8ー8
少年がその魔術を好むのには理由がある。魔力の消費も少なく、且つ相手の出方を窺うには最適の先制。対処によって力量を測るのに充分なそれは、全盛期の彼が放てば防げるものは誰もいなかった。
名を風斬。試合開始と同時に放たれたそれは、しかしドロシーの箒によって簡単に弾かれた。カナメの試合から分かっていたことだが、やはり視えている。
空気の揺らぎを的確に捉えた魔女は防御から攻撃に転じようと、箒の穂先を空へと向けた。無数の穂が伸びては意志を持ったかのように少年目掛けて襲いかかる。
魔術・多多羅。
カナメの試合で見た魔術、爪爪の規模を遥かに凌駕する範囲攻撃。魔力を視認できるマーリンは穂の一本一本に毒が付与されているのを見逃さない。躱したところで追尾されるのを見越し、五指で輪を作っては穴に息を吹く。
氷吹。穂を氷漬けにしては機能を停止させる。これを受けてドロシーは箒の形状を変化させることによって凍った穂を切り落とす。その隙を突く形で魔術を畳み掛けるマーリン。闘技場の中央に召喚するは昨日に見せた氷龍・グウィバー。
「さて、どう対応する」
巨大な氷の龍を前にしても魔女の表情に変化はない。形状を元に戻した箒の穂先をドロシーが地面に突き刺した瞬間、地面が揺らぐ。振動は会場全体に及び、見れば闘技場の結界外にある地面からスプーンでくり抜かれたように幾つもの土塊が浮かぶ。被害に遭わないよう慌てて逃げる実況と審判の二人。
闘技場を囲むように浮かぶそれらは魔力を与えられたことで瓦解することなく隕石のように落下する。
箒星。
その発想はなかったと素直に感心するマーリン。結界を破壊し、氷龍を質量で押し潰そうと降り注ぐ箒星をグウィバーは噛み砕く、が、あまりの数に対応しきれない。
崩れ落ちる氷塊と土塊。控えていた職員を実況が呼んでは急いで結界が張り直される。その中で被害を被らないよう魔術で弾くマーリンの目の前に、ドロシーが接近を仕掛けた。足の踏み場も少ない中、少年の顔に迫る鋭い鋒。頭の位置をずらし、ぎりぎりで躱しては魔女に微笑む。
「殺す気か?」
「避けられないの?」
「まさか」
槌ではなく槍の形をした箒。
初見の形状をもって突きを繰り返すも少年には掠りもしない。
「この程度の技量なら目を閉じても躱せる」
挑発を前に、ドロシーの攻撃が止まる。
「そう。それなら教えてあげる」
片方だけ訪れた変化。
銀の靴。
踵が、鳴らされる。
「貴方と私の差を」




