6ー13
「アイザックと同じことを言うんだな! ここに来るまでの間、常に警戒してたのはそういうことか。ーー酷い勘違いだよ、ブラザー。アンタ、まるで俺を分かっちゃいない」
手を組み合わせながら、少年の顔を覗きこむマネー・マネー。
「確かに俺は金が好きだ。大好きだ。常日頃、札束の海を夢見るのは金があれば何でもできるからだ。愛も夢も金なくして手に入ることはできない。だがそんな俺でも金より大切なものがある。それが何だか分かるか魔術王」
「…………」
「俺さ。俺自身さ。マネー・マネーなくして愛も夢も見ることはできない。俺はね、ブラザー。ローリスクハイリターンな生き方を望んでる。仮にアンタらが言う敵と組んだとして、大金を見る前に俺はデメリットを見る。すると見えてくるのは地獄の扉、その手前だ。命をベットする程イカれてたら一級術師なんてなっちゃいない、とっくに棺桶の中さ」
「随分と現実的なんだな」
「現実と付き合うのが大人だろう? そういうわけで俺は誰かの敵になるつもりはない。ご期待に添えず残念だが」
組み合わせた手を解き、観客席に背中を任せては、今度は頭の後ろで手を組むマネー・マネー。その様子を見詰めるマーリン。
彼の言う通りだ。わざわざ一級術師の地位にまで昇り詰めた人間が、教団を敵に回すのはあまりに馬鹿げている。それに、彼がつけている装飾品は金に困っているひとの身形ではない。金に困って精神的に追い詰められているような人間がクルミ達に協力するのだろうと、少年は会話の途中で気付いた。
「しかしアンタもアイザックも思考が偏りすぎだ。普通に考えて、エルドラとブリタニアを敵に回すリスクを負うわけないだろ。魔術ばかりに目を向けてると他人の心が分からないのか?」
「……痛いところを突くな。最近、同じことを言われたよ」
だろうなと笑う声に返す言葉がないマーリン。
「まあ疑うのは大事だ、何も考えないよりはな。ただ考えてばかりいると大事なものを見落とすのが人生ってヤツだ。案外、答えはシンプルだったりする」
「俺と喋りたいと口にしていたが、裏はないと?」
「ないさ。……そんなに不思議か? 自分を低く見積もってるようには見えないが」
「?」
「ブリタニアだけじゃない、アンタはエルドラの英雄だ。教団の隊長格でも太刀打ちできなかった厄災を斃した、その伝説は広く知れ渡っている。そんなヒーローと話がしたい、そう思うのは普通だろ?」
「子供っぽい理由だな」
「いつまでも大人で居続けるのは疲れるのさ。たまには少年に戻るのも悪くない、いまのアンタのように」
闘技場に目を向ける二人。
見れば次の試合が始まろうとしていた。
「さて、試合を楽しむとしよう。是非、隣で聞きたいものだね、その名に恥じぬ解説を」
「期待はするな、エルドラの魔術にはそう詳しくない」
カナメの試合はまだ遠い。
ギルド職員に渡されたトーナメント表を懐から取り出して確認する。
マーリンとは反対のブロック。もし二人がぶつかるとすれば決勝戦での対峙となる。
『今度は、本気で』
先のことを想像して、口元に笑みが浮かぶ。
いまは目の前の試合を楽しむことにしようと、少年は闘技場に視線を落とした。




