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ブノの発明

ブノの過去が判明していきます。

※今回だけ更新時間を早めました

○マツカイサ城 王座

「報告申し上げます。元帝国騎士団ブノ=アウヒ=ターリング他一名を拘束しました。作戦は成功ですギール様」

 城の中心にある広大な装飾が施されている一室に、赤い絨毯(じゅうたん)がその部屋でたった一つしかない立派な椅子に続いていた。

 横にはスワリン連合の高官がその椅子を中心に横に並んでいた。

 その中心の椅子に座っているマツカイサ帝国皇帝ギールは、皇帝直属部署で極秘特命を受けるセンツが黒いマントを床に広げて顔はうつむいている。

 左膝を床につけ、両手を手のひらで斜めに合わせ、左腕を脇に引いて右腕を突き出しているこの地方特有の作法で報告をしていた。

 その報告を聞いて、横に並んでいる大臣や役職の高官達は脱力しきった安堵の表情を浮かべた。

「ご苦労」

 一言、皇帝は一人だけ顔を変えずに言った。ずっとセンツは顔を下にしてそんな違いのある反応を聞いていた。


 皇帝は無表情の顔を微妙に和らげて続けた。

「ここにいる誇りある男の話を一対一で聞きたい。我のわがままだが、この者の勇敢記は後日、まとめたものを配布することにする。全員深夜までご苦労」


 ギール皇帝が自ら執筆する『勇敢記』。

 実際に勇敢な活躍をした人物の体験談を題材とし、地方最高権力の皇帝自らがその者を褒め称える書イストール地方では有名である。

 この執筆には皇帝がその勇敢な者と一対一で朝方まで話を聞き、その日の夜には書き上げ、翌日出版される。兵士にとってこの主人公に選ばれるのはとても名誉あることだ。

 その光栄な恒例行事をしっかり心得ている横に立っていた偉い人は解散の号令の後、こそこそ退室していく。


 いくら身分が上だとはいえ、一兵士のセンツが片や大陸の頂点に立つ皇帝と護衛・監視無しの二人きりという異様な光景が出来上がった。

 当初は命が狙われるという危険性から反対が多かったが、皇帝が“腕”で証明し、もしもの有事の対策として椅子の周りに大陸随一の結界を張っているので心配ない。


 広大な武力と優れた文才を持ち君臨する皇帝は顔を上げている功労者に向かって口を開いた。

「で、センツ。一度は無罪になった男になぜそれまで執着する。証人もいただろう」

「怖れながら皇帝。一年半前の奴が行った村の虐殺と言う行為は、世間からは腹正しい批判の声が根強く残っています。

 このスワリン連合七千年の歴史の中でかつて聞いたことのない大量洗脳術を持つ者を、世に放たれている状況ではこの地方に住む民の不安は計りしれません。私は身を粉にして捕らえることに重点を置きました」

 淡々と顔を変えずに自分の行動を報告していく。


「……遠征から帰ってきて、その日の夜に特別確保の号令をお前の権限で出した。階級でこの号令を出すことは認めているが、俺にも分からないことがまだあってね……。決定的な根拠は何だ」

 目が鷹のように鋭く、猛烈に大きな気迫を出している。

 その中でセンツは笑った。

「それがですね……特に無いんですよ。誰もが納得出来る証拠」

 想定を超えた鋭い目線が結界を破り、皇帝に突き刺さる。



○マツカイサ城 城内通路

「ボットお兄さん何者?」

「ははは。とても凄い冒険者さ」

「確かに珍しいけど……」「むー」

 フームは、ボットの正体を探りかねていた。

 ジョーおじさんが冒険者と言われても分かる。だってお調子者だから。

 かなり気の強いけど、照れ屋さんなお姉さんが敬語で話していた。

 お城に入る時、アオお姉さんが正面をお城の兵隊さんと対応していたから、実際の正体が分からない。

 別行動が必要みたいで、二人と離れるのは嫌だったけど、ここで我が儘を言っては仕方ない。

 絶対にブノを助けに行くんだ。




「フームは、無詠唱魔法って知っている」

「言っている意味がわかんない」

 突然、フームにとって難しい言葉を投げかけていた。

「魔法は威力が大きくなると、詠唱を言わないと使えないのは知ってる?」

「うん」

「何で?」

「分からない」

 そう言えば、何でだろう。

「元々言葉には言霊が宿ると言われてきたんだ。これは哲学や心理学といった分野。人と人との心のやりとりだと考えてられてきたんだ。ある時、言葉は魔力を作用する要素があると分かったんだ。これが詠唱する理由」

「ふーん」

「だけど、詠唱。魔法が出るタイミングに時間があるんだ。ピンチな時に攻撃されたら大変だ。分かる?」

「うん。何かする時にいたずらされて邪魔されると何も出来ないもん」

「そうそうだから、短くする必要があったんだ」


 そういって、フームとムフーをひょいっと両腕で、ボットは抱えた。

「メリロイ ザシンリー イブタン!」

 バンッと加速をして前に進んだ。

 わーいわーいと、恐がりもせずフームとムフーはきゃっきゃっと笑った。

「最初に詠唱を短くする目的で開発されたのが“三単唱”。

 三つの単語の組み合わせで発動させる。

 そして今のは槍の突撃走法。現在使われているものは、ブノが改良したものが普及している」


「そうなの! ブノ魔術師だったの!」

 フームは、呪文を新たに開発するのは魔術師でも難しいと聞いた。

 もしかして、ブノはかなり凄かったのか。

「いいや。ただマツカイサ帝国には、そういった素晴らしい発見をした者に賞金をかなりの額支給制度がある。充分に審査を合格できるものだ。確かそれで田舎に広い土地を買ったと聞いたな」

 へー。ノシン村の畑かなり大きいからって村の人に言われたことあるけど、お金はその時沢山貰ったんだ。

 フームは一人納得した。

「その功績が認められてマツカイサ帝国騎士団に入ったのだけど、その時に悪い奴がブノを陥れた。アオはそいつの正体を時間をかけて探り当てて、やっと正体をつかんだんだ」

「でも、ブノとミフおじさんも捕まった」「むー」

「ああ。二人とも死なせる訳にはいかない」

 どんな人か結局分からなかったけど、信じてみたいとフームとムフーは思った。

「因みに無詠唱で今さっきの突撃走法を行うと」

 もう一回

「えっもうしたの?」「むー」

「そう。詠唱が無くなって隙が無い上に、魔力の動きが察知しにくくなるんだ。つまり、」

「忍び込むのはもってこい?」

「そう。良く出来ました」




○マツカイサ城 地下牢屋

「で、お前は教師さんから本の購入。俺はバルジャック王国に行く手段の開拓のだけの筈だったのに、俺らなんで牢屋に入れられているんだ?」

 突然これからブノの過去の話を聞くぞと思っていた矢先、突然兵士が乱入し、捕らえられて手錠をかけられ、こんな薄暗い冷たい地下の鉄格子の中である。

 突然の襲撃に誰もがこの状況に頭がついていくだろうか。


「ふっ。何ともない。答えはシンプルだ。敵は俺が邪魔なのさ。ミフは巻き込まれた」

「その巻き込まれて処刑までいったら、冥界に戻れると思うか?」

 ブノは冷静に言ってきた。

「この世界の住人は魔法が使えるんだろ!」

「うるせぇ。俺は常用魔法五つしか使えないの!それに魔法よけのきつい手錠されているし。それよりお前は神を一度は斬っているんだから、この檻をその剛力で何とかしろよ!」

「手でこんな模様まみれの怪しい鉄格子斬れというバカか? そもそも刀ないし。」

「この刀無いと不抜けたアホ。ポンコツが!」

「誰がポンコツじゃ! そう言えばお前の歳で常用魔法五つしか無いとか、割り算が何とか出来る程度らしいな」

「うるさい! お前こそ、元々イシャララに会ったとか、死神が可愛いとか言って、本当は他大陸のスパイでこっちが巻き込まれたかもな!」

「言ったな! 俺も正直」

「そっちこそ!」

 そんな口喧嘩が続いていく。

 途中、見張りの兵士がうるさいと止めに入ったが、二人の気迫で追い返される程だ。

 


 かれこれ三時間が過ぎた。



「そう言えば、お前一年半前に何かどうかと言っていたな。あれはどういう意味だ?」

 頭が冷えた。

「言っても良いが……。」

「ああ。分かっている。フームには言わないと言う約束だったな。」

「助かる」

 そういってブノは息を吸い、過去の話を語り始めた。

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