8ー11
凄まじい歓声が地鳴りのように伝わる通路を男は歩いていた。そこはアラディア・コロシアムの運営に携わるものと本戦参加者以外は通ることがない。黄金の魔術師マネー・マネーが用意したギルド職員専用の服を着こなし、ここに至るまでの過程を噛み締めるかのようにゆっくりと歩く。
マーリンがアラディアに訪れることを耳にした時点で計画は決まっていた。等級を上げる為、彼は必ず闘技場に参加することも読んでいた。
アラディアに着いたあと、教団が到着していないのを見計らってマネー・マネーとの接触を図った。金だけに誠実な彼にとってローリスクの提案をし、闘技場の内部構造と派遣されたギルド職員の位置情報を貰う。教団とギルドの仲が拗れていることも都合が良かった。
試合終了直後、ギルド職員を装ってマーリンを殺す。
クルミとの戦闘内容から推し量るに実力は一級術師に近い。この三日間、必ず彼は勝ち上がって連戦に身を投じる。
予想外だったのは、いま相手している女の実力が想像以上なことだ。服を受け取ってからは教団に警戒されないようマネー・マネーとの接触は避けていた。決勝まであたらないようトーナメント表の調整を頼みたかったが、口出しせずとも意図は汲んでくれたようだ。
三日間という期間を置いた理由。
第一として魔術王の手札を見ておきたかった。結論から言えば想定内の実力だ。クルミに勝った時点である程度予想はついていた。レパートリーの多さに畏怖を覚えはしたが、問題なく対処できる。
つぎに疲労の蓄積。雑魚ばかり相手して期待はできなかったが、決勝ではそうはいかない。準決勝の舞台で見せたアレを見るに、おそらく魔女は解錠ができる。闘技場の盛り上がりからして、それなりの戦いにはなっているのだろう。
薄暗い通路の奥に見える二人の姿。
魔術王と魔女の激しい闘争が繰り広げられている。
教団の狗もギルドが運営している闘技場内部には立ち入りできない。許されているのは観戦までだ。そして何よりクルミ達の作戦が成功したことで目はそちらに向く。アラディアにいる意味は本当にあるのか、そもそもいないのではないかという疑念を教団だけでなくマーリンにも抱かせる。
彼の傍にいたカナメという女を人質にとることも頭の端には浮かんだ。しかしマーリンが防衛の為に策を張っていたらと考えて、変な騒ぎを起こすくらいならと思い、やめた。
いまはただその時を待つ。
終演の刻が、訪れることを。
「気付いていたか? ベイビー」
アラディアから離れ一人、そこらの街で散財をしていたマネー・マネー。
届かないからこそ、邪悪な笑みを湛えて言葉にする。
「俺が一度も、お前を兄弟と呼んでいないことに」
「そこで何をしている」
闘技場に向けていた目線を背後に。
振り返れば巨大な影。
怒りに満ちた、漢の目。
アイザック・ギガンテスが、そこにはいた。




