7ー7
「ドロシー、苦手な食べ物とかある?」
「ない」
「肉と魚なら?」
「どっちでも」
「どっちでもかー」
帽子と箒を宿屋に置いてきたドロシーと食事処を求めて歩く。突拍子もなしに彼女を食事に誘ったが、まさか了承してくれるとは。どうして断らなかったのか思わず尋ねてしまうカナメ。
「貴女が嫌そうだったから」
「嫌そう?」
「あの場にいるのが」
少し動揺するカナメ。
「……分かりやすいかな、わたし?」
「うん」
「即答」
会って間もないドロシーがそう言うのだから間違いないのだろう。
うーんと唸るカナメ。仕事の合間を縫って、マーリンを応援する為に足を運んだ彼女の気持ちは分かっていた。そんなヒバナは自身のことを邪魔とは思っていないだろう、そう感じてしまったのは自分自身だ。
助けたのはマーリンで、救われたのはヒバナだ。
そこに介在する余地はない。
「難しいね、顔をつくるのって」
「そのままでいいと思う」
「え?」
「分かりやすいほうが安心できる」
ぶっきらぼうに聞こえるけど、その言葉は優しさに満ちている。きっと食事を断らなかったのも、昨日の件に恩義を感じていたのかもしれない。
「ありがとう、ドロシー」
「……礼はいい。それに、貴女と私は敵」
「それでもだよ。明日、戦うことになったとしても」
「……変わってるわ、貴女」
「え」
言われてちょっとショックを受けるカナメを見て、見逃してしまいそうなほどの一瞬。
魔女の口元が、微かに。
「笑った……」
「笑った?」
「うん、ドロシーやっと笑ってくれた」
ドロシーが不思議そうな表情をする。
口元に指をあてて、どこか戸惑っているようにも見えた。
暫くして漸く見つけた食事の場に二人は腰をおろす。通りを歩いてるときも、こうしてるいまもやはり彼女は人目を引く。当人は全く気にしていない様子で、その精神面を見習いたいとカナメは密かに思う。
「連戦じゃなければな、遠慮せずに食べられたのに」
時間が空くとはいえ一日で二試合を熟すのは体に堪える。体力だけでなく、手の内を晒さないように実力の温存も試合中に考えなければならない。
「私は遠慮なく食べる」
そう言い切ったドロシー。
余裕があるのだろう。選手の中でも彼女とマーリンだけは余力をたっぷりと残しているように見える。
「試合に響くよ?」
響いても問題ないから食べるのだろう。
分かってて言葉を吐いたカナメにドロシーが首を静かに振る。
「試合、ないから」
「はい?」
「言ってなかった? つぎの対戦相手ーー」
「試合を放棄するのか?」
闘技場の外にて、ベンチに座るウィリアムに聞き返したのはマルコー・マルクス。互いにベスト8まで残った二人の選手が重々しい雰囲気で向き合っているその姿に、周囲の人間は遠巻きで眺めていた。
「考え直せウィル。何のためにここまで来た?」
そっと彼の隣に座るマルコー。
家族間の交流があり、仲睦まじい二人の父親は五十歳を迎えていた。互いに白髪と顔の皺は増え、それでも肉体は常に魔物と闘えるよう鍛え抜かれている。若いものにはまだ負けない、その精神をもって闘技場では毎年順位の高い結果を二人は出していた。今年だってそうだ。久しぶりに二人で、しかもベスト8にまで残ったというのに、目の前のウィルは喜ぶどころか意気消沈し、その目に宿っていた闘志の炎は吹けば消えそうなほどに弱まっている。




