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少年のマーリン  作者: 相澤カナデ
第7話 アラディアの死闘 中編

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99/135

7ー4



「楽しんでもらえたか?」


 選手専用の観客席にてドロシーの隣に座るマーリン。しかめっ面をする彼女を見て、その感情を引き出せたことに少年は笑みをこぼす。


「子供なのに凄いわって、言ってほしいの?」


「褒めてくれるのか?」


「別に」


「つれないな」


 控え室に行ったのだろう。観客席にカナメがいなかった為、何となしに魔女の横へと座ったが、まさか会話に応えてくれるとは思ってもみなかった少年。


「退屈させないよう、面白い試合運びを意識したつもりだったが。魔女の胸には響かなかったか」


「面白いとか、楽しいとかって、何?」


 無感情に言葉を紡ぐドロシーの横顔を少年はそっと見る。虚ろな目は闘技場を見下ろし、動きのない表情は他者を寄せ付けない何かを感じた。


「私は魔術をそういう風に感じたことはない」


「魔導以外の道は考えなかったのか?」


「ありえない」


 断言するドロシー。


「魔術しか、私には価値がないから」


 そんなつもりは当人にないだろうが、マーリンにはどこか寂しそうに聞こえた。


「鳥籠にいるようだ、お前は」


 その箒は何のためにあるのか。

 しかし、これ以上は何も言うまいと口を噤む少年。きっと前までの自分なら何も考えずに踏みこんでーーいや、そもそも隣に座っていないなと結論づける。

 沈黙する二人の魔術師。

 触れられる距離なのに、どこまでも遠い距離を少年は感じていた。





 調子が狂うと、通路を歩きながらドロシーは思う。他人など路傍の石でしかなく、自分以外どうでもいいと思っていた筈だ。


『昨日はごめんね、ドロシーさん』


 少年には伝えていなかったが、彼が座った場所には直前までカナメがいた。


『謝る必要はない、敬わなくてもいい』


『じゃあ、ドロシーちゃん』


『ちゃ……ドロシーでいい。……貴女の名前、なに?』


 参加している選手の名前など覚えていない。

 そもそも聞く必要がなかった。

 それは覚える必要がない情報。

 無駄な知識は術式の邪魔でしかない。

 でも。

 名前を聞かれて、嬉しそうに笑った彼女を見てーー


『わたしはカナメ。ブリタニアから来たの』


 そこからは、他愛ない遣り取り。

 きっと何の為にもならない会話。

 そこにどんな意味があったのかドロシーには分からない。

 いま彼女に分かることは。


「これより午前の部、最後の試合を始めます!」


 目の前の羽虫を、叩き潰すことだけ。



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