6ー15
「あら、ごめんなさい。もしかして気にしてたかしら?」
ぷるぷると肩を震わせるカナメの姿を見て貶すように笑うアンジェリカ。気不味そうなケニー・Jが一度咳払いをしてから「両者、位置について」と声を掛ける。
次いでギルドの術師が結界を張って、一対一の状況が作られた。
「レディ」
落ち着かない心のまま試合が始まろうとしている。まずは紫電を使おうとしたところで、致命的なことに気がつく。
……魔術が上手く発動できない。
「ファイト!」
不安定な精神で魔術を扱うことはできない、そんなことは知っている。だがどうしてもこの怒りを鎮めることはできない、目の前の巨乳を捉えては怨嗟を吐き続けるカナメ。
ユルセナイ。
魔術が使えない状況下、それならもうと吹っ切れたカナメが取った行動はーー
幼い頃からその美貌を振り翳し、数多の男を虜にしていたアンジェリカ。家柄もいい彼女に群がる男の中に心を満たすものは誰一人としていなかった。
試しに誰かと付き合ってみても退屈で仕方がない。それなら人間にではなく、趣味に走ろうと色々なことを学びーー直ぐに飽きては辞めてを繰り返した。これから先もつまらない人生を送るのだろうかと憂いていた十八の春、彼女はその光景に衝撃を受ける。
姉が人生で一度は行ってみたいと、半ば無理矢理連れてこられた魔術闘技場。気乗りしなかったアンジェリカだったが、観客席に座る姉があまりに楽しそうだったから何も文句は言えなかった。
アンジェリカには魔力があったが、魔術を学ぶことは両親から禁止されていた。「人には役割がある。我が一族が魔に関わることは一切禁ずる」それは幼い頃から父が口を酸っぱくして言ってきたことだ。父の両親は魔術師で、市民を魔物から守る為に犠牲になったと母から耳にしていた。きっと同じ目に遭ってほしくないから魔術に触れることを禁じたのだろう。
そうして、魔術闘技場の観戦を終えた彼女。
これまでの人生で関わりのなかった魔術に魅力を一切感じていなかったアンジェリカが得た感想は、普遍的なものに過ぎない。
ーー凄い。
シンプルで、けれど何よりも真実だ。
素人から見ても、それぞれの個性が映し出される魔術に美しさを感じた。術師と術師の真剣勝負、その輝きに熱中する国の民。そして何よりも、この感動を、衝撃を、そのまま終わらせることが彼女にはできなかった。
必ず、この舞台に。
数年後、誓いは果たされ、彼女はいま憧れの闘技場に立っている。父親との仲は悪くなってしまったが、それでも後悔はない。今年で三回目の出場、前回は本戦に辿り着いたものの、一回戦で直ぐに敗退してしまった。
一つでも勝利を。
その為なら何だってする。派手な入場で相手にプレッシャーをかけるし、精神を揺さぶるトラッシュトークだって惜しまない。
「レディーー」
対戦相手の情報は自身のファンから聞いていたアンジェリカ。
目に追えない速度で背後に回ってくるーー肉体強化の魔術。
だが、そこまで脅威ではない。
「ーーファイト!」




