8ー15
再び炎斬を放つ、が、見えない壁を蹴っては家を伝う猫のように軽々と斬撃を飛び越えるマーリン。空中のマナを捉えて足場とする少年の御業を前に思わず見惚れてしまう。
空中から変わり映えのない風斬が放たれるも、先と同じ要領で無効化したヴァン。すると「妙だな」と、地上に着地した少年が言葉を掛けてくる。
「解錠を会得して間がないのか? それだけ大層な得物を持っておきながら何故攻めてこない?」
「攻める必要がない、確実に追い詰めて殺せばいいだけだ。焦りからの挑発か? 魔術王」
「ただの疑問が挑発に聞こえるのか? それならお前自身もそう思っているということだ。その解錠はお前にとって不相応なモノだと」
その言葉は。
その言葉だけは、いまのヴァン・ヴェルフレイムにとって一番の侮辱に他ならない。
「貴様に何が分かる?」
静かな怒り。
感情に応えるかのように、刀身を纏う炎がより一層、激しくなっていく。
「生を受けたその瞬間から勝者か敗者か決まるこの世界で、生まれながらにして持っている貴様に何が分かる?」
「何も分からない、と言いたいところだが一言だけ授けてやろう、罪人」
邪な笑み。
人を見下した表情で、空いた左手の甲を向けては、二本指の先を自身の蒼い両目に向ける少年。
「節穴」
どういう意味かと問い質す前に、その答えはヴァンの傍まで迫ってきていた。
「ーー馬鹿な」
有り得ない現実を前に構えをとるのが遅れた罪人。
そして思い出す。
「あの世から這い上がってきたぞ」
エルドラで彼が何と呼ばれていたのかを。
「お前を殺す為にッ!!」
不屈ーー
アイザック・ギガンテスが鬼気迫る形相で武具を振り下ろし、ヴァン・ヴェルフレイムに確かな傷を負わせた。
アイザックの解錠、戦斧ユミル。
解錠中、極端な自己の強化に加えて特筆すべきは永続的な肉体の治癒。戦闘中、どれだけの傷を負っても止まることを知らず。ありとあらゆる戦場を駆けてきたアイザックの倒れた姿を見たものは誰一人としていない。
だが治癒よりも火力が上回ってしまえば当然、死に至る。先刻、燃え尽きる身体でユミルの恩恵を与っていたアイザック。しかし回復の速度が間に合うことなく、業火は全身を包み、やがて骨となる。
それは単純な結果。
自身の解錠よりも敵の解錠が上だった。
認められない事実にアイザックは抗う。地面に横たわる骨だけの体、それでも巨大な斧を手放すことはなかった。部下の無念を晴らす為に、必ず奴をーー
そうしてアイザック・ギガンテスは死亡した。
その場に残ったのはただ一つ。
部下を侮辱した敵に対して、何もできなかった自身に対してのーー燃え尽きることのない、憎悪。
報いを。
どうか、報いを。
聞こえる筈もない死骸からの声に神が応えることはなく、応えたのはーー握り続けていた戦斧に、魔力が巡る。術者が死亡しても尚、武具として残り続ける異常。鎮火した中、柄を握り続けていた骨だけの手が元に戻っていく。
それはアイザックすらも認知していない、戦斧ユミルの能力。時間を巻き戻したかのように、斬られた腕も、燃やされた衣服すらも元通りになっていく完全なる復元。まさしく神の領域にアイザックは知らずの内に踏み入った。
しかし、その代償はーー




