8ー16
ーー亡の刀身がアイザックに迫ったその瞬間に激しい風が吹き、巨漢の足が地上から離れる。向かいにいたマーリンが風薙を使用し、助け舟を出してくれたのだと直ぐに察した。
距離を離されたアイザック。ユミルの一撃を受けた罪人が傷を癒やしている間に少年がそっと横に立っていた。
「信じられないな。斬られた腕も、衣服すらも元に戻ってる。恐れ入ったよアイザック。それは俺にもできないことだ」
魔術王の最大の賛辞だろう。状況が状況でなければ喜びをゆっくりと噛み締めていたというのに、視界に映る焔がそれを許さない。
「マーリン、私のことだが……」
「ああ、分かってる」
流石としか言いようがない。
その代償は時間が経つにつれて効果を示していることがはっきりと分かる。
魔術行使の際、魔力を消費するのとは違う感覚。
少しずつ、確実に。
アイザックの体から魔力が失われていく。
「私を道具のように扱ってくれ」
あの刀身に触れたら即死することは前回の死で学んでいる。しかしアイザックは遠距離の魔術を得意としていない。
命を賭して接近し、僅かでもいいから傷を負わせる。自身が死んだとしても、少年に繋ぐことができればそれでいいとアイザックは本気で考えていた。
「使い捨てにするつもりで構わない。ここで奴を殺せればーー」
「おい」
言葉に怒気を感じとってマーリンの方を見る。
不機嫌な表情。
冷たい目がアイザックに突き刺さる。
「その顔を俺は知っている。死人の顔だ。いつ死んでもいい、そんな覚悟を持った人間の顔だ。折角蘇ったというのにふざけてるのか? お前は、お前が思うままに斧を振るうといい」
一転して、少年の柔らかな表情。
安心させるような、力強さをそこに見る。
「俺が死なせない」
治癒を終えた罪人が刃を空に振るう。
それを前にして、不敵な笑みを見せる魔術の王。
「時間だ、アイザック。二人でやるぞ」
「ーーああ、分かった」
……全くもって敵わない。
そんな少年に敬意を払ったあと、アイザックは迷わず前方へと踏み込む。
おそらく生涯最後の闘いになる。
背後に信頼を置いて、怨敵を葬る為に。
部下の魂を乗せて、巨漢は刃を振るう。
マーリンは分析する。
眼前の敵と、その得物を。
解錠によって顕現した業火を纏う一振り。そこから派生する魔術は刀身の火力には及ばないものの致命傷には充分過ぎる程だ。
それだというのにこの慎重さ。実戦経験の少なさからくる、攻め方の基本的な動きが罪人にはできていない。現状、マーリンとアイザックがあの解錠を前に生きているのはそれが理由だ。




