覚悟
アイザックはアイリスへと寄る前にエディ・ウォーカーの実家を訪ねていた。出迎えてくれたのはエディの実母ハンナ。見るからに心身共に窶れた彼女を見て、アイザックの胸に痛みが走る。
その日は雨が降っていた。
窓を叩く雨音、向かい合う形でテーブルに着く二人。
旦那は仕事で不在だという。
「覚悟は」
謝罪をしたアイザックに向かって、彼女は震えた声を発する。
「覚悟は、していました。息子が教団に入るといった日から、私も主人もずっと」
ハンナの手には息子の誕生日に贈ったプレートネックレスが握られている。銀色だったそれは酷く黒焦げており、現場の凄惨さを物語っていた。
ぎゅっと握り締められる形見。
声と同様に、その手は。
「それでも、これはあんまりにも……骨も、残らないなんて……」
「…………」
「……教えてください。誰かから恨みを買うようなことを、あの子はしましたか?」
言葉を返そうとして何も言えなかった。
「どうして」
その涙の前では、何も。
「どうして、魔物じゃなくて、あの子は人に殺されたのでしょうかっ……!」
綺麗な言葉を選んだところで、ハンナの悲しみは癒えないだろう。
外の雨音が強くなっていく。
アイザックはハンナの泣き声が止むまで、ただ黙っていることしかできなかった。
エディ・ウォーカーは真面目な男だった。
与えられた仕事に対して文句を言うこともなければ遅い時間まで黙々と熟す。その様を見続けている隊員らの信頼は厚く、十番隊の副隊長として誰からも認められていた。
当人は野心などないと常日頃から口にしていた。疲れるから現状維持のままでいいと。だがいずれ隊長としての座を譲るときはエディの名前を挙げたいと思っていたアイザック。
魔物が溢れかえるこの世界で、エディ・ウォーカーは仲間が亡くなる度に涙を流す。冷静さを装っているが、情に厚く、犠牲を出さないよう最善の立ち回りを彼は実践していた。
エディ・ウォーカーは真面目な男だった。
真面目で、誰よりも優しい男だったことをアイザックは知っている。
傘もささず、雨にうたれる。
目元からこぼれたものは、水溜まりに落ちる。
彼の遺体は確認できなかった。
現場の黒焦げた跡と、遺されたネックレスと照らし合わせ、答えが導かれただけだ。
唇を噛む。
血が流れる。
その目は見開き、ただ一つの感情に染まる。
覚悟など問うまでもない。
悪は、消えるのが常だ。
身をもって教えてやる。
誰の部下に手を出したのかということをーー




