7ー1
魔術闘技場、二日目。
前日と変わらずアラディアの早朝は人通りが多い。少しだけ肌寒い風の中、お互いはぐれないように手を繋いで歩いていたマーリンとカナメ。目的の闘技場へ向かう道中、今日何度目になるか分からない黄色い声が少年へと掛けられていた。
「生で見るとやっぱり可愛いー!」
「こっち見てー!」
「マーリンちゃん頑張ってー!」
「ちゃんはやめろ」
主に女性の方から声を掛けられてることにカナメは複雑な表情をしていた。昨日の試合が終わったあと、食事処へ向かう際もその帰り道も声を掛けられていた少年。彼ほどではないが、カナメも応援の声を貰ってはいた。
「応援されてるね? 特に女の子から」
「……何か棘がある言い方だな。でもまあ悪い気はしない」
「はいはい、そうですか」
「ブリタニアでも声援は貰っていたが、あの頃は何も感じなかったからな」
遠い目をするマーリン。
「凱旋の際、民の声などまるで聞いていなかった。頭にあったのは常に魔術だけ……いま思い返しても最悪な態度だ。でもこの姿になってから、カナメと旅をするようになってから、素直に喜べることを知ったよ」
「マーリン……」
嫉妬してた自分が恥ずかしくなるカナメ。まさかシリアスな話へ舵を切られるとは思ってもみなかった。だがそれはそれとして、わざとらしく髪をかきあげては女性陣に向かって微笑むこいつは間違いなく調子に乗ってると思う。
繋いでいた手を離す。
「あまり良い気になるなよ」
「カナメさん、こわい」
「ちょっと可愛い仕種で怖がってるフリ、やめてね?」
わたしに効くからと息を吐くカナメ。
何気ない会話をしながら闘技場の入口付近に足を運んだところで、見知った顔がそこにはいた。
「マーリン君!」
「ヒバナ」
ヒバナ・クロフォード。
アメリア平原にて魔物に襲われているところをマーリンが助けた教団所属の魔術師。
彼女がとびきりの笑顔で少年のもとへ駆け寄ってくる。その際、大きく揺れるモノにカナメは苦い顔をしていた。
「どうしてここに?」
「おにい、んんっ、アッシュ隊長から聞いたの。マーリン君とカナメさんが闘技場に出るって。それを聞いて、いてもたってもいられなくて」
「わざわざ応援しに来てくれたのか。ありがとう、ヒバナ」
少年の言葉に、はにかむヒバナ。
……めちゃくちゃ可愛いんだよなこの子とカナメは素直に思う。嫌味のない愛嬌、本人の努力が見える体つき。ほとんど会話をしていない自身の名前すら覚えていて性格の良さも窺える。
「今日一日しかいられないけど、全力で二人を応援しますね。……それと、マーリン君」
「うん?」
「本部から通達があったんです。その、マーリン君はあの、ブリタニアの……」
「ああ、アイザックから聞いてるよ。正体を伏せていて悪かった、ヒバナ。口止めまでしてもらったのに」
「いえ、そんな……! 聞いたときは色々と腑に落ちました。マーリン君はあまりに大人びていたから。……その、マーリン君じゃなくて、マーリンさんって呼んだほうが」
「いまさらやめてくれ、むず痒い。変わらずそのままで頼む」
それを聞いて嬉しそうに笑うヒバナ。
ちょっとの間、会話を交わしてから二人に頭を下げ、観客席側の入口へと向かっていった。
「ひとたらし」
「言われると思ったよ」
「マーリンちゃんはひとたらし」
「ちゃんやめてね」
そんな遣り取りを交わして選手の控え室に向かう二人。
自分達を含め十六人の魔術師が今日も争う。
午前の部。
二回戦が、始まろうとしていた。




