8ー7
「知らなかったか? 戦いに於いて相手が嫌がることをやるのは初歩中の初歩だ。特に魔術は精神の影響を強く受けるからな」
「……みっともない戦術」
「おいおい、さっきみっともない姿を見せていたのは誰だ?」
口を噤む魔女。
強い敵意だけがそこにはある。
「初めて会ったときに言ったことを覚えているか」
反応に構わず言葉を紡ぐ。
あのときは歯牙にもかけていなかっただろうが、決勝の舞台まで上がって漸く魔女の視界に収まる。
「お前は敗北を知ると」
互いに睨み合う。
それがいつまで続いたのかは分からない。
途中、カナメの声を受けて魔女は渋々と医務室の扉を開けた。
自身が魔女と似ていると思っていたが、どうやら違うようだと認識を改める少年。ドロシーはカナメを心配し、わざわざ足を運んでくれた。
自分とは違う。
俺にはそれができなかったと少年は過去を振り返りながら、試合開始までの僅かな時間、控え室で潰そうと踵を返す。
たった一つの座を求めて。
闘いの幕は、直ぐそこに。
「三日間に渡り、多くの方にお越しいただき誠にありがとうございました! 本日最終試合! 決勝戦! 開幕です!」
職員に案内を受けては闘技場に姿を晒す。
緊張はないが、数え切れないほどの声援を受けて気分は高揚する。
「この舞台に辿り着くまで何と無傷! もう誰も子供と侮るものはいない、様々な魔術で観客を虜にするはこの選手! 天才少年、マァァーリィィンッ!」
ただの応援なら構わないが、黄色い声の中に「マーリンちゃん!」と連呼する客がいて苦い顔になる少年。カナメが見たらどう思うか、なんて考えるくらいには余裕があった。
「対するはマネー・マネーに傷を負わせ、その圧倒的な実力をもって優勝候補を瞬殺! 天才の相手もまた天才。最強の魔女、ドォォロシーィィー!」
通路から出てきたのは箒を携えた赤髪の魔女。先の試合とは打って変わって冷徹な眼差し、そして落ち着いた態度を見て一安心する。
「カナメとは話せたか?」
闘技場の中央で顔を合わせる二人。
睨まれるだけで返事はないかと思ったが小さな声で「おかげさまで」と聞こえた。
「先の試合みたいな醜態は見せるなよ」
「しつこい」
むっとした表情で言われてマーリンは微笑む。ここ数日で随分と印象が変わった。こっちが本来の彼女なのだろう。
定位置にと案内を受けて互いに離れる。
正直、勝てるかどうかは怪しい。
だが未来が分からないからこそ今が面白いと思える。
実況が観客を煽り、盛り上がりが最高潮に達する中、熱気溢れる闘技場にて冷静な二人は互いを観察し合う。目線、呼吸、指一本の動き。何一つ見落とすことなく、その時を待つ。
「レディ」
周囲の音を閉ざす。
マーリンの視界にはもう魔女しかいない。
「ファイト!」




