6ー14
試合目前の魔術闘技場はとてつもない盛り上がりを見せていた。数え切れないほどの観客、その熱気はカナメがいる通路にまで及んでいる。
つい前まで魔物の血で汚れていた自分があんな舞台に立てるなんて誰が想像できただろう? 毎日毎日が同じことの繰り返し、救いの光が差し込むことのない世界で短刀を振るい続けていたのに、少年との出逢いからカナメの世界は一変した。
座ってる椅子は固く背凭れはない。
緊張しているのを自覚して、深く息を吸う。
出番を待っている間、今朝のことを振り返る。教団の隊長が忠告してきたことは到底看過できない話だ。オリヴィエを襲った術師が今後マーリンを狙うかもしれない、と。
ふざけるな、という怒りしかなかった。
オリヴィエが襲われたあの夜、クルミを相手にして傷だらけになったマーリンが脳裏に浮かぶ。
もう傷付いてほしくない。
その為には強くなりたい。
彼を守れるくらいに。
そして。
『今度は本気だ、カナメ』
約束を叶える為に。
誰にも負けるつもりはない。
「準備を」
運営関係者に促され、席を立つカナメ。
「第九試合目、選手入場です!」
少年と交わした約束を胸に、観客の前へと姿を見せる。
「本日二人目、海外からの刺客ぅ! 決して目を逸らすな、その美しさを見逃さないように! 電光石火のクールビューティー、カナメェェ!!」
躓きそうになる。
秒で覚悟が揺らぐ。
……おい誰だこんな恥ずかしい紹介を考えたひとは? 顔を真っ赤にしながら歓声を受けて闘技場に立つカナメ。いつも通りのパフォーマンスが発揮できるのか不安になってきたところで、対戦相手が姿を晒す。
ぞろそろと十人以上の人間が闘技場を導く通路みたいに並んでは、その真ん中を歩く綺麗な女性。金の長い髪を靡かせて、胸を強調した露出の多い衣服に観客席から卑猥な言葉が飛んでいた。
「今回もやってきた魅惑のスーパースター! 皆が釘付けなナイスバディ、今宵、どんな技を魅せてくれるのか? セクシーレディ、アァーンジェリカァァ!」
紹介を受けて慣れたように手をあげるアンジェリカ。歓声を浴びては蠱惑的な笑みを見せる彼女に観客、主に男性客の声がより一層大きくなる。
凄い人気だ。その雰囲気に呑み込まれそうになっていると「アナタ」と声を掛けられる。
「どこから来たのかしら?」
「え? ブリタニア、ですけど」
「ああそう。だからそんな見窄らしい服をしてるのね」
……安い挑発だ。
一息吐いて「そうですか」と言葉を流すカナメに、アンジェリカは煌びやかな爪を向ける。
その位置はカナメの胸を指していた。
「それに貧相な胸。私のを分けてあげたいくらい」
「……あ?」
そうして火蓋は切られた。
この女は◯す。
何故なら◯さないといけないからだ。




