6ー16
開戦の合図と同時に、右手の指を全て敵に向ける。
魔術、爪爪。
一瞬にして伸縮する五本の鋭利な爪が、目に見えぬ速度で敵に遅いかかる。
ーー予選と本戦では相手との距離が違う。
マネー・マネーは真ん中にいたが本戦は端と端だ。接近戦が得意な術師にとって不利に働くルール。
利用しない手はない。
一方的に遠くから嬲ってやる。
一歩、ゆらりと、まるで幽鬼のようにふらつくカナメ。
不気味な感覚がアンジェリカを襲う。
「おおっとー!? カナメ選手、僅かな動きでアンジェリカの爪爪を躱したぁー!」
実況と観客が盛り上がる。
ただの偶然だ。
見れば、カナメは紫電を纏っていない。
刺突をする態勢で、縮んでは伸ばしてを繰り返す爪。
……当たらない。
見てから躱せる速度でもないのに、どうして。
「カナメ選手が躱す、躱す、躱すぅー! 凄まじい反射神経だー! 魔術を使ってるように見えないがー?」
観客が沸く。熱を帯びた視線が全てカナメに注がれるのを感じたアンジェリカ。
ーーその視線は私のモノなのに!
両手を駆使し、十の爪がカナメを突き刺そうとしてーー弾かれた。懐から短刃を取り出して、それを振るい、華麗に躱す。
敵と目が合う。
ただならぬ殺意がそこにはあった。
「ひっ……!」
怖い。
ゆっくりと近付いてくるカナメ。何やらぶつぶつと呟やいてるのが聞こえてきた。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
怖い怖い怖い。
爪爪を解除し、両手の指先に魔力を集め、腕を交差して思い切り振るう。
爪葬。
十にも及ぶ、広範囲の風の刃。
カナメに当たる寸前、彼女がとった行動はーー
「と、翔んだー!?」
信じられないほど高く跳躍し、爪葬を回避したカナメ。難なく着地を決めた先は、アンジェリカの目の前だった。
「オネエサン、いいモノぶらさけてるネ?」
酒場にいるオジサンと同レベルの猥褻な言葉に、苦笑いするアンジェリカ。
「ひ、貧乳でも好きなひとは好き、ぶっ」
頬に強烈な殴打。
地面に倒れ意識が薄れていく中、またもや殴りかかろうとするカナメに「ストップストップ!」の声が掛けられる。
……トラッシュトークはほどほどにしよう。
一人反省をして、アンジェリカの意識はそこで途切れた。
「勝利おめでとう、クールビュ、」
「マーリン」
音をたてて隣に座る彼女に少し肩が震えた少年。一回戦お互い無事に勝利し、めでたい空気の筈が何故かここだけピリピリしている。
「わたし、いまめちゃくちゃ機嫌が悪いの。言いたいこと分かるよね」
「あ、はい。すみませんでした」




