6ー11
「大地よ、意のままに」
土で埋もれた自身とマーリンの足。
その高さは少年の膝にまで届き、魔力操作によって身動きがとれないようレイは固めていた。当然、一部を柔らかくすることもお手の物。畑から野菜を引き抜くようにレイの足が土から抜かれ、次いでマーリンに向かって魔術を放とうと、
その前に。
自身の体が仰向けに倒れていた。
「え……?」
夜が、見える。
照明が眩しい。
体が痛い。
何が起こった?
意味が分からないまま痛みに触れる。胸の辺りを触っていた掌に、嫌な感触。
見れば、べっとりと赤い血がついていた。
「試合開始早々レイ選手ダーウン! マーリン選手、身動きがとれない中でまさかの反撃! それがクリティカルヒットー!! レイ選手、立ち上がれるかー!?」
警戒していた筈だ。
動きを止めたからといって魔術は展開できる。
警戒していた筈なのに、何も見えなかった。
カウントをしていた審判の顔を見ながら、慌てて体を起こす。正面に目線を移せば、土に足が埋もれたままこちらの様子を眺めている少年。
追撃が許されていたルールなら試合はもう終わっていた。
「レディ、ファイト!」
試合が再開される。
判定はもう無理だ。
倒すしかない。
再び屈み、自身の前に厚い土の壁を生み出す。少年の魔術には反応ができないが故の行動。
先ずは身を守りながら魔術を展開する。
緊張など既にない。
かつてないほど極限の集中状態にレイは陥っていた。
「主よ、生きとし生けるものに慈悲を。大地よ、生きとし生けるものに恵みを。ーー豊穣の神、その、御心のままに」
完成した術式を即座に放つ。
それはレイ・フィールドが持つ手札の中で、最も強力な魔術。
「デメテルの土濤に溺れよ!」
レイの眼前、地面が突如盛り上がっては土砂災害が起こったかのような勢いでマーリンを攫おうと土の波が闘技場に広がっていく。
少年の身動きがとれないよう、依然として土は固めている。反撃の魔術をいまさら出したところで、少年を優に呑み込む高さの土砂に何もできまい。
「いい魔術だ」
幻聴か。
歓声の中、少年の声だけが、はっきりと聞こえた。
「風斬」
幼い声と同時に、真っ二つに割れた土の波。
再び、走る痛み。
……当然の結果だと笑いそうになるレイ。
自身が詠唱している間、敵の追撃はなかった。その間、極限まで魔術の威力を高めていたのだろう。でなければデメテルの土濤を裂いて尚、自身にここまでの傷を負わせることはできまいと、彼はひとりでに納得し、その意識を失った。




