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「あなたたちふたりで外に行きなさい」
アイリはムウの傍に座り、頭部の応急処置をしていた。おびただしい量の血の海に浮かぶムウは、未だに目を閉じたままだった。アイリは自身の服の裾を破くと、包帯としてムウの頭部に巻いた。布は一瞬にして白から赤に染まった。
私の右肩は脱臼をしているようで、何度力を入れてもピクリとも動かなかった。ワンピースからむき出しにした肩の表面には、濃紫のあざがひとつ浮かんでいた。左手で恐る恐る触ると、鋭い痛みがゆっくりとやってくるようで面白かった。触りすぎるあまり、ズキズキと本格的に痛みだしてしまった。
私の肩にリタがえんじ色の布を巻きつけてくれた。ナイフで切り取って短くなった彼女のスカートからは、乳白色の脚や真白い下着があらわになっていた。しかし彼女はそれを気にする素振りを見せなかった。ほんとうの思いやりとはこういうものなんだろうな、と私は思った。
アイリが私たちを呼んだのは、ムウを清潔な場所に移動させた後だった。
私たちは近くのソファに身を埋め、ムウのかすかに上下する胸部を見つめていた。
「あなたたちならきっと大丈夫」
電灯に照らされたムウの真白い頬を、アイリの指先が滑っていく。
「私はムウのそばにいるから」
私とリタは同時に頷いた。助けを呼ばなければ、ムウは助からない。私たちだけではなすすべがないことは明白だった。私が立ち上がろうとして、リタがすかさず手を貸してくれた。私の左腕がリタの首筋に巻かれる。酸味の強い血の匂いが鼻を突いた。花と太陽の香りは、その裏側でじっと潜んでいるようだった。私の左手には指一本たりともこぼすことなく、リタの細い指が絡んだ。
「誰にも会えないってことはないはず。大変だけど、よろしくね」
「アイリは、大丈夫なの」
「まあ」
彼女は微笑を浮かべつつ首肯してみせた。
「今のところはね」
言葉の端に影があることは目に見えていた。アイリがときおり見せる苦い表情は真意こそ伝えないが、ある種の予兆を断片的に示していた。この先に起こる、アイリの末路を、彼女自身が受け入れなければならない未来を。
アイリの諦観を、私たちは受け入れることにした。これもアイリだけが持ち得る、勇気の形なのだと思う。
私とリタはアイリのそばに寄り、再び三人で抱き合った。別れの抱擁はじんわりと温かくも、どこかから寒風が吹いているようだった。アイリは私の上がらない右腕に触れないように手を回してくれた。私はアイリの腹に触れないように腰を引かせた。互いの頬を寄せ合い、まるで冬眠をする際の野生動物のように、互いの呼吸を感じ合った。
「信じてるよ、アイリ」
「私も信じているわ。あなたたちのこと」
私は最後まで離れることができなかった。
それはリタもアイリも同じだった。




