表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやすみ、メメ  作者: ようひ
36/63

4

 

「こうして、ほしぞらをとぶれっしゃは、ふたりをのせ、どこまでも、どこまでもいくのでした」


 アイリとムウに出会ってから、私はモモとともにアイリの部屋へ行くようになった。

 夜を四人で過ごしていると、寒いはずの空気が暖かく感じる。心に空いた穴が埋められていくような気持ちになる。私はひとりでいるのも悪くはないと思っていたが、それは正しくもあり、間違いでもあった。ともあれ、みんながいることの喜びを知ったことで、次第にみんながいなければならないと思い込んでいった。

 モモがムウを膝に乗せ、絵本を読んでいる。私はその様子を見つめていた。どこかで見たことのある光景だった。あと少しで思い出せそうな歯がゆさを感じる。覚えていないのに覚えている感覚は、見たことがないのに見たことがある、といった既視感と似ていた。ただ単に私がそう思い込んでいるだけかもしれなかった。


「ビビ、どうしたの?」


 そうして黙っていると、右肩にアイリが寄ってきた。ダークブラウンの瞳が私を覗き込んでくる。彼女は口元をほころばせ、ほのかな笑みを浮かべていた。


「い、いや……」


 私は曖昧な笑顔で返そうとしたが、それを取り消した。


「アイリちゃん、ちょっとおしえてほしいことがあるんだけど」

 

 アイリは「なんでも訊いて」と言わんばかりに首肯した。私を受け入れてくれる雰囲気に、少しだけ胸が軽くなった。

 私は意を決して、聞くべきことを訊くことにした。


「メメって、どんなひとだったの?」


 モモにした質問と同じことを私は訊いた。アイリも、メメのことを知っているはずだった。メメの日記には出てこなくとも、モモが知っていたならば、アイリが知っているのも当然である。モモがアイリとムウを紹介した際に口にした、「私たちの友達」という言葉を信用するならば。

 アイリは果たして、モモの時と同じ反応をした。そうね、と本棚の前に座ったまま、私をじっと見つめてきた。つま先から頭のてっぺんまでを舐め回すダークブラウンの瞳は、触られていないのにくすぐったくなった。


「今までに会ったことのない人だったよ」


 彼女はにこやかにそう言った。秋の朝陽の柔らかさに似ていた。

 

「『おそらのにおい』ってした?」


「したよ。もっと言えば、空そのものみたいな人だった」


「ふうん……?」


 アイリの言葉に、私は空を想像する。頭上に広がる、どこまでも続く白と青を、時間によってその表情を変える、不思議な存在を。


「お母さんみたいな人だった?」


「どうだろ……私は男の人みたいだなって思ったよ」


「おとこのひと?」


「まっすぐだったんだよ、メメって。思ったことは貫こうとする、意志の力が強かった。一度、私の部屋にひとりで来たことがあってね、ずいぶんと危険なことを訊いてきた。その真剣な顔を見て、この子は私と同じ女の子なのかなって、そう思った」


「そうなんだ」


 母親であり、男性でもある少女——ますます、メメのことが分からなくなる。

 私はそのまま、次の質問を投げかけることにした。


「モモちゃんってさ、リタっていうなまえなの?」


 アイリは私の目をじっと見つめていた。ほのかな笑みこそ浮かべていたが、私はそこから、悲しみを隠そうとする感情を読み取った。触れてはならない質問だったのかもしれない——そう思っていると、アイリは私の腕に手を伸ばした。かさかさとした指先が皮膚を滑っていった。


「それは、モモ本人に訊いてみなよ」


 吐息を含んだ涼しげな囁き声だった。


「ビビが訊けば、彼女はちゃんとあなたの想いに向き合ってくれる」


「うん、わかった」


 視界の端で、モモがムウに絵本を読み聞かせている。「こんは、あかちゃんを まっていました……」その声は、どこかで聞いたことのある声だと思ったが、やはりモモの声でしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ