022「華の都 2」
御前朝廷会議から遡ること約二月前、仁成は花衣町内にある日ノ本軍の拠点を経由して町の外に出た。
月夜達は残念ながら、偽の従魔証が間に合わず拠点に残ることになった。だが、月夜達は特に文句も言わず、大人しく仁成の指示に従った。
仁成はやけに素直に応じた月夜を不審に思い、その理由を尋ねると単純明快な答えが返った来た。
『此処の方が過ごしやすい。食事も我らの好みを反映したものが出る。周りをうろつく煩い魔獣も少ない。しばらく厄介になる。あぁ、そうだ。雄にさわられたくはない。ブラッシングとシャワーは雌にやらせるように伝えておけ』
とのことで、拠点に残ることをすんなりと受け入れた訳である。
拠点は鎧を装備したまま動けるように改築されており、扉のほとんどが背の高い両開きのものに置き換わっていた。そのおかげで普通自動車並みに大きい月夜でも扉を潜って入ることが出来る。
そして仁成と共に、拠点内を案内されている最中に見つけた大部屋を陣取ると、あれやこれやと仁成に注文を付けて、部屋の模様替えという名の犬部屋作りをさせた。
もちろんのことだが、仁成は右腕が使えない。実際に模様替えを行ったのは第20旅団の魔導兵達である。
彼らはまず、大部屋内の机や椅子などを片付ける所から始め、動かせない棚はそのままに、中に入れられていた物を別の部屋に運び出す作業に移った。
その後、部屋全体が綺麗に清掃されると、仁成が注文していたキングサイズと一般的な大きさのマットレス二つが運び込まれ、月夜が示す場所に置かれた。
キングサイズのマットレスはもちろん月夜の寝床である。しかし、それでも月夜の方が大きかった。仕方なく仁成用に用意されていたマットレスを繋げてみたが、それでもギリギリだったため、後にもう一つキングサイズのマットレスが用意されることになった。
二つ目のマットレスが届いた時、既に仁成は拠点から去っていたため、月夜が満足気にしていることを、逗留先の民家で景月経由で聞かされて知ることになる。
その他、秋も終わりに近づく季節の境目、毛布やストーブなども持ち込まれたことで、警察署にいた頃よりも格段に快適で過ごしやすい部屋に変わっていた。なんなら、女性隊員達の細やかな気遣いがある分、仁成よりも好待遇で迎えられている可能性すらあった。
文句一つ言わず、月夜の我儘のために動く日ノ本軍の兵士を眺めていた仁成は、拠点から出立する前日、休憩所のブックラックの中に町で見つけたコレクションを数冊紛れ込ませた。仁成には珍しい純粋なお礼としての配慮のつもりだったが、数日もしない内にそれらコレクションはラックから姿を消すことになる。
仁成はこの時まだ知らなかったために起きた悲劇とも言えるこのコレクション紛失事件の犯人は、拠点に詰める女性隊員達だった。
魔導兵部隊は意外にも女性隊員が三割から四割近く占めている。拠点内に詰めている部隊にもそれなりにいる。そして休憩所は男女問わず使うため、ラックの中に紛れていた仁成コレクションを見つけた女性隊員の手によって排除された訳である。
その事を知り、まだ一度も見ていなかった男性隊員達の悲痛の叫びは、虚しくも紫色の空に吸い込まれ消えて行った。ちなみに、排除されたコレクションの行方だが、男子禁制が言い渡され、おいそれと手出しができない月夜達の部屋に隠されている。
女性隊員達の勢いに押されたことに加え、自分達の世話をしてくれる彼女達の願いを無碍にすることも出来ず、月夜も承諾せざる負えなかったと、後に仁成に語っている。
こうして、短いながらも拠点で久々の厚いシャワーを浴びることが出来た仁成は、月夜達の部屋の完成を待ってから、拠点を後にすることになるのだった。
拠点から関所までの道は整備されていることも有り、此処からは車両での移動になる。
仁成が乗り込んだ軍用の装甲車両は指揮所も兼ねるためか、魔物からの攻撃に耐えられるように装甲は分厚く、屋根には銃座と重火器が設置されていた。その他にも通信機器などの機材も揃っており、さながら小さな指令室と言った雰囲気の車だった。
仁成は入り込んですぐ、香に許可を貰って銃座に立ってみた。
「お~。映画とかでしか見たことないけど、こんな感じなんだ。あれ?これも魔導銃?」
「そうよ。基本的に魔物を相手にする場合は魔導銃が必須ですからね」
仁成は目の前にある縦の持ち手を握ると、軽く銃を左右に動かしてみた。
「普通の銃と全く違うね。トリガーがどれかも分からないや」
「普通の銃は引き鉄といってトリガーを引く方式だけど、重機関銃の場合は違うの。持ち手の間に板があるでしょ?触らないでね」
香に言われ、仁成は持ち手の間にある板状の部品を見る。
「それがトリガーなの。押し鉄と言って、そこに親指を乗せて下に倒すと射撃ができる。銃によっては引き鉄が採用されている物もあるけど、機構が複雑になるからほとんどの重機関銃は押し鉄が採用されてるの。撃たないでね?」
手を伸ばそうとした仁成を言葉で牽制しいた香は、そのまま仁成を銃座から引きずり降ろした。
「ははは。そこまで馬鹿じゃないよ~」
まるで悪戯がバレた子供の様に笑ってごまかそうとする仁成に対し、香の鋭い視線が突き刺さる。
さすがにやり過ぎたなと反省した仁成は素直に謝り、香から許しを貰った。
「それにしても押し鉄なんて初めて聞いたよ。こんなトリガーもあるんだね」
「そもそも重機関銃なんて、一般的な銃以上に触れる機会はないでしょうから、知らなくても仕方ないわ」
「出発準備整いました」
仁成が銃座で遊んでいる間に、拠点から撤収する予定の部隊全員が車両に乗り込み終わり、あとは部隊長の香の号令を待つの身になっていた。
「出発」
香の号令の元、予め決められた順番通りに日ノ本軍の走行車両が拠点から出発を始める。
仁成が載る車両は車列の真ん中に位置し、前を行く車両に続くようにゆっくりと進み始めた。
出発当初の風景はあまり変わらない。北の田園エリアと同様に、廃墟となった住宅地と荒れたまま放置された田畑の見慣れた景色が続く。
ただ町の中心と違って、拠点から続く道の舗装は修復痕があり、定期的に整備がされていた。
また、所々に拠点と同じ様に簡単な要塞化と整備が施された建物が点在していた。
仁成は道すがら、それら気になった点を渡辺香に質問していた。
それに対して香は、先に汚染区域について軽く説明を始めた。
汚染区域の範囲は基本的に汚染度2を基準に境界線が引かれ、高い壁と堀で囲んでいる。区域の出入り口となる要所には要塞化された関所が設置され、基本は関所以外からの出入りが出来ない様になっている。
花衣町の場合は、市役所にある瘴気溜りを中心に半径15㎞が汚染区域に設定され、境界には壁と堀が存在している。だが、一月前に発生した瘴気溜りの拡大によって、汚染範囲は20㎞に見直されている。
今はまだ既存の壁と関所を境界としているが、政府の決定次第では新たに関所が建設されるか、それとも現状維持に留まる可能性も十分にあるとのことだった。
仁成が数日留まっていたあの建物は、区域内の活動拠点兼避難所施設であり、区域内に複数点在している。普段は魔物狩りも利用する公共施設である。
「今は封鎖してるんだっけ?」
「えぇ、そうよ。だけど、魔物狩りの中にはそれを破って入る輩も一定数いるのが問題になってるわね」
「仕方ないんじゃない?そいつらだって生活あるんだろうし」
「確かにその通りなのだけど。今は拠点に月夜ちゃん達もいるでしょ?」
「あぁ~、まぁ~、そうなったらその時に考えれば?金…おサルさん二号と三号にはバレてるわけだし」
「あの二人は少し複雑な立場なの。それも含めて、自分達が置かれている状況を弁えてる分、信用は出来る魔物狩りではあるのよ」
今だ一緒に籠城していた金崎と小番の名前をおサルさんとしか覚えていない仁成だったが、特に香から指摘されることも無くスルーされる。
香達は金崎達を拠点まで護送した際、朧の記録映像から何故仁成が二人のことをおサルさん呼ばわりしているのか知っている。
その映像を元に取り調べを受ける二人の顔は、何とも言えない複雑な顔をしていた。それとは対照的に、取り調べを担当した隊員は不謹慎とは思いながらも、噴き出す場面が多々あったと聞く。
「ほ~ん。まぁ、どうでもいいかな。興味ないし。そういえば、峠からこっちは魔物がかなり少ないし、整備もされてるんだね」
「それは、定期的に私達が間引いてるからよ。街の中心市街地に比べて汚染度の低いこの辺りは、普段なら魔物狩りが隊を組んで巡回しているの。私達の仕事も同じだけど、此処よりも奥のエリアの巡回や山林の中、または強個体の討伐をして、住み分けている感じかしらね。あと魔物狩りはエリア外に出た魔物の討伐も委託されてるわね」
「ほ~ん。魔物狩りも大変そうだね。おっ!あれが壁?」
話を聞きながら窓の外を眺めていた仁成は、遠くにそれを見つけた。
徐々に近づく壁は、香の話通り町を囲むように延々と続いていた。
「本当に壁で囲んでるんだね」
「えぇ。私達ほどではないけど、瘴気耐性の高い兵士が監視塔に配置されて、常に魔物の動向を監視してるわ。城壁の上には対魔物用に重火器も設置されてる」
「更地にしてる理由は?」
ある地点を境に、風景は一変していた。
それまで存在していた民家を含む建物は一切無くなり、田畑も雑草が焼かれるか、刈られている。木も切り倒され伐根までしている徹底ぶりである。
「見通しをよくするためと、魔物が廃墟や林に棲みつかない様にしているの」
町を囲む壁から、約500m前後を基準に空白地帯が作られ、壁を築きにくい森林や山などには、電流柵と感知柵が張り巡らされ、魔物が壁以外の場所から外に出ない様に対策が施されていることが、香は説明した。
その徹底ぶりに、仁成は思っていたよりもこの世界は危機的状況にあるのではないかと感じた。
それから数分で車列の先頭が関所に到達する。一台ずつゆっくりと関所の門を通過し、仁成が乗る装甲車の番になった。
門の手前で止まった車両に、朧とは違う形の鎧を身に付けた数人の兵士が、車の周囲で何かを確認する様に周り始めた。
「何で止まったの?」
「小型の魔物が、車の下に隠れていることがあるの。それを目視で確認している所よ」
止まって一分もしない内に通行許可が下りると、仁成を乗せた車はゆっくりと関所を通過していく。
トンネルと言った方が正しいのではないかというほど、分厚い壁の中を通過すると、車列は誘導員に従って駐車場に入って行った。
先に到着していた隊は既に車から出て、隊毎に隣接する施設に向かっていた。
「この施設で体内汚染度を測り、個別に必要な措置を受けることになる」
「俺も?」
「今回は車の中で待機していて。逗留先で測ります。今はまだ、君が町の外に出ることは伏せないと、色々と危険ですからね」
「ほ~い。なら待ってるよ」
だが、香達は駐車後もしばらく車から降りることなく、計測が終わって戻って来た隊と入れ替わる形で施設に向かって行った。
「…信用されてるねぇ」
少し嫌味っぽく呟いた仁成の言葉に、交代で車に入って来た隊員達は噴き出す。
「それは勘違いだ。坊主」
「どゆこと?」
古参兵っぽい雰囲気の隊員が、笑いながら仁成の勘違いであると指摘する。それに合わせて、他の隊員もそれに同意するかのように頷き合っていた。
「坊主がここに居ることを掴んでいる者がいるかもしれない。安全な場所に到着するまで、一人にしない様にしているんだ。相手が手段を選ばない事を、お前さんなら身をもって知ってるだろ?」
「あぁ、そう言われたら確かにそうだね。キーキーうるさかったことしか記憶にないけどね」
「ウキッとウホッだったか?」
「あれれ?何で知ってるの。おサルさん二号と三号から聞いたのかな?」
「いや。この朧にはカメラも仕込まれているんだ。そのおサルさん二人の朧に残っていた映像と音声記録を見て、皆知っている」
熟練兵の男は朧の胸元を指で叩きながら、暗にそこにカメラがあることを仁成に教えた。
「そう言えば、警察署で話してた時に渡辺さんが言ってたな。忘れてたよ。なら、俺が苦労して意思の疎通を図ろうとしてる所も知ってる訳ね」
「そうだな。一番沸いたのは、金崎達が7.62㎜弾がないか坊主に聞いてる所だったな」
「あぁ、あれには俺も笑わせてもらった」
「私も腹を抱えて笑ったわ。君の「下に一杯」。たしかにそうだけど、あの状況で冗談を言うんだもん」
「でも残念なのは、それを言われた時の金崎達の表情が映ってなかったことだな。取り調べした奴の話だと、二人共その場面が映ると苦虫を嚙み潰したような顔してたらしいぞ」
「それなら俺も聞いた。というか、終始不機嫌だったらしいぞ」
「まぁ、同じ立場なら笑えないだろうな」
「皆、ぶっちゃけ過ぎじゃない?カメラあるんでしょ?」
「あぁ、それなら大丈夫だ。今は小僧、お前さんを秘匿するために切ってるからな。…所で聞きたい事がある。何とも思っていないのか?」
古参兵の質問は曖昧だった。だが、仁成は何を聞かれているのか正しく理解していた。少しだけ考えるそぶりを見せた後、仁成は口を開いた。
「ん~、そうだねぇ。あれを選ばせたのはあっちだよ。とはいえ、やったことに対して全く責任がないとも思っていない。けど、一方的に悪人呼ばわりされる謂れも無い。俺は自分の身を自分で護っただけ。それ以上でも、それ以下でもない」
「だが、それでもあれは過剰だったと思っている奴も少なからずいる。それについては?」
「過剰だというなら、俺と同じ状況に放り込んでそいつに選択させるかな。法や道徳がどうとか悩んでるうちに拘束され、意思を封じられ、人形にされて使い潰される奴隷になりたいなら、そいつの言ってる事は正しいかもね。ただ…」
仁成は少し間を置くように黙り込んだ。だが、誰も続きを催促しない。ただ静かに仁成の次の言葉を待っていた。
「俺に人を殺す選択をさせた奴等には、相応の報いを受けてもらう」
その声色は、これまで何処か軽い雰囲気を持つ仁成からは考えられないほど冷徹で、誰にも邪魔はさせない確固たる意志を彼らに感じさせた。
「そうか。まぁ、人を殺すことも仕事の一部の俺から言えたことでもないが、あんまり深追いするなよ」
「普通、そこは止めるもんじゃないの?」
「いやぁ、俺も同じ立場なら迷わず自分を優先するからな。仲間が一緒なら、なおさら迷わないだろう」
「そんなもんか。まぁ、命まで奪おうとかは考えてないよ。地味な嫌がらせを延々と続けてやろうかなくらいだよ」
「地味な嫌がらせねぇ。例えば?」
「ふふふ。その内、分かるよ。それよりさ―――」
悪戯小僧のようでいて、悪魔にも見えるそのいやらしい笑顔で仁成は答えを言わないまま、話題を切り替えた。
それから渡辺達が戻るまでの間、仁成は彼らと他愛ない話で時間を潰すのだった。
約三カ月後、日ノ本が誇る歴史ある遺物数点が、遠く海の向こうにある異国の地にて、新年最初に開かれたオークションに出品された。
見る者が見れば、それら遺物が由緒ある日ノ本氏族や旧家に所縁のあるものばかりだということに気付いただろう。
しかしこの時はまだ、これが仁成が仕掛けた嫌がらせだとは気付いた者は少ない。あの日、仁成の冷徹な覚悟を垣間見た隊員達が気付く訳もなく、この出来事が仁成の仕業だと知ったのは、だいぶ後になってからだった。
町の外に出たからと言って、仁成が自由にそこらを歩き周る訳にはいかない。だが、仁成が最初に連れていかれた場所は、何の変哲もない住宅地の一角にあるマンションの一室だった。
「木を隠すなら森の中というけど、大胆だねぇ」
仁成が感嘆の声を上げたのも無理はない。彼が連れて来られた場所は、日ノ本皇国が誇る華の都にして、天皇御所がある首都『京都』。洛外ではあるものの、仁成の身柄を狙う輩も居を構える街だった。
「まだ君は花衣町にいると思われているからな」
「間抜けだねぇ」
マンションの高層から見る京の都は、仁成が知る古き良き風情を残した街並みとは違い、近代化の波に飲まれた都会そのものだった。
だが、洛中とその周辺地域は『御所を見下ろすことなかれ』の御触れ通り、御所よりも高い建物は一つもない。古都らしい街並みが広がっている。
「ようやく会えたな。この日を待ち侘びていたよ。私は日ノ本陸軍第20旅団旅団長、景月徹陸将補だ。天月軍曹の救助、並びに朧と雷電の回収まで行ってくれたこと。そして甲牙の討伐に感謝を述べたい」
隣に立つ男に相対した仁成は、意外にも自分より背の低い景月を少し見下ろす形で初対面を果たすことになった。
「初めまして、只野仁成です。こちらこそ、感謝します。色々と便宜を図ってくれたとのことで、景月陸将補殿」
仁成から差し出された手を、景月は仁成の肩を気遣う様に優しく握り返した。そして、お互いに意味深な笑みを浮かべる。
「気にする必要はない。こちらも思惑あってのことだ。君が収集していた遺物も存分に活用させてもらうが、本当にいいのかね?」
「いいですよ。俺が持ってても活用する手段も地盤も何もない。それを活用できそうな知り合いと言えば、貴方か望月教授くらいしかいませんからね」
「ならば、遠慮なく使わせ貰うとしよう。君の立場も固めるためにも、活用することを約束する」
「えぇ、お願いします。それにしても、やっぱりここは異世界何だなぁと思っちゃいますね」
「そんなに違うかね?」
景月から窓の外の風景に視線を戻した仁成は、道路を走る車や街並みを見て、改めて自分の知る世界ではない事を想い報せれていた。
「もの凄く違うという訳じゃないんですよ。例えば車。見慣れたロゴは一つもないし、形も少し違う。俺の世界だと少し古いんですよね」
「古い?」
「あっちだと30年か40年くらい前に主流だった形だったかなぁ」
仁成が生まれた時には既に排ガス規制が定められ、車はハイブリット化や電気自動車化が進んでいた。さらに燃費を底上げするために、形も自然と流体力学を意識した流線形や丸みのあるものに変化していた。
だが、此方の世界の車は角張ったデザインの物が多い。まだ燃費や排ガスに意識が向いていないのか、それとも別の手段。例えば、魔導技術で解決しているのかもしれない。
「それほど前か。ちなみ今はどのような形になっているだい?」
「もっと滑らかと言えばいいのかな?角により丸みを持たせたり、流線形を意識した形が多いですよ。空気抵抗を減らして燃費を底上げ。あと電気モーターを併用したハイブリット化も主流だったかな」
「かなりあちらの世界は進んでいるんだな」
「そうかな?世界が違うんだから、歴史も違うでしょ?それにあっちの世界にはいた天才や技術者が、こっちの世界では生まれてすらいないかもしれない。そう考えると、数十年くらいの技術レベルの違いなんて誤差だと思いますよ」
「ほう。君は数十年を誤差と考えるか。おもしろいな」
「何れはこの世界でも、誰かが辿り着く考えや技術ですからね。技術革命の波が来れば、それこそ追いつくどころか追い越すかもしれない。こっちにはあっちには無い魔導技術があるんだし、意外にその波が来るのも早いかもしれない」
「それは、協力してくれると受け取っていいのかな?」
「快適な生活のためには、文明の発展が不可欠だからね。それに、俺も魔導には興味あるから、教えてもらうお礼的な?ものと思ってくださいよ。ただ、専門知識なんてない。あるのはぼんやりとした枠組みだけ。それで良ければ協力するよ」
「それで十分だ。こんな技術があった。こんな出来事があってこうなったなど、曖昧でもいい。それによって国力が上がる切欠となるかもしれない。その代わりに、君が学びたい魔導学についても便宜を図ろう。ところで、魔導学を学んで何かしたい事があるのか?」
「まだ容にはなっていないけど―――」
・・・・・・・・・・
「なるほど、面白そうだ。それなら望月教授とも話が合うだろう。彼もその手の話が好きだったはずだ」
仁成の野望を聞いた景月は、望月和彦の名を出した。魔導学の権威にして雷神の二つ名を持つ天才魔法士。そこに、並行世界の日ノ本の知識と発想を持つ仁成が組み合わされば、実現可能かもしれないと思ったからだった。
「う~ん。そうなると…やはり聖典を教授に献上すべきかな?」
「それは、君次第だろう。渡せば、何でも君の希望を叶えてくれるはずだ。それと伝えておこう。あとで知って後悔されても気分が悪いからな」
「?」
「確か魔法生活だったな。その雑誌は廃刊が決まっていて、その年の年末まで出版される予定だった。だが、それを待たずに出版社が潰れてしまってな。君が持っている号が実質最期の出版物になった。印刷所に持ち込まれてすぐの出来事で、印刷も即中止になった。それから仲介業者が代わりに、予約されていた部数だけ印刷を決めて刷られた。一般販売は一切されていない幻の最終号というわけだ。さらに運が悪いことに、仲介業者の子会社の手違いで一部が破棄されてしまってな。出回った数は100にも満たない。今では収集家の間で、雑誌とは思えないほどの価格で取引されている」
「ちなみにお幾ら位?」
「調べさせたが、状態の良いもので100万は軽く超える価格で取引されている。ただ、これは個人間での取引価格だ。オークションに出せば、それを上回る可能性もある」
「…うーん。100万…。確かに雑誌にしては高いけど、それくらいならバイトで稼げるし、教授に貢いであれこれ協力して貰う方がいいかな」
「こちらで連絡しておこう。それと、君の持つ携帯型通信機器なのだが…」
「譲ってもいいよ」
「いいのか?」
「その代わり……」
「その代わりに何かな?出来るだけ君の希望は叶えるつもりだ。金銭でも、何か欲しいものがあれば遠慮なく言ってくれ」
「では…、遠慮なく」
景月の言葉に、仁成は景月に対し真剣な眼を向けた。その鬼気迫る眼力に、景月だけでなく、彼と仁成の護衛までもが緊張した面持ちで、仁成を見詰め返していた。
「(どの様な要求が来ようと、受け止めよう。さぁ、君は何を対価に欲する!?)」
皆の視線が集中する中、意を決したように仁成の唇が動いた。
「チェリーにも優しく手解きしてくれるプロの女優。巨乳かつ背の高い美人のお姉さんで卒業したいから、紹介よろしくお願いします!!!」
三人集まれば姦しとはよく言うが、もしそれが六人になれば二乗になるのだろうか。
花衣町の拠点のとある一室で、まさにそれを体現するかのように、六人の女性隊員が集まって月夜達の世話をしていた。
拠点内でも一際大きいその部屋で、二人ずつに分かれた彼女達は手に持つブラシで、それぞれ推しの毛並みを丁寧にブラッシングをしながら、あるものを肴に盛り上がっていた。
「見てよ、この娘。スタイル良すぎじゃない?」
「どうせ、胸に詰め物でもしてるんじゃないの?」
「いやいや、それならもっと形が不自然になるでしょ」
「それにしても、あの子凄いわね」
「誰のこと?」
「成人雑誌の持ち主よ」
「で?」
「考えもみなさいよ。四級クラス異常の魔物が平然と闊歩する警察署で暮らすだけでもやばいのに、成人雑誌を探す余裕まであったってことでしょ?」
「…まぁ、確かにそうね。普通、こんなものより先に必要な物ありそうよね」
「田中軍曹が少し話して聞き出したらしいんだけど、警察署にまだ残ってるらしいわよ?」
「十代の性欲。恐るべしね」
「何だか少し可愛くなってきちゃったかも。今度誘ってみようかしら?」
「あんたはだめよ。見てみなさいよ。雑誌に挟んである付箋、巨乳の娘しかいないわよ」
「…あんのっ、クソガキめっ!今度会ったら絞め上げて殺る!」
「「あははははは」」
ブラッシングの手は止めず、仁成のコレクションを見て盛り上がる女性陣。
それを横目に月夜は、仁成がこのことを知った時、どんな顔で彼女達と接するのだろうか想像しながら、目を細めてほくそ笑むのだった。
補足:月夜達が女性隊員にブラッシングを受けていますが、これは仁成が治癒魔法を意図せず弾いた場面を見ていた月夜が、身体中に魔力を張り巡らせることで精神系魔法を弾けることを知ったためです。魔物は人よりも魔力を自然に操れます。琥珀たちにも教え、既に三頭とも身体強化の要領で、魔力を身体中に張り巡らせて対策を打っているため、ブラッシングを受けているという訳です。




