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帝国騎士団東方村事件

ブノの過去が明らかになります。

一年半前 イストール地方東海岸

「我ら、マツカイサ帝国騎士団の誇りを持って任務に就いてほしい。」

 帝国トップクラスの少数精鋭隊の隊長は作戦前の兵に激励を飛ばす。


 マツカイサ帝国筆頭のスワリン連合(イストール地方を統括している国家連合)は、共同運営している組織がある。

 以下は、主に以下二つは武力を持ち、それぞれの役割を持っている。


 主に主要都市、街や重要拠点などの護衛や治安維持には守護隊。

 他地方での戦闘を目的とする遠征隊という大きく矛と盾を持った構成になっている。

 これらが、イストール地方では人員において最大規模を誇る。

 他大陸では個人の冒険者集合体であるギルド制に依存するよりも、国家連合を母体とすることで安定性を重視した社会構造となっているためだ。


 他に、所属している国や領地によって騎士団・衛兵等、公的な武装組織は有象無象に存在する。


 そんな中でも群を抜くのは、マツカイサ帝国騎士団だ。

 味方からは讃えられ、他の大陸では恐れられている存在だ。

 一説には騎士団三十人で一万の軍隊とはり合えるらしい。


 そういった実力主義のエリート集団の中に、十七歳のブノ=アウフ=フェリヒはいた。

 一年間の訓練を終え、そこから某国の守護隊に派遣されて一年間経って生活していたのだ。

 この時点でマツカイサ帝国騎士団への抜擢は、異例である。

 あまりにも前例がないことで周りも驚いたが、当の本人も驚いた。


 それほど、あの突撃走法の三単唱の改良は凄かったのだろう。

 国からかなりの額の賞金が、もらえると有頂天だった先のことだ。


 とは言え、憧れの騎士団に入れるのだからとこの気を逃がさないわけはない。

 友人(特にアオという幼馴染み)からの反対もあったような気がするが、異動後の厳しい訓練を終え、いよいよこれから初陣が始まることに気持ちを高ぶらせていた。


 初陣はこの村にある不穏材料の一掃。

 先輩に聞いたら、他の地方のスパイがいるということで、その制圧になるらしい。

 後、質問しすぎていちいち詮索するなと上官から、よく言われた。

 突入の合図が出て、槍を片手に村へ突入した。


「ここで後悔するはめになった」

 ブノは、ぽつりぽつりとあの時のことを語ってくれた。





 少し待ってくれよ……。ここはスパイがいるんだろう。


 これじゃ……。まるで……。

 バタンと家の扉から飛び出した男がいた。

 道の真ん中で立ち尽くす、

 武器を持った俺の事など気にも止めず、

 俺の横をかすめ後ろで逃げ去っていく。


 その後を、またしても大きな炎の渦が俺の横をかすめ、逃亡している男に貫く。

 男は転がって消火を試みるが、よりいっそう炎は燃える。

 身体中、火だるまになり、皮膚、眼球、風穴からの内蔵が焼けていった。

 一瞬立ち上がったと思うと、甲高い声が叫び、バタッと倒れた。

 そして燃えて黒こげの肉片になる中、死後硬直の影響で体が丸まっていく。


「おい。しっかり周りを確認しろ!」という先輩の声が聞こえた気がする。

 いや、聞こえていない。ただ一人、精神が崩壊し、とぼとぼ辺りを放浪していた。

「助けて!」

「熱い!」

 そんな声があちこちから聞こえる。

 さすが騎士団は仕事が早い。

 スパイだけでなく、この村そのものを壊滅させ、スワリンの力を示させたいのだろう。



 こんな田舎ものの俺だから、こんな事を見抜けやしない。

 大きな光には必ず陰があると、村の教師に散々言われてきたのに……。

 これから、先輩達を止めてこの町の壊滅をこれ以上進行させないか。

 いや、俺には出来ない。

 先輩達に叶わない。

 後の軍法会議で俺が殺されるとか自分の身を守ることしか考えていない。

 俺は臆病者だ。



 ふと横を見ると、二歳くらいの女の子が家の壁にもたれ、瀕死の母親に向かって揺すりかけていた。

 屋根の上の石が落ちそうなのを気づいていない。

 ずん。と何処かで爆発が起きたとき、とうとう屋根の摩擦力が耐え切れない。

 あっといこう間に、その少女が潰される。






 はずだ。

 一人の騎士の体で守られるまでは。

 騎士……いやブノは何が起きたか分からない。

 ただ、状況を理解するより先に体が自然に動いた。

「…………」

 少女は何が起きたのか分からず、上を見上げてブノと目があった。

「……」

 数秒間その光景が続き、ふわっと少女の意識が遠のき、倒れる。

 直ぐに少女の様子と母親の状態を調べた。

 少女は気を失っているだけのようで大丈夫だが、母親は駄目だった。

 出血量が多いようで、脈も呼吸もかなり少ない。 体がブルブルと震えだしている。



「セ…ン…ツ…い……め……。か…み……むし……して……こ…のこ…は…イ……シャ……ララ……さま……にささ…げ……み……。せ…かい…の……うず…。たの…。」

 そう言って力尽き、死んだ。

「何で神……センツ?」



 少女を横のまま持ち上げ、振り向く。

「……」

 そこにはこの作戦に参加した十人の王国騎士団の仲間がいた。

 全員愛用の武器それぞれ持ち、敵に対して構えていた。

 いつもと違うところと言えば、その刃先が俺に向けられていたことだ。


「先輩達、この地のスパイの始末はもう終わった筈です。生存者は見当たりません。付近の捜索後、早急な撤退が賢明な判断だと思われます」

 頭が混乱しているのに、震える口からなぜすらすらと言葉が出るのか不思議だった。

 ここで選択肢を間違えるとマズイことは分かる。



「その腕にいる奴は?」

 先輩の一人がそう言った。俺の腕の上には少女が眠っている。

「唯一の生存者です。えーと。申し訳ありません新入りなもので、お名前を伺ってよろしいですか」

「センツだ。全員の名前をすぐに覚えておけ。その子を渡せ。こちらで面倒を見る」

 隊長が列の一歩前に出る。普段は頼もしいが、こう向かい合って立つと飲み込まれてしまうような。

 そんな脅威しか感じない。


 ほんの数秒後に連合最強の騎士団が十人掛かりで襲ってくる。

 ほんの数時間で、下っ端だが、仲間に殺される状態に陥るのは特殊部隊ならではということか。


 センツは、手を前に出す合図をした。いつもより紅く濁っている目が一斉に飛び係ってきた。

 戦場で敵に背中を見せることは自殺行為とたたき込まれたが、逃げなくても圧倒的不利。

 こんな一対多戦闘などやった事がない。

 しかも初陣。

 最強の相手達。


 訳分からん。

 そういえばなんで俺がこの部隊に辞令が出たのはなぜだ?

 他の奴より秀ているものは……。

「メリロイ…ザシンリー…」

 一歩一歩近づいてくる攻撃の中少女を抱きかかえ、右足を後ろに引き、構えた。



 恥ずかしい話。常用魔法たった五つしか使えない俺だ。

 日々の訓練では、その五つの威力を上げることしか考えていなかった。

 才能の無さに憤慨したが、大きな丈夫な矢が五つ自分にあるのは間違いない。


 魔法発動時と同時に足の裏に力を込めた。

「イブタン(点火)!」

 迫ってくる壁に向かって飛び込んだ。

 この時、水面に飛び込むような背骨が地面の平行になるようにし、正面の表面積を小さくした。

 そして、するりと脇の間を無事通り過ぎる。

 

 その姿、まるで色んなモノを貫く槍の如く。

 そこから、一目散に村から逃げ出した。




 逃げて逃げて逃げた。

 途中、持ってきていた携帯用カンパン。森になっている木の実や薬草。芋虫などを食べながら進む。


 逃げている背中にはずっと目を開かない少女がおぶられていた。

 呼吸、脈はずっと安定したまま。ほぼ、ずっと眠っている。

 目を覚ました時、しっかりと水や果実などの栄養源は取らせている。



 そして、八日後ずっと森の中を走りっぱなしに体が悲鳴を上げた。

 あれからずっと逃げていた。

 あの虐殺、味方からの牙に生き地獄化としたあの日から。

 


 寝ようとしてもあの光景が思い出され、とにかく前へと体を動かせた。

 ほとんど休息を取らなかった無理が祟った。


 すやすやと眠り続けている少女を木にもたれさせて、体を地面の上で横になった時、動けなかった。

 ゆっくり目が閉じていき、意識が遠のいているのを感じた。




 がさっ

「?なぜこんなところに人が?」

 薬草を採ろうと二つ村分遠くにあるノシン村からのはるばるこの森にやってきた教師さんは、木の周りで寝ている少女と兵士のような格好の男を見つけた。



 後日、この作戦で動員された帝国騎士団が壊滅し、生存者がわずかになったニュースは後から聞いた。


 マツカイサ帝国騎士団東方村事件と、世間では呼ばれることになった。




「この騒ぎで不味いことになったのは、フームの一族に宿る魔力が黒魔法と誤認識されて広まったことだ」

「黒魔法? とても暗黒的な想像はつくが」

「バルジャック王国がためらいも無く使用した禁忌の力。あの村が、王国の末裔が集まっているという事実が、信憑性を高めたのがいけなかった」

「間違いを間違いだという証明は難しい訳か」

 そうだな。と、ブノは頷いた


 ノシン村で聞いた「臆病者だ」と卑屈になっていた意味が分かった。



「俺たち二人を保護してくれたその人が、村であった教師さんだ」

「そうなのか」

「その後、事情聴取を受けた。敵前逃亡の部分はかなり追求されたが、生き残った団員達は共通して記憶が残っていなかったらしい」


 その後、真相は謎のまま閉廷となり釈放されたが、無抵抗の人が殺されるのをただ呆然と見ているしか無かったこと。

 公に無実と言うことを断定されたが、公衆の目は冷たいことという理由で騎士団を辞め、槍を置き、教師さんを頼ってノシン村で農業を始めて一年半がたったらしい。



「よく生きていたな」

 というか、それぐらいしか言葉を思いつかなかった。

「まぁ。あの教師さん変なところに人脈があるようで助かった」

 やっとブノが笑い声を見せた。


「で、今回の事の発端はその事件が関わっていると」

 ああ。おそらく。とブノは答えた。


「もしかしたら、黒幕が噛んでいるのではないかと思っている」


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