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少年のマーリン  作者: 相澤カナデ
第7話 アラディアの死闘 中編

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7ー5





 不幸は雨のように突然降りかかるものだとクレイ・ディールは知っている。幼い頃に姉が魔物に殺され、その瞬間から彼は復讐だけが生き甲斐となった。

 エルドラに巣食う魔物全てを滅ぼす。それだけを胸に寝る間も惜しんで魔導にひたすら励み、ギルドに登録して僅か一年、彼は若くして三等級の術師に昇格した。そんな、未来を有望視される彼には理解できないことが、許せないことが一つだけあった。

 それは魔物との共存。

 飛竜や游鯨(ゆうげい)、市民達が移動の際、当たり前のように魔物を利用するそんな社会に、彼はどうしようもないほどの怒りを感じていた。ギルドでも討伐に向かう際は飛竜の移動を推奨しているが、彼はどれだけ時間を掛けても馬で済ませている。それを不便だと思ったことはない、いつ飛竜が、魔物が、人間を裏切るのか分かったものではないからだ。

 澱のように溜まる暗い感情は幾ら魔物を討伐しても晴れはしない。胸に灯る復讐の火は絶えていないというのに、遣り場のない葛藤がクレイを苦しめた。

 エルドラが正しくて自身が間違っているのか。

 だとしたら姉の想いは一体何処へ行くというのか。

 色褪せた日々を過ごしている中、偶然にも討伐先でジンと出会ったクレイ。彼が飛竜での移動をせず馬でギルドに帰ろうとしたとき、理由を尋ねた。


『嫌いなんですよ、魔物が』


 ジンに、(ひかり)を見たクレイ。

 その言葉がどれだけの救いだったか。


 間もなくして、ジンが入信してるというアテナ教に迷わずクレイは身を置くことにした。そこには自身と同じような悩みを抱える同志が沢山いて、社会で孤立したような寂寞感はいつの間にか消え失せていた。

 そして募っていた魔物に対しての憎しみはいつしか教団にも覚えるようになって、彼をより苛烈な思想へと変貌させる。アテナ教はエルドラ魔導教団の在り方を否定し敵視する、その考え方はクレイにも染み込んでいく。

 気付けば魔物よりも人に苛立つことが多くなったような気がする。アテナ教の理念が絶対だと信じているクレイにとって、布教活動に反感を覚える人間が理解できない。ジンと同志のミレイユの三人でアラディアに来て、数々の魔術師に入信するよう勧誘したが思うように上手くいかない。

 何故、魔物を信じられる?

 どいつもこいつも頭が狂っているのか?

 目の前の、



「クレイ選手、ダウンー!」



 目の前の、魔女も。

 何故、理解しようとしない?


「はぁ……はぁ……ぐっ」


 地に伏した身体を起こす。

 鉄の味がする。

 吐き出して、赤いものが辺りに飛び散る。

 それは、単純な暴力だった。

 鉄塊と化した箒に殴られ続け、圧倒的なまでの実力差を見せつけられる。


「何故」


 怒りがおさまらない。

 暗い感情だけがクレイを支配する。


「何故、理解しないんだ……! それだけの力があれば、いまのエルドラを変えられるというのに!」


 赤色の眼差しが、クレイを見る。

 伽藍堂な、何もない暗闇を覗きこんでいるかのような目。


「貴様はこのままでいいのか!? 魔物と共存するこの国を許せるのか!? こうしてるいまも誰かが魔物に殺されてる! そんな化物と一緒に日々を過ごせるのか!」


「人だって人を殺す」


 防御の魔術を張る前に、思い切り殴られては吹き飛ばされるクレイ。


「魔物と変わらない」


「がっ……は、……」


「国を変えたいなら勝手にすればいい。それを自分でしないのはーー」


 雨のような、冷たい声。


「ーー貴方が弱いだけでしょ」


 突き刺すような痛み。

 それが殴られたことによるものか、言葉によるものか、意識を失うまでクレイには分からなかった。



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