8ー20
そう、以前の自分なら本気でそう思っていた。
円卓の座につき、魔物を殺し続け、悪を裁き続けて、果てに友を殺した。
「だがこの体になって、出来ないことが増えて、初めて他人に助けを求めた。エルドラに来て様々な出会いが俺を刺激した。一人でも生きていける、なんて考えていたのが馬鹿らしくなるほどに、いまは世界が輝いて見える」
飛竜から見える景色は綺麗だとヴォーティガーンは言っていた。あの頃はそれが分からなかった。けれどもいまなら分かる。
『いつか現れるといいね』
ああ、それならもう。
『君を笑顔にしてくれるひとが』
一番近くに、いまはいる。
「何故、助けるのかと聞いたな、罪人。そうしたいからだ。それ以外に理由はない」
「…………最悪の気分だ」
不快感を露わにした表情。
途端、周囲の火柱が消えたのは、言葉を交わしている間に休まず黒剣が役割を果たしていたからである。メルリヌスが少年の背後についたのを見て、罪人が炎刃の鋒を少年に向けた。
「どうしようもないほどに愚かな考えだ、それは。失望したよ、マーリン。言葉を交わせば交わすほどに理想が崩れていく」
「勝手に理想を抱いて勝手に幻滅か。気持ち悪いな、お前は」
「この世の魔術師が誰を理想とするのか分からない訳でもないだろう。……まあいい。俺はいつでもお前達を殺すことができた。俺が遊んでいたのは、自身の魔術がどれだけ上に通じるのか試したかったからに過ぎない」
淡々と心情を述べる罪人の瞳に深淵を見る。引き摺りこまれそうなほどに黒く、昏い。
「だが杞憂だったよ。この数分間、一度たりとも剣を受けずに躱し続けていたのは力量の差を感じていたからだろう? 俺の解錠は教団を滅ぼすには充分なものだと確信が持てた。ーーだから、用済みだ」
それは、いままでにないほどの魔力。
見るだけで皮膚が焼けそうなほどの力を前にアイザックが捨て身で踏み出そうとするが、マーリンが手で制止する。
「お前は、いまの俺を否定したくて堪らないのだろう」
そうしなければ納得ができない。
否定しなければ自己が保てない。
「知らないようだから教えてやる。他人を否定し、自己を貫いたところで待っているのは孤独だ。人との繋がりが弱さに繋がる、なんてのはそれこそ弱者の考えだ」
「説得力がまるでないな。現にアイザックは何の役にも立ってない」
「違うな。アイザックの意志が、不屈の意地が、ここまで繋いでくれたんだ」
「? 何を言ってーー」
音が鳴る。
何かが割れた音。
見れば、二足。
靴の形をしたようなそれは、粉々に割れていた。
そして声が降る。
天上から、天使のような唄声がーー
「聡明たる案山子が私達を導く」
箒の柄に両足を乗せて。
手を組んで、目を閉じる。
「勇敢なる獅子は闇を切り裂き、心ある戦士が光を示す」
ゆっくりと地上へと降りていく中。
心はどこまでも、水鏡のように澄みきっていた。
「唄うは想い、想いは一つに」
迷いはない。
あるのはただ。
「願うは安寧。旅路の果ては、あなたと共に」
友達の笑顔を守りたい。
ただそれだけの、些細な願いーー
「解錠」




