を信用していません」

「つまり、何時でも他所と手を組むかもしれないと言いたいんだね?」

「えぇ、そうね。しかも、日ノ本以外の国家に亡命する可能性さえあります」

「はぁ…。慎重すぎるのも、時に機会を失っちまうんだけねぇ」

「彼はおそらく、そうなったら瘴気汚染区域に引っ込んで、一人で暮らすでしょう。実績はあるから。拠点にしていた建物に、農作業の本や道具もあったそうですし」

「で、少佐殿はこう言っているが、あんたの意見は?」

 話を振られた一馬は、里香子に目配せをし了承を取ると口を開いた。

「今のところ協力的だ。あちらの世界についても、大抵の事は聞けば話してくれる。詳細がわかるものは、ある程度詳しい内容も教えてくれる。そこから受ける印象は、年齢の割に知識幅が広く浅いと言った所だ。記憶力もそれなりにあり、一度学んだことは大抵覚えている。最近は世界の主要言語も学び始めているが、そちらは苦手の様だ。かなり苦戦している。ただ、此方にそう思わせている可能性は十分にある」

「なるほど、協力的に振舞いつつも、その裏では此方の油断を誘っているわけか。良く引っかからずいられたね」

「当初は此方も相手は子供と侮っていました。だが、第四師団の件で皆が彼への認識を大きく改めた。もし自分と千人の市民がいたとして、貴方は千人を躊躇なく犠牲に出来るますか?」

「…それが必要な犠牲とあれば。でも、躊躇はするだろうね」

「強い方ですね。私には出来そうもありません。ですが…」

「あの子は出来るんだね?」

「おそらく。それと…佐那少佐。あの件については?」

「…そうね。どうせ伝わっているでしょうから、確認しておきましょう。只野仁成に治癒魔法は効きません」

「…それはつまり、精神干渉も不可能ということだね?」

「おそらくは…。一応安全のために調べておきたいところではあるけど、それをすれば彼は此方を見限るでしょう。だから、景月陸将補も調べることも禁じています。貴方達も決して試さないように。彼の魔人としての力はいまだ未知数です。本人にはまだ魔力や魔導について教えていません」

「ん?そうなのかい。意外だね」

「本人がまず、此方の世界の常識や文化について学びたいと。魔導学に関しては、それらが学び終わってから集中的に学ぶつもりのようね」

「慎重だが、賢いね。まずは生活を優先か。魔獣はどうするつもりなんだい?」

「それについてはまだ何も。内一体は第四級相当の魔獣で許可が下りるかどうか。それに、彼は従属の枷を付けることも拒否しているのよ」

「なら、下りないだろうね。洛中内は皇族護衛用に契約を結んだ特別な聖獣か神獣以外は原則禁止。洛外も六等級以下で、朝廷が定める品種以外は持ち込みも不可。瘴気を取り込まない様に専用の魔道具と従属の枷を、等級別に定められた数装着させる義務がある。他にも細かな管理規則もあるけど、この二つは必須だよ。もしそれらを一つでも破れば、最悪騒乱罪か反乱罪の容疑も掛けられるほど厳しく取り締まられている。私達が使役する魔物も同様だよ」

「そうなのよね。だから、上もかなり困ってるみたいね」

「でも、それを許可するだけの見返りもあるんだろ?」

「あるわ。あちらの世界は科学技術がこちらよりも発展している。中には実現できれば、年間数兆円規模の利益を得られる技術まである。それら知識の取引条件の一つに魔獣への枷を付けないこと。だから、私達は何としても彼との関係を壊したくないの。出来る限り、魔獣の件も許可が下りないか、上層部と朝廷議会の右派が調整を繰り返している」

「分かった。ところで、週一くらいで貸してくれないかい?こっちにいる間だけでもいい」

「バイトの件ね…。本人次第としか言えないのよね」

「なら、交渉してもいいんだね?」

「いいでしょう。ただし、彼はまだこちらの常識に乏しいことに変わりない。接客はさせない。これは絶対条件です」

「もちろんだよ。私があの子に求めてるのは店舗内の整理だからね。正直、手が回らなくてね」

「そう言えば、さっきも言ってたわね。そんなに儲かってるの?通販事業だったかしら?」

「まぁ、少佐が想像するより遥かに儲かってるよ。特に外部の運送業者を使わずに、料金を少し割り増しにした自前の配送サービスを始めてからはうなぎ上りだね。そっちも人手不足になり始めたから、事業そのものを子会社化して従業員を増やすつもりで動いてる」

「顧客がそんなにいるの?」

「いるよ。隠れて模型やフィギュアの収集をしてる人はそれなりにいてね。外部の配送業者を使わない分、誰が買ったか分からない様に受け取れるのが嵌ったんだろうね。あとは、うちみたいに専門に扱ってる店は少ない。少しずつ印象は変わっては来てるけど、大手は自社の印象気にして参入を渋ってるのが現状さ。そのおかげで顧客の紹介や口コミで、うちみたいな専門店は年々顧客が増え続けてる感じだよ」

「そうなのね…」

「まぁ、うちみたいな親族経営や個人店舗は、初めから世間の目なんて気にしちゃいないからね。今のうちに事業を拡大してもいいし、老舗として地盤を確固たるものにするのもいい。波に乗り遅れる前にってやつだね」

 一月前の彼らなら、琴音の話をそんなことにはならないだろうと一蹴していたかもしれない。だが、二人は少し前に仁成からあちらの世界の言葉「オタク」と、サブカルチャー文化の流れを聞き知っている。

 だからだろうか、少しずつ変わり始めている時代が、波となって自分達の足元を流れていく気配を強く感じた。


 顔合わせは無事に終わり、二人を連れた琴音が店舗に戻ると、カウンター越しに楽しく談笑する仁成と末の従妹鏑木真衣の姿があった。

 カウンターには缶ジュースと菓子も出され、それなりに打ち解けているようにも見える。

「ほ~ん。じゃあ、君も裏で梱包地獄?」

「そだよ。今も注文に発送が追い付いて無くて大変なんだ。店舗に直接来るお客さんは少ないし常連さんくらいだから、今はまだ何とかなってるけど、その内誰か倒れそう」

「そうなる前に転職することをお勧めするよ。なんだったら、皆でその琴姉なるワンマン悪徳店主にストライキを起こすのもありだね。そうなれば、発注から発送に店番まで一人ですることになるから、少しは従業員のありがたみを噛みしめて、態度を改めるかもよ?」

「いいわねそれ。おばちゃん達に行ってみる。最近は琴姉が始めた配送サービスも重なって、皆疲弊してるからね。ここはガツンと分からせてやらないといけないわ。従業員も増やさないせいで、その皺寄せが私達に全部来てるんだから!」

「それは駄目な経営者だねぇ。ベンチャー企業で急激に成長したとかなら仕方ないけど、ある程度事業が成長して時間が経ってるなら、工数を減らす努力もしないまま人件費だけをケチるとは、どれだけ利益優先の悪魔か伺い知れる話だね。それこそ内部崩壊が始まってる証拠だよ。黒字倒産なんてこともあるし、早めに分からせた方が良いね。でも、話を聞く限り、既に危ないところまで来てる気がする。社畜根性は否定しないけど、潰れる前に本当に皆で転職を考えた方が良いよ?」

「う~、容赦ない突っ込み~。しかも、正論だから言い返せないよ~。ねぇねぇ、何ならカブキヤの社長になっちゃえば?」

 その後も真衣は、愚痴交じりにカブキヤのことを仁成に聞かせた。

 たまに仁成が真衣に共感する様に話し(情報)をさらに引き出し、会話は真衣の望むまま流れるように進む。

 それを陰から盗み聞いていた琴音は頭を抱えた。

「ちょっと雇うか迷っちまうねぇ…」

「乗っ取られそうだからか?」

「本当にそうなりそうだから困ってるんだよ…」

 里香子と一馬は、琴音のその姿に吹き出しそうになるのを必死に抑えるのだった。



 仁成が京都を満喫する一方、第20旅団上層部と一部の朝廷官僚の間では、月夜達について様々な事柄が検討されていた。

 その主な議題は、果たして枷失くして外に出して良いのかどうかというものだが、その他に魔物としての三体の能力や、今後の生末も話題の中心となっていた。

 現在、日ノ本でも世界基準に照らし合わせ魔物の等級の改変が行われ始めている。今はまだ八等級のままだが、この夏の国会で議案が可決され朝廷議会も承認したことで、来年度から現在の八等級制から十等級制に変更される。

 今は関係省庁の役人が、有識者や魔獣狩りなども交えて、制度移行前の最終調整に入っている段階である。

 それとは別に、日ノ本には大昔から魔の物を分けていた区分法が存在するが、今では一部の古い家や退魔の家系にのみ伝わる古い区分法。

 だが、それらの家でも時代の流れと共に正しい区分は失われ、そして忘れ去られた事柄も多く存在し、今では皇族さえもその全文を知る者はいない失われた区分法となっている。

 唯一、一部の家系が口伝にのみ伝え続けていることがある。

 現代で魔物と言えば、瘴気溜り周辺でも生きることが出来る動物や昆虫、魚類など生物を指す言葉だが、正確には違う。

 瘴気に順応する度に変異を繰り返し、()()()()()()()()()()()が正しい表現となる。そして、本物の魔物の強さは推し量ることが出来ないともされている。

 既に忘れられて久しい正しい魔の物を区分する法は失伝し、今は近代で新たに作られた等級による区分が主流となり、今もそれが続いていた。


 新たな区分法は魔物の変異と容、そして実際の能力が加味され八等級に分かれている。

 この近代区分法に照らし合わせ、月夜は四等級上位に区分されている。変異回数が最低でも四回。そこに月夜自身の能力、何よりも人語を理解する高い知性が考慮された結果である。

 その子供である琥珀と千影の二体は、変異回数こそまだ二回だが、変異箇所が複数存在する全体変異の予兆を二体共に見せていることから、将来の危険性も加味されて五等級下位に仮認定されていた。

 魔物を従魔にするためには等級別に厳しい制約が課されており、一般人の使役は原則禁止。例え貴人であっても、これを破る事は固く禁じられている。

 だが、何時の時代にも奢る者は現れるもので、今でもこの法を破り違法に使役する者がいる。直近では約三ヵ月前に、違法使役していた魔獣により家族と共に殺害された貴人がおり、周辺地域にも少なくない被害をもたらした。

 この事件も重なったことで、世論はますます従魔制度の見直しと禁止が叫ばれ始め、左翼団体や議員は少しずつ勢いをつけ始めていた。

 今のままでは月夜はもちろんのこと、琥珀と千影も外に出す訳にはいかない。世論の事も考えれば、少し余裕をもって月夜には四つ以上、琥珀と千影には二つ以上の枷を付けることが最良。

 だが、その枷は仁成が提示した情報開示の条件に抵触する。よって付けることが出来ない。

 偽の枷を用意するにしても、そう易々と用意できるものではない。もし枷が偽物と分かれば、自分達の立場が危うくなるどころか、それを機に完全民主化を掲げる最左翼の議員や運動家の格好の的になる。

 それは景月や朝廷も避けたいところだった。

 しかし、あるところから彼らが抱える問題の解決の糸口が、勝手にやって来た事で事態は大きく動くことになった。

 それは、仁成の誘拐と暗殺未遂である。

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