6ー1
エルドラ国内で二番目に人口が多い都市アラディア。一年を通して晴天が多いこの地域で、過去一度としてその日に雨が降ったことはない。例に漏れず今年も同じで、一年に一度の魔術闘技場は難なく開催を迎えられる。
しかし外の天候とは裏腹にどんよりとした空気がそこには漂っていた。闘技場の関係者しか立ち入ることができない一室にて早朝から怒号が飛ぶ。
「ふ、ふざけているのか!?」
「ふざけてなんかない、俺はいつだって大真面目だ」
「なら報酬を倍額にしろなど、どうしてそんなことが言える!」
ギルドを運営している長を前に不遜な態度を見せる男。浅黒い肌に派手な装飾、金のドレッドヘアーに金縁のサングラス。ソファーにふんぞり返って腰をおろすは、黄金の魔術師、マネー・マネー。
エルドラで四人しかいない一級術師、その一人。
「参加者は前年より増えている、当然だろう?」
「賭博が禁止されて利益が前年より減るのは目に見えてる、それでも報酬は増やしたんだ! それを倍だと? ふざけるなよ、マネー・マネー!」
前年の魔術闘技場では一つのトラブルがあった。
それは賭博で負債を抱えた一人の観客が自殺をしたこと。
これを機に国から圧力を受けて闘技場での賭博は直ぐさま禁止となった。その為、当然ながら今年の利益は前回よりも少なくなる。そんなことは承知の筈だというのに、倍額にしろという要求に怒り心頭のギルド長。
周囲のギルド関係者は肝を冷やしながら二人の様子を見守っている。
「よくよく考えてもみろ。たった一人で参加者全員を捌くことができ、効率よく進行できる魔術師がどこの世界にいる? その答えは簡単、アンタの目の前にいるこの俺、偉大なるマネー・マネーだけだ」
ギルド長は反論できない。
しないのではなく、できない。
「それに、観客の中には俺のファンも多い。もはや予選は一種の観光スポットだ。俺目当てで見に来る客を失望させるかどうかは、アンタの返事次第だ」
「……」
「アンタが首を横に振れば、OK、俺は大人しくアラディアから立ち去ろう。だがアンタが首を縦に振れば俺はスマートに仕事を熟し、観客にだって投げキッスをする。みんなハッピー、最高の幕開けだ」
「……ハッピーなのはアンタの頭だけだ」
絞り出したようなその言葉に微笑うマネー・マネー。
「で、どうする?」
黄金の魔術師はまるで結果など最初から分かっているかのような、余裕に満ちた態度でギルド長に問う。
「…………分かった。その条件で呑もう」
「さすがブラザー、話が分かる」
「……がめついにも程がある。お前に人の心はないのか?」
おいおいと笑みを溢すマネー・マネー。
「俺達は金の奴隷だ。金なくして生きることはできない。俺はな、ブラザー。札束の海に溺れてやっと呼吸ができるんだよ」
理解できないなと一蹴される黄金の魔術師。その返事すらも予想していたかのように、不気味な笑みを湛えてはサングラスの位置を人差し指で正す。
「折角の祭だ。暗い顔をせずに楽しもう」
開催まであと僅か。
一年に一度の祭が、もうすぐ始まる。




