6ー17
マーリンとカナメの遣り取りを見て思わず笑い声を漏らすマネー・マネー。
「面白いな、あの魔術王が尻に敷かれてるとは」
「あれ? 予選の……」
「マネー・マネーだ。よろしく、カナメ」
マーリンを挟んで頭を下げるカナメ。口元に手をあて、小さな声で少年に「どういう状況?」と問う。
「俺にもよく分からん」
「巡り合わせさ、レディ」
「はぁ……」
困惑したカナメが間を置いて「……ん?」と疑問を声に出す。「あれ、話したの?」
彼の魔術王という言葉に引っかかったのだろう。「アイザックがな」と返事をする少年。
「さて、そろそろ行くとしよう」
席を立つマネー・マネー。
「観ていかないのか?」
「二人の時間を邪魔するのはどうかと思ってね。話ができて光栄だったよ、ブラザー」
それと、と、離れ際に言葉を残す。
「最後の試合だけはしっかり見ておいたほうがいい」
手で襟を下げるマネー・マネーの肌に、まだ癒えていない、生々しい傷跡。
「きっと退屈しない、面白いモノになる。ーーまあ直ぐ終わるだろうけどな」
異様な空気に包まれていると現二級術師のチャールズは感じとっていた。対戦相手の入場を待っている間、観客の視線と期待は自身に向けられていないと知る。
それもそのはず、予選を終えたあとアラディアはその話題で持ちきりだった。あの黄金の魔術師に傷をつけた参加者がいると。
「さあ、皆が待っていたのはこの選手! あのマネー・マネーに傷跡をつけた史上初の魔術師! 新鋭の魔女、ドロシーィィ!」
向こうの通路から姿を現したのは、黒のローブに身を包んだ、まさしく魔女と呼ぶに相応しい姿の術師。右手で箒を引き摺って歩く彼女は背丈が小さく、黒いとんがり帽子からはみ出た赤い髪が夜風に揺れている。
観客の盛り上がりに見向きもせず、ただ流れるように闘技場へと足を運ぶドロシー。その風格を前に気圧されていたチャールズは、自身に言い聞かせる。
落ち着け。
何も焦ることはない。
昨年の魔術闘技場で準優勝を果たし、二級に昇格したチャールズ。今年こそは優勝をと、かつてないほど魔術に時間を費やし取り組んできた。培った自信は実力に反映され、いまが全盛期だと胸を張って言える。
「ねえ」
試合開始直前、ドロシーがケニー・Jに気だるげな声を掛ける。
「は、はい。どうしましたか?」
声を掛けられた彼が何故か緊張している。ドロシーはそんな様子すらも、どうでもいいように言葉を紡ぐ。
「殺しちゃったらどうなるの?」
「は?」
ケニー・Jの戸惑いに構わず「対戦相手」と言い放つ魔女。
「それは、失格となりますが……」
「そう」
息を吐くドロシーと目が合うチャールズ。
伶俐な、赤い瞳。
「難しいなーー加減が」
悪寒。
逃げろと、生存本能が全身に命ずる。




