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頭上には、雲ひとつない青空が広がっている。
それはどんな絵の具でも、どんなクレヨンでも、どんな色鉛筆でも、決して描くことのできない、甘くて酸っぱい、鼻がむずむずするような青色だった。
私は辺りを見渡そうとして、しかしやめた。
わかっていた。
私の隣には誰もいないし、何もない。
延々と続く黄土色の大地でひとり、かげおくりをしているのだから。
かげおくりは「10」を数える間で自分の影を凝視し、空を見上げると、影が空に浮かんで見える遊びだ。
実際に自分の影を空へ送るわけではない。
私はそれを楽しみにしていた。
嬉々として地面に伸びる人影を見つめる。
真っ黒な影は私のものとは思えず、まるで黒く塗り潰されてしまった誰かのようだった。
どんな気持ちでそちら側の世界にいるのだろう、と疑問に思う。
「いち、に、さん」
心の中で数え始める。
もうすでに上を見たい気持ちになってしまったが、楽しみのためにグッとこらえた。
じれったい思いをごまかすため、黒い輪郭を舐めるようにして眺めた。
私であるはずの影は、どうしても自分の影に見えなかった。
身体を揺らすと黒も揺らめく。
無理して私に合わせなくてもいいんだよ、と呼びかけたくなる。
「し、ご、ろく」
そういえば、さっきまでパパの部屋にいたはずなのに、私はほんとうの風を感じていた。
いくらか強い風が頬に絡んでいき、首筋がくすぐったくなる。
太陽は私の背後で輝いているようだ。
じりじりとした暑さは、鬱陶しく全身を舐め回してくる。
お日さまって、こんなに暑かったっけ。
また顔を上げたくなってしまったので、影に集中する。
「しち、はち、きゅう」
私はかげおくりが成功することを心の底から楽しみにしていた。
それと同時に、とても怖かった。
私の影を送った空を見ることが、楽しみで、怖い。
怖い?
どうして怖いのだろう。
いくら影といえども、私であるはずの私の影が空に盗られるのが怖いのだろうか?
今こうして大地を見下ろしている私は、果たして本当の私なのだろうか?
私が見つめるこの影こそが本当の私だとしたら?
……かげおくりを終えたら、私は空へと飛び立ち、そのまま消えてしまうのだろうか。
そんなちぐはぐな思いを抱えつつ、最後の数にたどり着いた。
つい先ほどまで考えていたことは、もう忘れてしまっていた。
そうだ。私はかげおくりを楽しみにしていたんだった。
「じゅう」
私は終わりを静かに受け入れようとした。
青空を見上げようと顔を上げる。




