8ー14
男の推測には応えず、溜息を吐くマーリン。
「何なんだ、お前らは」
見知った肉体の一部。
見知った人の死骸。
それらを前にして少年は微動だにせず。
しかしその瞳に満ちるものは。
「オリヴィエの件もそうだが、ただただ不快でしかない。いまもそうだ。折角盛り上がってきたところに横槍を入れて、挙げ句の果てには人殺しか」
「気分を害したか?」
「ああ」
温度のない声。
「殺したいと思うくらいには」
沈黙。
冷徹な眼差しを受けて微笑む罪人。
不快さを露わにしつつ冷静な少年。
観客は捌け、残された二人。
二つの鋒が、互いの命を指す。
アラディアの地。
死闘の幕が、いま上がる。
ヴァン・ヴェルフレイムの解錠、亡はその刀身に触れたもの全てを焼き尽くす。
ーーやはりそうくるか。
クルミから聞いていた通り、マーリンには魔力が視えている。初見でありながらも亡の刀身に触れないよう適切な距離を保っては安全圏から攻撃を仕掛けてくる。そんな少年に「弱気だな」とヴァンは笑みをこぼす。
この三日間で得た彼の情報は極僅かではあるが充分に貴重なものだ。多様な魔術、発動の速度、当人の回避能力。当然ながら一介の魔術師では彼に土をつけることは不可能だ。それどころか教団の副隊長レベルでもマーリンの相手にはならないだろう。
様子見をする少年。
ヴァンもまた、無理に踏み込むことはしない。
魔女と少年の争いによって荒れた地面をゆっくりと歩き、慎重に距離を詰めていく。
焦る必要もない。何故なら闘技場の外へとマーリンが逃げることはないからだ。観客、民に被害を被らせないよう自身を引き留める為に彼は戦う。それが魔術王の責務であり、どうしようもないほどの弱味だ。
いまヴァンが最も警戒しているのはあの黒い剣。周囲を泳ぐそれは剣でありながら少年の盾でもあり、加えてもう一人術師がいるかのように魔術を放ってくる。そしてクルミから聞いていた情報とは異なる部分、鍔の窪みに謎の球体ーー
黒剣から放たれた風斬を亡で弾く。
返しに鋒から放たれるは魔術、炎斬。
風斬の数倍もある斬撃範囲、少年の体など容易に呑み込む炎の波。
それに対して地上から現れるは氷龍・グウィバー。だが瞬時に溶けたそれは大量の水を撒き散らして地上を濡らしーー
視界に少年の姿がない。
氷龍の巨体を盾にお得意の風薙を利用しての移動だろう。上空か、観客席まで距離をとったか……いや、常識の枠組みにとらわれては駄目だと考え直したヴァンの背後に、不穏な気配。
首筋に刃が触れる手前、頭を下げて致命傷を躱すヴァン。
正気を疑う奇襲。振り返れば黒剣を手にした少年の姿が映る。魔力が視えているのであれば即死圏内だということは理解できている筈だ。それだというのに接近戦を自ら仕掛けるその胆力。
忘れてはならない。
子供の姿に惑わされるな。
彼はあのマーリンだ。
「油断も隙もない」




