表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやすみ、メメ  作者: ようひ
28/63

27


頭上には、雲ひとつない青空が広がっている。

それはどんな絵の具でも、どんなクレヨンでも、どんな色鉛筆でも、決して描くことのできない、甘くて酸っぱい、鼻がむずむずするような青色だった。

私は辺りを見渡そうとして、しかしやめた。

わかっていた。

私の隣には誰もいないし、何もない。

延々と続く黄土色の大地でひとり、かげおくりをしているのだから。

かげおくりは「10」を数える間で自分の影を凝視し、空を見上げると、影が空に浮かんで見える遊びだ。

実際に自分の影を空へ送るわけではない。

私はそれを楽しみにしていた。

嬉々として地面に伸びる人影を見つめる。

真っ黒な影は私のものとは思えず、まるで黒く塗り潰されてしまった誰かのようだった。

どんな気持ちでそちら側の世界にいるのだろう、と疑問に思う。


「いち、に、さん」


心の中で数え始める。

もうすでに上を見たい気持ちになってしまったが、楽しみのためにグッとこらえた。

じれったい思いをごまかすため、黒い輪郭を舐めるようにして眺めた。

私であるはずの影は、どうしても自分の影に見えなかった。

身体を揺らすと黒も揺らめく。

無理して私に合わせなくてもいいんだよ、と呼びかけたくなる。


「し、ご、ろく」


そういえば、さっきまでパパの部屋にいたはずなのに、私はほんとうの風を感じていた。

いくらか強い風が頬に絡んでいき、首筋がくすぐったくなる。

太陽は私の背後で輝いているようだ。

じりじりとした暑さは、鬱陶しく全身を舐め回してくる。

お日さまって、こんなに暑かったっけ。

また顔を上げたくなってしまったので、影に集中する。


「しち、はち、きゅう」


私はかげおくりが成功することを心の底から楽しみにしていた。

それと同時に、とても怖かった。

私の影を送った空を見ることが、楽しみで、怖い。

怖い? 

どうして怖いのだろう。

いくら影といえども、私であるはずの私の影が空に盗られるのが怖いのだろうか?

今こうして大地を見下ろしている私は、果たして本当の私なのだろうか? 

私が見つめるこの影こそが本当の私だとしたら? 

……かげおくりを終えたら、私は空へと飛び立ち、そのまま消えてしまうのだろうか。

そんなちぐはぐな思いを抱えつつ、最後の数にたどり着いた。

つい先ほどまで考えていたことは、もう忘れてしまっていた。

そうだ。私はかげおくりを楽しみにしていたんだった。


「じゅう」


私は終わりを静かに受け入れようとした。

青空を見上げようと顔を上げる。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ