8ー19
発言が途切れたのは、二人を囲んでいた火柱の内、一つが消えたのを罪人が目にしたからだ。会話の最中、コア・メルリヌスが主の意図を汲んで先と同じように魔術を無効化し、その機を狙っていたアイザックが舞台に踏み入る。
「会話の邪魔を」
そう呟いた罪人が炎斬を振ろうとしたタイミングでマーリンが指を鳴らし、発動したのは魔術・四肢蛇。割れた地面から四本の鎖が勢いよく飛び出し、対象を拘束しようと襲いかかる。
しかし、炎剣は瞬時に蛇の処理を済ませて鋒がアイザックに転ずる。
地震。
そう錯覚するほどの揺れ。ただ一歩踏み鳴らしただけで、巨漢が罪人の体勢を崩す。驚く暇もなく、アイザックの一振りと同時に放つ風斬。だが紫電を纏った敵に届くことはない。容易に回避され、炎に囲まれた闘技場で三者それぞれ距離が空く。
「もう興味がないというのに、まだ歯向かうか」
うんざりとした表情をする罪人。
「死者が蘇る……一術師として心は踊るが、解錠によるモノならどうでもいい。それは個の魔術であって、誰にも侵されない領域だ。他者が習得できないのであれば意味のない情報でしかない」
饒舌に語る男を前に、アイザックが言葉を返せないのは余裕がないからだ。あの解錠を前に隙を見せれば死ぬ、それは彼が一番に分かっている。
「それに、蘇生の代償に何かしら支払ったのだろう? 斧のサイズがほんの僅かに小さくなっている、だけじゃない。俺とマーリンが戦っている間に踏み込まなかったのは解錠の恩恵が弱まっている、失われていると予測できる。噂に聞く不屈なら迷わず炎の中に身を投じていた筈だ」
アイザックの魔力はこうしてるいまも少しずつ減っている。あと数分もすれば、彼はきっとーー
「マーリン。こんな役立たずを何故、助ける? 魔術の王は他者の干渉を許さず孤高の存在だと思っていた。他人の命なんてどうでもいいだろう? 我々は、魔術師は、そうあるべきだ。まして魔術の王が人を助けるなどあってはならない」
「さっきからぺらぺらと一人でよく喋る。普段から話し相手がいないのか?」
「……ふっ、周囲とは話が合わなくてね。何せ最近の術師はレベルが低過ぎる。いざ本物を目の当たりにすると気分も高揚するさ」
どこか虚ろな目。
無理したような笑みに本性が見える。
こいつは一人なのだと、そう感じさせた。
「正直に言って、お前の気持ちは分からなくもない」
予想外の返事だったのか、アイザックの視線がマーリンに向く。「ほう?」と興味深そうに、少年が紡ぐ言葉の続きを期待する罪人。
「他人のことなどどうでもいい、俺が俺であればそれでいいとそう思っていた」




