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その一方的な想いが、魔術師としてどれだけの侮辱を与えたのか。
『他人の痛みなど考えなくていい』
幼い頃から植え付けられた価値観。
『魔術に心なんて必要ない』
呪いのように刻まれた大人達の言葉。
「ドロシー」
彼女が、自身の名前を呼ぶ。
そして、過去は心の中で崩れ落ちる。
鎖で縛られていたかのような重苦しさは消えて、目線を逸らさず、真っ直ぐにカナメを見るドロシー。
「……ありがとう、カナメ」
謝罪よりも、感謝を。
相対する二人の魔術師。
本当の意味でいま向かい合う。
「おかげで目が醒めた」
カナメの口元に笑みが浮かぶ。
ああ。
貴女には悲しみよりも、笑顔が似合う。
「貴女の相応しい相手になれるよう、ここからは全力を尽くす」
ドロシーの靴に、変化が訪れる。
片足だけが綺麗な銀の靴へと。
そして何かを呼び起こすように踵が鳴らされて、銀の靴は粉々に砕け散った。
「おいで、トト」
亀裂。
空間にひびが走る。
投石を受けた硝子窓のように割れて、巨大な目がじっとカナメを覗きこんでいた。
背筋に悪寒が走る。
この感覚をカナメは知っていた。
いや、シルバの森で味わったそれよりも更にーー
観客や実況さえも静まり返るほどの威圧感。ドロシーの真上、割れた空間から覗きこむ巨大な二つの目と微かに見える黒い体毛。カナメが討伐してきたどんな魔物よりも大きく、そして何よりも、恐い。指一つ動かせば死に直結するかのような恐怖感を睨むというだけで植え付けられた。
「これが解錠……」
「正確には解錠じゃない」
カナメの呟きにドロシーが訂正を加える。
「私は半解錠って呼んでる。完全体を喚ぶには銀の靴が二足と、トトの好きな唄ーー詠唱が求められる。でも、そんな時間を速い貴女は許さない。だから、これがいまの私の全力」
「教えてくれてありがとう……」
丁寧に教えてくれるドロシー。
その優しさは嬉しいけれど、目の前の恐怖が混じって、返事も小さくなってしまった。
「貴女の前では嘘を吐きたくないから。それで、どう?」
「……どうって?」
「怖がってるみたいだけど、諦める気になった?」
明確な挑発。
それが、カナメには嬉しい。
「まさか」
強がりで笑顔を見せる。
「俄然やる気出ちゃった」
「そう言うと思った」
カナメは見逃さなかった、その口元の笑みを。それを見ることができて良かったと心から安堵する。
退屈はさせない。
負けるつもりも毛頭ない。
体に突き刺さった針を勢いよく抜いては恐怖を振り払って紫電を纏う。ドロシーの傍にいるアレが何をしてくるのか分からない以上、無策で接近を仕掛けるのは駄目だ。




