6ー10
少年。
実況が紹介した通り、通路の陰から出てきたのは紛れもない子供だった。
予選を通過したときの控え室でもその姿を見て戸惑いを覚えたが、まさかこんな小さな子供が本戦を勝ち取ったとは。
少しだけ安心してる自分がいたことに気付くレイ。足の震えは止まって心臓の高鳴りも静かになっていく。その情けない感情に首を振る。子供だからといって油断しては駄目だ。あれだけいた魔術師の中から三十二の枠にこの子が入っているという事実に目を向けろ。
姿形は関係ない。
彼は、魔術師だ。
「ルールの説明だぁ! 制限時間は十分、試合開始前の魔術発現は当然禁止だ。両者意識を刈り取るつもりで魔術戦に臨んでくれ! 選手がダウンしたとき、10カウント以内に立ち上がらなかったら試合終了とする!」
それと、と、ケニー・Jが観客席を見渡しながら言葉を紡ぐ。
「選手が意識を失ったとき、降参の意味合いで両手を挙げたとき、試合続行不可の怪我や状況になったとき、審判がストップと声を掛け、強制的に試合終了とする。動けない選手には追撃しないよう、良識ある戦いを心掛けるように」
ケニー・Jの説明を聞きながらマーリンを見詰めるレイ。緊張した様子はない、もしかしたら場慣れしているのだろうか。
「リングアウトの心配はご無用、舞台は皆様に怪我が及ばないようカチコチなバリアを張らせてもらうぜ! もし制限時間内に決着がつかなかった場合、判定は皆様の挙手、声の大きさで決めるものとする!」
熱気に飲み込まれそうな自身と比較して、涼しい顔をした少年。こちらを見る青い瞳は綺麗で澄んでいる。
「レイ、といったか」
少し驚くレイ。まさか試合前に声を掛けられるとは思っていなかった。反応が遅れて言葉が上手く出ない彼に構わず少年が口を開く。
「いい試合をしよう。全力で来い」
……すごい子供だと評するレイ。あまりに落ち着いた少年の言葉に頷きで返し、ケニーの案内で両者定位置に着く。
闘技場の縁に近い立ち位置。
互いに距離は離れ、接近戦に持ち込むことはまず難しいとレイは判断した。
複数のギルド職員が通路から出てきて、闘技場に透明な結界を施す。
審判と思われる職員がケニー・Jの横に並んだとき、目を閉じて深呼吸をしたレイ。
「さあお待たせいたしました! ただいまより第一回戦、レイ・フィールド対マーリンを開始します!」
「レディーー」
審判の言葉を聞く前に、既に地面に屈んでいたレイ。
魔術の発現は禁止と言われただけで、魔力の操作と体勢については何も言及されていない。
術式を、脳内で描く。
「ーーファイト!」
先手必勝。
「主よ、力のままに」
試合開始の合図と共に、魔術を展開する。
黒色の土がレイとマーリンの足元から出てきては、闘技場の地面を覆うよう全体に広がっていく。
現代魔術は詠唱を必要としないのが基本だ。頭で描いた術式を現実に書き写すのに言葉は不要とされているが、しかし脳の切り替えを担う意味での発声は術師にとって大事なこと。とある国では言葉には魂が宿るとされ、魔術とは密接な関係だと言われている。
つまりは人それぞれだ。
現にレイにとって詠唱は自身の精神を安定させ、実力を存分に発揮する効果をもたらしていた。




