6ー2
都市アラディアの通りは早朝から沢山の人で賑わっていた。目的地の闘技場を目指し、並んで歩くマーリンとカナメ。
「昨日よりも人が凄いな」
行き交う人の流れに攫われないよう、気をつけながら歩く少年と彼女。
「大体のひとが闘技場目的だよね」
「そうだな。聞いていた通りなら参加者は四桁近くいて、観戦客はもっといるって話だ。ブリタニアでは見ない光景だな、これは。さすが世界一魔術師が多い国だ」
「ね。こんなに多いとは思わなかった、っと」
カナメが人の肩にぶつかって転びそうになる。すみませんと彼女は咄嗟に口にしたが、ぶつかってきた当の人間はさっさと闘技場の方へ向かってしまった。
「大丈夫か?」
「ん、大丈夫」
「手、繋ぐか?」
「へ?」
思わぬ提案に自身でも驚くほど変な声を出すカナメ。歩きながら手を差し出した少年の手を見下ろし、思考が停止する。
「あ、う、うん。よろしくお願いします」
とにかく差し出されたその小さな手だけは握っておきたいと、カナメもまた手を伸ばしたところで大きな影に二人は包まれる。
「少し、いいだろうか」
その野太い声に二人は振り向く。
一言で表すならば、巨漢。
服の上からでも分かる逞しい体、刈り上げられた黒の短髪に、強面の印象を柔らかくするブラウンの丸眼鏡。
服装からして教団の関係者だということは直ぐに分かった。そして、行き交う人々が足を止めてまで巨漢の彼を見詰めている。
行き場をなくした手を引っ込めて対応する少年とカナメ。
「私は教団の十番隊隊長アイザック・ギガンテス」
周囲の反応からして、ある程度の予想はついていた。
名乗りをあげた男を前にしても少年に驚きはない。
「君はーー貴方は、マーリン殿では?」
「そうだが」
「やはりそうでしたか。手短に済ませるので、少し話を」
その言葉を聞いて、面倒そうな表情をする少年。頭を下げるアイザックを見上げて「分かった」と小さな声で返事をし、通りから外れた木陰に目をやる。
「移動しよう。ここだと邪魔だ」
そうして人通りから逸れて木陰に佇む三人。
見られているのが分かるほどの視線の数々、それらを受けながら会話を交わす。
「あと、俺のことは敬わなくていい、周りに不審がられる」
「善処しよう」
「で、教団が何の用だ」
「君が提供してくれた情報は確認した。敵勢力の狙いは我々教団の壊滅にあると。だが奴等が次に狙うのは、」
「俺と考えている訳か」
そう断じたマーリン。
ここアラディアに着くまでの間、そうした可能性もあると少年から話を聞いていたカナメの様子は少年と同じく落ち着いていた。
「そうだ。国王はマーリンが元の姿に戻る、それを阻止する為に敵は動くだろうと仰った。故に君の守護を徹底しろ、と」
「教団と協力関係を結んでいない、にも関わらず俺を狙ってくると? もし内通者がいたとしたら、俺が教団とは無関係だと知っている筈だが」
「だが君はオリヴィエを助けた」
む、と少年が口ごもる。
そうだ。
一緒にいるからこそ、カナメには分かる。
損得など頭にはない。彼は目の前に困ったひとがいたら、見捨てることができない、優しいひとだと。




