7ー9
マルコー・マルクスは二級の魔術師だった。
現在は降格を受けて三級の地位に落ち着き、粛々と魔物の討伐を続けている。
だが歳を重ねれば重ねるほど魔物との対峙が辛くなっていくのを感じていた。肉体を常に鍛えても反応の遅れが命取りとなるこの世界では、年齢による衰えはあまりに致命的だ。全盛期の反射神経とは程遠いことを実感しており、高位の魔物討伐を避けていたが故の降格にマルコーは誰よりも納得していた。
世代交代。
その言葉がマルコーの頭に過ぎる。
それが時代の流れというもの。ウィリアムのことを責める気にはなれない。彼の気持ちは痛いほど分かる、分かるからこそ、納得できなかった。
きっとこの感情は世間からすれば醜いものだ。歳をとれば誰もが諦める。それでもマルコーは抗う道を選んだ。
肉体は年老いても魂は衰えていない。
それを証明する為に矢をつがえる。
狙いは今回の参加者で最年少の天才魔術師ーー
「レディ、ファイト!」
放たれた矢を前に少年がとった行動は風斬での切断ーー狙い通り矢に命中はしたものの、弾くだけで斬れてはいない。
ーー硬い。
籠められた魔力の量からして簡単に裂けると思っていたマーリン。弾かれた矢は地に落ちることなく空中で転換し、鏃は再び少年へと向けられて襲いくる。追尾型の矢に「ほう」と感心の声を漏らす。
そして第二の矢が放たれたことを視認し、即座に防御を選択しようと考えたーーが、それではつまらないと判断し、土壁を生み出そうとした手を止め風薙を自身に利用する。
現代の術師は接近戦に弱いとされている。
わざわざ敵に近付く必要はないとされ、安全圏で遠くから攻撃をすることが魔術師の基本的な戦い方だ。カナメや魔女、円卓のような例外を除けば大抵は近接戦闘を避ける。
だからこそ通ることが多い。高速移動による跳躍ーー側頭部目掛けての素早い蹴りをお見舞いする少年。
「近接が不得意だと思ったか?」
弓を持つ左腕で防がれる。
「非力」
着地したと同時に右の蹴りを繰り出すマルコー。鋭い蹴りをバックステップで躱すマーリンは先に放たれた追尾型の二本矢を見向きもせずに掴み、瞬時に燃やす。
その隙につがえられた矢、そこに籠められた魔力の質からして、追尾型とはまた違う効果を付与したのだとマーリンは見抜く。
面白い戦術だ。
弓を扱わないマーリンにとってマルコーの一挙手一投足は新鮮に映る。が、新鮮なだけで実践的ではない。矢が単に硬いだけだ、この程度の火力で燃えるものなら勝負は直ぐに決まる。
掌に点いたままの炎をマルコーに向ける。
咬炎。
虎の口を模した炎がマルコーの全身を呑み込もうとして、その矢は放たれた。鏃が牙に触れたその瞬間ーー咬炎は消失し、矢は消し炭となる。
咬炎を見て瞬時に魔力の質を変えたーー水の術式が刻まれた矢で自身の魔術を無効化したことに「素晴らしい」と声を出す。




