8ー17
円卓に身を置いていた頃を思い出す。
魔物討伐に駆り出されていた日々。醜悪なる獣を誰よりも殺し、唯一の友を救えなかった男の物語。死に向かおうとしたアイザックに、マーリンはヴォーティガーンを重ねていた。
死ぬ覚悟をした、友の顔を。
ーー今度は死なせない。
振り下ろされる戦斧ユミルに対し、炎刃で受け止めようとするタイミングで風斬を放つコア・メルリヌス。防御の選択を中断した罪人がアイザックから距離をとるついでに風斬を回避する。その行動を咎めるように直ぐさまマーリンが地面に掌を置く。
デメテルの土濤。
雪崩のように襲いかかる土は、難なく炎剣によって真っ二つに割れる。裂かれることを見越し、コア・メルリヌスを手にしては土と土の間に割って小さな体が踏み込む。急接近してきたマーリンを迎え撃とうと熱を帯びた刀身で地面を突き刺す罪人。
地上に現れるは、開花寸前の彼岸の花。
罪人を中心に設置された膨大な数の罠。
解錠後の術師が扱う魔術は何もかもが分からないに尽きる。炎斬のような誰もが扱う既存の魔術を強化したものなら兎も角、大概がどのような効果を持っているかは不明だ。
戦うか、逃げるか。
迷わず前者を選ぶマーリン。開花前のそれら一つ一つには大した魔力が込められていない。風薙を利用し、紅い花を踏まないよう僅かに浮いて接近を仕掛けようとしたその時、足元からの膨大な魔力を感じとる。
咲いた紅蓮の花から巨大な火柱があがる。
「マーリン!!」
火柱に巻き込まれた少年を見て吼える巨漢。近付こうにも無数の罠が邪魔となって、アイザックはただ黙って見ることしかできない。
「魔力が視える、というだけで万能に酔ったか?」
地面から引き抜いた炎刃を振り翳し、悦に入る咎人。
「これは貴様を欺く為に開発した魔術だ。踏むのではなく、その域に侵入した時点で開花し、魔力が膨張しては爆発を起こす。か弱い花に見えたのなら結構、術師冥利に尽きるというものだ」
「話が長いな」
途端、火柱が裂かれる。
「策が実ったから死んだと思ったのか? 間抜け」
コア・メルリヌスを手に、衣服が僅かに焦げた程度で済んだマーリンを目にし、罪人が微笑む。
「いや? この程度で死ぬのなら王の座はきっと安物に違いない」
「口だけは達者だ」
火柱が上がる直前、マーリンは浮いた状態から直ぐに着地し、土の鎧を纏っては魔力でより強固なものとした。火柱に身を置かれ耐えている間、魔術に触れ続けたコア・メルリヌスが綻びを突き、無力化を為す。
あの刀身から派生する魔術であれば黒剣で防げる自信がマーリンにはあった。しかし問題は本体だ。熱を発し続ける炎剣、敵ながら見事と言う他なし。
アレに勝てる魔術は現時点でない。
それほどまでにあの炎剣は解錠として完成されている。




