8ー2
「おそらくドロシーは解錠ができる」
昨日の夜、宿屋の一室で会話を交わしていたマーリンとカナメ。
「解錠……」
魔術の極致、解錠ーーオリヴィエを助ける為に戦った、夜の森をカナメは思い出す。
マーリンとクルミの命を賭した戦いの跡は凄まじく、現場を見た教団の隊員も言葉を失っていた。陥没した地面、視界いっぱいの倒木。あの戦場の跡を見れば解錠がどれほど危険な魔術か、術師ならば理解する他ない。
「魔術の練度からして出来ると思った方がいい。予選の結果も物語ってる。ドロシーは一級術師と大差ないと」
「めちゃくちゃ不安を煽ってくる……」
「事実だから仕方ない」
解錠をした術師と、解錠をしていない術師とでは戦いにすらならない。
だが、それを覆した魔術師ーー否、魔術の王が、カナメを安心させるように微笑む。
「そう不安がるな。解錠を使うとは限らない。どの試合も使用していないから察するに、術師としての驕りが見える。そこを突けばいい」
「……それはそれで嫌だな」
「嫌?」
「うん。ドロシーとは全力でやってみたい」
「……意外だな。試合に熱くなるタイプでもないだろ」
「だってドロシー退屈そうだから」
試合をするときの彼女はあまりにもつまらなそうに見えた。観客が賑わっている中でも彼女の表情は微動だにしないどころか、落胆しているようにも映る。
試合でもドロシーの笑顔が見たい。
だから。
「だから、わたしが不安がってちゃ駄目だ。いまできることをドロシーに全部ぶつける。そしてーー」
あの夜を思い出す。
短刀の鋒を向けた、初めての出逢いを。
「ーーあなたを倒す」
カナメの言葉に少し驚いたあと、直ぐに少年の口角が上がる。
少年もまた、あの日の言葉をなぞる。
「今度は思い切り遊んでやる。ーー来い」
いつにも増して気分が沈んでいることをドロシーは実感していた。それがどうしてなのか答えは目の前に在る。
「さあ、準決勝第二試合! 間もなく試合開始です!」
観客が沸く。いままで何とも思わなかった声をうるさいと感じてしまうのは集中できていない証拠。初めての感覚に戸惑いながら魔女はゆっくりと顔をあげる。
闘技場の端と端、決闘前の定位置にて向き合うドロシーとカナメ。
つい数秒前の遣り取りを反芻する。
『ドロシー』
挑戦的な、強かな笑み。
『全力、引き出してみせるから』
口元を結ぶ。
ぎゅっと箒の柄を握り締める。
その想いには応えられない。
実力差がどうこうという話ではなく、いまの精神ではとてもーー
視界から彼女の姿が消える。
それに気付いてやっと、試合開始の合図が告げられていたことをドロシーは知った。




