7ー10
実況や歓声の盛り上がりが耳に入らないほどの集中に没するマーリン。炎に覆われた指を鳴らし、少年の背後に現れるは予選で見せた魔術、火雨。
単体の魔術なら成程、その腕なら幾らでも対処できよう。
だが複数は?
疑問の答えを知りたいが故に展開した魔術。槍の形を成した火の雨が降り注ぐ前にーーマーリンは神業を見た。
目に追えないほどの早撃ち。一分の淀みもない動作に見惚れている間、火雨が全て無効化されているのを見届けて少年は恍惚の笑みを浮かべる。
「随分と余裕そうだな」
息を切らしながら声を掛けてくるマルコー。
「そっちは辛そうだな」
「まさか。おじさんだからといって、甘く見てもらっては困るよ」
「……ふっ、ペリノアを思い出す心意気だ」
誰だそれは、といったマルコーの反応に構わず術式を編むマーリン。
両腕を広げては無防備な姿を晒す少年は格好の的でしかなく、素早い所作で矢を放ったマルコー。
「とくと見よーー」
だがそれは体に届くことなく、不自然に空中で止まる。鏃から羽根までゆっくりと氷漬けにされ、地に落ちては粉々に割れた。
「ーー魔術の真髄、その一端を」
いつの間にか発生していた氷霧。
目を凝らさずとも在る異形。
氷龍 グウィバー。
静寂の中、天を衝くような威容をもってしてそれは降臨した。氷の出来物ーーそう捉えてしまうには、あまりにも生を感じさせる氷の龍。鱗一枚一枚がはっきりと分かるほどの造形、宝石のように煌めく赤い眼、そして、主の命とあらば直ぐに喰らいつこうと光らせる牙を前に、マルコーは乾いた笑いを漏らした。
しかし彼は構えをとる。
まるで誰かの想いを背負っているかのような、そんな覚悟を彼の目に見る。
「悪いが、諦める訳にはいかなくてね」
絶望的な状況を前にしても目の奥に灯る闘志に、マーリンは嬉しそうに笑みをこぼす。
「いくぞ、少年」
「来い、魔術師」
そうして決着はついた。
マルコーに後悔はない。
無謀だと嘲笑う声、才能の差に同情する眼差し、それらを受けても彼は試合をして良かったと心から思う。いつまで経っても敗北は苦しい、辛い、だがそこには学びがある。
次は勝てよと、観客の声が聞こえた。
言われなくとも。
幾つになっても足掻いてみせるさ。
人生はまだ、始まったばかりだ。




