8ー6
カナメは医務室のベッドに横たわっていた。配属されていた術師の治癒に加えて、少年もまた体の様子を見ようとしたが本人に強く拒否を示された。
曰く、体を見られたくないと。
「カナメ」
「見せません」
ため息を吐く少年。
治癒してくれた職員は去って、医務室には二人しかいない。白を基調とした部屋は割と広く、空いているベッドにマーリンは腰を掛ける。
「怪我の程度が心配なだけだ。無理強いはしないから、痛くなったら直ぐに言え」
「……うん」
「傷跡は?」
「残ってないよ。……っ」
明らかに痛みで腹部をおさえるカナメ。
「カナメ」
「大丈夫だから」
「…………」
「……うぅ、そんな目で見ないで。…………白状すると、アラディアの料理って美味しいよね?」
「ん? まあ、美味しいな?」
「……………………太った」
「……は?」
「だから太ったの! 料理美味しくて! お腹に肉ついたから見られたくないの!」
分かって!? と顔を真っ赤にしながら言うカナメ。相棒の些細な悩みに「ふっ」と鼻で笑うマーリンを見て「かっちーん」と彼女は口に出す。
「決勝負けろ」
「それは言い過ぎだろ」
「さすがに嘘だけど………はあ、勝ちたかったなー」
悔しさが滲む表情。
それを見られたくなかったのか枕に顔を埋めるカナメ。
「約束」
「ん?」
「ごめん、果たせなくて」
悲しみを帯びた声。
「それに、一級を目指す為に参加したのに、わたしの我儘で……」
試合開始直後、ドロシーの不調は一目で分かった。それは魔術に関わりのない観客から見ても明らかで、カナメが取った行動の理由もまた、周囲は察していた。
正々堂々の勝負がしたいのだと。
本人は気に病んでいるが、そんなカナメに対する応援の声がマーリンには嬉しかった。勝敗なんかよりも、その光景を目にしただけでここに来た甲斐があった。
「あの選択をしたことに後悔はないだろう? 俺はそんなカナメを誇りに思うよ」
嘘偽りのない、本心からの賛辞。
彼女からの返事はない。
鼻を啜る音が聞こえて、マーリンは席を外すことに決めた。
「試合が終わったら直ぐに戻る。安静にな」
ベッドから立ち上がって、廊下に出ようと扉を開ける壁に背中を委ねていた人物と目が
そっと扉を閉めては「傷なら大丈夫だ」と声を掛ける。
「……そう。良かった」
安堵したような表情を見せるドロシーに少年は面食らう。その反応が気に障ったのか「なに?」と詰められる。
「別に何でもない。少し時間を空けて入るといい、カナメも喜ぶ」
「…………」
困ったような表情をするドロシー。
それを見て間髪入れず扉をノックするマーリン
「カナメ、ドロシーが来てる。入れてもいいか?」
「なっ、ちょっと……!」
「え……? ご、ごめんドロシー! 少しだけ待って!」
慌てる声が扉の向こうから聞こえてきた。目の前にいる魔女に思い切り睨まれ、悪戯な笑みを浮かべるマーリン。




