7ー11
「不戦勝じゃなかったか?」
午前と同じく観客席にいるドロシーに声を掛けたマーリン。遠慮なく隣に座る彼に魔女は無愛想な態度を見せる。
「不戦勝だけど」
「それなら何でいる?」
「…………」
無視。
相も変わらずつれない。
魔女の視線はまだ誰もいない闘技場を見つめている。
「カナメが気になるか?」
その言葉に、肩が僅かに動いたのを少年は見逃さない。
「仲良くしてもらえると、俺としては嬉しいが」
「……敵なのに、仲良く?」
「試合後も敵である必要はないだろ?」
当たり前のことを言ったつもりのマーリンを見て、少し目を大きくする魔女。
「それは、そう、だけど」
歯切れも悪い。だが普通の反応ではない彼女を詮索するつもりは少年にはなかった。会って間もなく関係性も薄い。
心に踏み込むことなく言葉を紡ぐ。
「カナメから話を聞いてるか? 俺達はブリタニアの民だと」
「……聞いてる。エルドラに来たのは、貴方が魔術を探してるって」
ヒバナと話している間に説明したのだろう。ドロシーの言葉から察するに、掻い摘んで話したことは容易に想像できた。
「助けが欲しくてな。俺が無理矢理、カナメを連れてきたようなものだ。それでカナメにとっては初めての海外、初めてのエルドラだ。だから友達と呼べるものはまだいない」
「友達……」
「だからーー」
ーーいや、何を言わずともカナメなら上手くやれるだろう。社交性がある相棒にこれ以上はただのお節介かと思い直し「まあ、そういう訳だ」と会話を締める。
そもそも、カナメは既に彼女を友達と思っているのかもしれない。横目で盗み見るようにドロシーの表情を窺う。
「…………」
何だか難しい顔をしている。
これ以上言うのは野暮かと、少年もまた横の彼女と同じように闘技場へと視線を下ろした。
自身の対戦相手ーーカナメの試合を見た感想は「素早い」という何の捻りもない一言だった。得物は短刀。接近戦を得意とするのか、自身から距離を詰めて決着をつける短期戦タイプ。凡そ魔術師らしくない戦い方にジェイミーはカモだと内心で嘲笑っていた。
距離を詰められないよう遠くから魔術を当てるだけで勝てる。彼女は幸運だ。これまで試合してきた相手は簡単な対応ができていなかっただけに過ぎない。
まあ気持ちは分からなくもない、何故なら接近戦に持ち込む魔術師などそうはいないからだ。焦って術式が乱れ、普段のような心持ちを維持できなかったのだろう。だが自分は違うとジェイミーには自信があった。誰が相手で、どんな魔術を使おうが関係ない。
魔術はメンタルが全てだ。
自分に自信を持つことこそが勝ちに繋がると、試合前までは本気でそう思い込んでいた。
息を切らす。
汗が落ちる。
当たらない。
攻撃が、何一つ、当たらない。
「ちょ……ちょこまかと……!」
観客席で目にしたのと速さの感覚がまるで違う。対応できると思い込んでいたその自信は、実際の動きを目の当たりにして容易く崩れる。こちらの魔術が効果を発揮する前に躱されるストレスも手伝って、ジェイミーの術式は乱れに乱れ、本来のパフォーマンスから遠ざかっていく。
それを自覚したときにはもう遅い。
首筋に触れる冷たい感触。
世の中は無情だ。
才能があると周囲に持て囃されていたジェイミーは今日、世界を知る。
上なんて、見るものではないと。




