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「こうして、ほしぞらをとぶれっしゃは、ふたりをのせ、どこまでも、どこまでもいくのでした」
アイリとムウに出会ってから、私はモモとともにアイリの部屋へ行くようになった。
夜を四人で過ごしていると、寒いはずの空気が暖かく感じる。心に空いた穴が埋められていくような気持ちになる。私はひとりでいるのも悪くはないと思っていたが、それは正しくもあり、間違いでもあった。ともあれ、みんながいることの喜びを知ったことで、次第にみんながいなければならないと思い込んでいった。
モモがムウを膝に乗せ、絵本を読んでいる。私はその様子を見つめていた。どこかで見たことのある光景だった。あと少しで思い出せそうな歯がゆさを感じる。覚えていないのに覚えている感覚は、見たことがないのに見たことがある、といった既視感と似ていた。ただ単に私がそう思い込んでいるだけかもしれなかった。
「ビビ、どうしたの?」
そうして黙っていると、右肩にアイリが寄ってきた。ダークブラウンの瞳が私を覗き込んでくる。彼女は口元をほころばせ、ほのかな笑みを浮かべていた。
「い、いや……」
私は曖昧な笑顔で返そうとしたが、それを取り消した。
「アイリちゃん、ちょっとおしえてほしいことがあるんだけど」
アイリは「なんでも訊いて」と言わんばかりに首肯した。私を受け入れてくれる雰囲気に、少しだけ胸が軽くなった。
私は意を決して、聞くべきことを訊くことにした。
「メメって、どんなひとだったの?」
モモにした質問と同じことを私は訊いた。アイリも、メメのことを知っているはずだった。メメの日記には出てこなくとも、モモが知っていたならば、アイリが知っているのも当然である。モモがアイリとムウを紹介した際に口にした、「私たちの友達」という言葉を信用するならば。
アイリは果たして、モモの時と同じ反応をした。そうね、と本棚の前に座ったまま、私をじっと見つめてきた。つま先から頭のてっぺんまでを舐め回すダークブラウンの瞳は、触られていないのにくすぐったくなった。
「今までに会ったことのない人だったよ」
彼女はにこやかにそう言った。秋の朝陽の柔らかさに似ていた。
「『おそらのにおい』ってした?」
「したよ。もっと言えば、空そのものみたいな人だった」
「ふうん……?」
アイリの言葉に、私は空を想像する。頭上に広がる、どこまでも続く白と青を、時間によってその表情を変える、不思議な存在を。
「お母さんみたいな人だった?」
「どうだろ……私は男の人みたいだなって思ったよ」
「おとこのひと?」
「まっすぐだったんだよ、メメって。思ったことは貫こうとする、意志の力が強かった。一度、私の部屋にひとりで来たことがあってね、ずいぶんと危険なことを訊いてきた。その真剣な顔を見て、この子は私と同じ女の子なのかなって、そう思った」
「そうなんだ」
母親であり、男性でもある少女——ますます、メメのことが分からなくなる。
私はそのまま、次の質問を投げかけることにした。
「モモちゃんってさ、リタっていうなまえなの?」
アイリは私の目をじっと見つめていた。ほのかな笑みこそ浮かべていたが、私はそこから、悲しみを隠そうとする感情を読み取った。触れてはならない質問だったのかもしれない——そう思っていると、アイリは私の腕に手を伸ばした。かさかさとした指先が皮膚を滑っていった。
「それは、モモ本人に訊いてみなよ」
吐息を含んだ涼しげな囁き声だった。
「ビビが訊けば、彼女はちゃんとあなたの想いに向き合ってくれる」
「うん、わかった」
視界の端で、モモがムウに絵本を読み聞かせている。「こんは、あかちゃんを まっていました……」その声は、どこかで聞いたことのある声だと思ったが、やはりモモの声でしかなかった。




