7ー6
闘技場の外にいるマーリンに声を掛けたヒバナ。いつ出てくるのか、会えなかったらどうしようとか、そうした不安があったものの無事、話ができて安堵する。
「もう行くのか?」
「はい。午後の部も見ておきたかったんですけど、昼じゃないと飛竜がとれなくて」
明日も仕事で憂鬱なヒバナ。
本当は彼の勇姿をもっと目に刻んでおきたかった。
残念だと言う彼を前に別れを惜しんでいると、気付けばカナメが誰かと会話を交わしている。見れば、会場で話題になっていた魔術師のーー
「マーリン、ヒバナさんを送って?」
「ああ、それは勿論」
「わたしはドロシーとご飯食べに行くから、また後でね」
「は? おいカナメーー」
少年の言葉を待たずして、カナメはドロシーを連れてこの場から去ってしまった。
……気を遣わせてしまった。
彼女はきっと気付いている。
この、気持ちを。
「行きましょう、マーリン君」
折角貰った時間を無駄にはできない。
「……そうだな。わざわざ応援しに来てくれたんだ、飯でも奢ろう」
「そんな、奢るのは私です」
「遠慮するな。こう見えて俺は歳上だぞ? ヒバナ」
悪戯に笑う少年を見て鼓動が高鳴る。
……本当に参る。
これが見れただけで来た甲斐があったとヒバナは思ってしまったのだから。
通りを歩きながら言葉を交わして、掛け替えのない時間を過ごす。人混みの中、はぐれないように手を繋いでも、いや、まだ関係が浅いのにそれを求めるのはもう自分の気持ちを吐露するようなものではないか? と自問自答するヒバナ。
横目で彼を見る。小さな背丈、人目を惹く容姿の美しさ。その中身があのマーリンなんて、周りに言っても誰も信じないだろう。けれどもヒバナはその話を聞いて疑うこともなく信じた。
いまでも覚えている。
孤独の中、巨大な魔物の口を前に突然、現れた少年の姿を。
あのときからずっとーー
「ま、マーリン君。手を……」
言いかけてふと、彼が立ち止まる。
見れば、魔術師御用達の道具屋を前に足を止めていた。
「少し寄っていいか?」
「あ、はい! もちろん!」
入れば木目調の店内には、露店とは比べ物にならないほどの品物が揃えられていた。真剣な眼差しでそれを眺めている少年。こうして見ると玩具を前にした子供そのもので、それが何だかヒバナにはおかしかった。
「マーリン君って、道具とか使うの?」
「いや、俺は使わない。カナメがな……」
そこで気付かされたヒバナ。
じっと品定めをする彼を見て仄暗い感情がこみあげる。
……羨ましいな。
「どうした?」
「ううん……何でもないよ」
首を振って笑顔を作る。
上手く笑えてるといいなとただただ願う。
こうして隣で過ごせるだけで、幸せな筈だ。
だからこそ、いまこのときを大切に過ごす。
一分一秒たりとも忘れはしない。
このほろ苦い感情だって私の大切な思い出だと、ヒバナは少年の手を握らなかった。




