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その返事を聞いてもジンの笑みは崩れない。
「まあ待ってください。予選通過した選手の情報、欲しくはありませんか? 見たところ貴方達には協力者がいない。観客席で得た情報を惜しみなく私が教えてあげますよ」
それだけではなく、とジンが付け加える。
「もし本戦で私の部下にあたれば、わざと負けてあげましょう。どうです? 考え直してくれましたか?」
ただ不快でしかない。
再びマーリンが断ろうとしたとき、間に割り込む巨大な影。
「そんなことが許されると思ってるのか? 貴様は」
強めの口調で間に入ったのは教団の隊長、アイザック。少年からアイザックに目線を移した途端、貼り付いた笑顔が崩れる。
「アイザック……! 何故ここにいるっ……!」
「私がここにいる理由はどうでもいいだろう。それよりも不正行為を持ちかけたことについて、」
「教団と話すことなど何もない! 私達はここで失礼する、行くぞ!」
部下を連れて、そそくさとこの場を去るジン達。その背中を見ながら呆れたようにため息を吐くアイザックに少年が笑みを湛えて口を開く。
「見守っているだけの筈では?」
「む、……すまない。余計な世話を」
「いや、助かった。何なんだアレは? 新しい宗教か?」
「そのようなものだ」
「魔物絶滅を謳っていたが、存在そのものが教団と被ってるだろ」
「いや、我々と違って奴等は利益ある魔物を許可なく殺そうとしている。飛竜といった、エルドラで駆除禁止とされている魔物もアテナ教は容赦なく殺す。魔物との共存は一切認めないスタンスを貫き、勝手な振る舞いで魔術師に迷惑をかける、最悪の集団だ」
「そうか。同じにして悪かった」
首を横に振るアイザック。
「知らないのだから仕方ない。それより予選通過おめでとう、二人とも」
アイザックがカナメの方へ顔を向ける。
「特にカナメ、といったか。君がマネーの背後をとったとき、それまで騒いでた会場が一瞬で静まり返った。おそろしく速いんだな、君は」
「あ、ありがとうございます。……マーリンマーリン、凄いひとに褒められちゃった」
「当然だ、カナメは凄いからな」
少年の言葉で更に顔が赤くなるカナメ。
まるで林檎みたいだ。
「で、俺の評価は?」
「噂に違わぬ実力者だったよ。ただ……」
「ただ?」
「……いや、いらぬ心配だ。本戦、陰ながら応援してるよ。それでは」
そう言ってアイザックはこの場を後にした。彼が何を濁したのか少年は察していた。だがそれを言葉にするのは野暮だと感じたのだろう、ジンとはえらい性格の違いだ。
マーリンにとってアテナ教が提供するといった選手の情報など心底どうでもいい。
彼が考えていることはただ一つ。
勝つのは俺だ。
誰一人として負けるつもりはない。
揺るがぬ自信を抱えたまま、少年は本戦へと臨む。




