7ー4
「楽しんでもらえたか?」
選手専用の観客席にてドロシーの隣に座るマーリン。しかめっ面をする彼女を見て、その感情を引き出せたことに少年は笑みをこぼす。
「子供なのに凄いわって、言ってほしいの?」
「褒めてくれるのか?」
「別に」
「つれないな」
控え室に行ったのだろう。観客席にカナメがいなかった為、何となしに魔女の横へと座ったが、まさか会話に応えてくれるとは思ってもみなかった少年。
「退屈させないよう、面白い試合運びを意識したつもりだったが。魔女の胸には響かなかったか」
「面白いとか、楽しいとかって、何?」
無感情に言葉を紡ぐドロシーの横顔を少年はそっと見る。虚ろな目は闘技場を見下ろし、動きのない表情は他者を寄せ付けない何かを感じた。
「私は魔術をそういう風に感じたことはない」
「魔導以外の道は考えなかったのか?」
「ありえない」
断言するドロシー。
「魔術しか、私には価値がないから」
そんなつもりは当人にないだろうが、マーリンにはどこか寂しそうに聞こえた。
「鳥籠にいるようだ、お前は」
その箒は何のためにあるのか。
しかし、これ以上は何も言うまいと口を噤む少年。きっと前までの自分なら何も考えずに踏みこんでーーいや、そもそも隣に座っていないなと結論づける。
沈黙する二人の魔術師。
触れられる距離なのに、どこまでも遠い距離を少年は感じていた。
調子が狂うと、通路を歩きながらドロシーは思う。他人など路傍の石でしかなく、自分以外どうでもいいと思っていた筈だ。
『昨日はごめんね、ドロシーさん』
少年には伝えていなかったが、彼が座った場所には直前までカナメがいた。
『謝る必要はない、敬わなくてもいい』
『じゃあ、ドロシーちゃん』
『ちゃ……ドロシーでいい。……貴女の名前、なに?』
参加している選手の名前など覚えていない。
そもそも聞く必要がなかった。
それは覚える必要がない情報。
無駄な知識は術式の邪魔でしかない。
でも。
名前を聞かれて、嬉しそうに笑った彼女を見てーー
『わたしはカナメ。ブリタニアから来たの』
そこからは、他愛ない遣り取り。
きっと何の為にもならない会話。
そこにどんな意味があったのかドロシーには分からない。
いま彼女に分かることは。
「これより午前の部、最後の試合を始めます!」
目の前の羽虫を、叩き潰すことだけ。




