56・おや?何やら厳つい奴が……
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相棒を片手に、既に展開を終えてくれている『小鬼』の群れへと、一呼吸で練った『気』で足を強化した上で『縮地』を行い、『小鬼』共が予想していたであろうソレを遥かに上回る速度で突っ込み、最前線で度肝を抜かれていた間抜け共を、藁でも刈り取るかの様に、次々に突き刺し、凪ぎ払い、斬り捨てて行く。
その途中でチラリと左右を見てみれば、俺から見て右手側ではタツがその巨体で縦横無尽に暴れまわりながら、流れる様に技を繋ぎ『小鬼』共をまるで塵芥であるかの様に宙に打ち上げ、弾丸の様に吹き飛ばしつつも、飛ばした先で玉突き事故を発生させ、間合いの内側に入り込んで来たモノは、遠慮や手加減の類いを一切せずに地面に叩き付けてめり込ませている。
……正直、『滝登り』の膝による打ち上げから、『岩流れ』の肩から胴まで使った突飛ばしによって発生させられた人身事故に繋げ、最後の『巖戸崩し』の正拳からの鷲掴み→叩き付けのコンボは、少々過剰火力に過ぎると思うんだが、ちと殺りすぎじゃあなかろうか……?
そんな感想を抱きながらも、前面の敵を凪ぎ払うべく、大きく相棒を振るったついでに、俺から見て左手側で奮闘しているハズのレオの方へと視線を向ける。
するとそこには、遠距離からの連続投擲にて、無理矢理に戦列に隙間を作り、そこに強引に身体を滑り込ませ、敵の喉元や手首や腿の付け根等の、重要な血管が通っている部分に的確に刃を滑らせ、最小限の労力と破壊で戦列の隙間を大きく食い込ませると、その内側から身体ごと回転させる程の勢いを乗せ、身体中に仕込んでいた暗器や投擲物の類いを四方八方に文字通りバラ撒き、身体の何処かに何かが足された、愉快なオブジェを量産すると、早くも次を創るために、その顔に凄惨な笑みを張り付かせながら一旦開いた距離を、再度詰めるべく適度に投擲等をしながら突撃して行く。
……俺やらタツやらの方が、他人からは良く『戦闘狂』だとか、『死にたがり』だとかと呼ばれたりするのだが、正直な事を言えば、それらの称号はむしろレオにこそ相応しいんじゃ無かろうか?と、こう言う場面を見ていると思えてくるのだけど、気のせいだろうか?……うん、気のせいでは無いと思う。
そんなことを考えながらも、身体は勝手に殺気や敵意に反応し、修行と称した拷問によって染み込まされた動作を自動でなぞり、俺が左右に視線を反らしていた間にも、襲い掛かって来ていた『小鬼』を殺戮する手を一切止めずにいたらしく、視線を正面に戻した時には既に、俺の背後に知らぬ間につくりあげていたらしい血河屍山が広がっており、その事に気付かずに振り返って、自身の行った所業に対してドン引きしたのは、ここだけの話である。
……まぁ、タツとレオがこちらに向けている視線に、『笑い』やら『からかい』やらの色が混じっている以上は、俺がどんな状態にあって、アレ(後方のブツ)を造ったのが誰なのか、まで全部バレていると見て間違いは無いだろう。
そんな感じで通常種の『小鬼』を、手当たり次第に駆逐しつつ、眼前で偉容を誇っている城塞(城壁?)を目指して進んでいるのだが、敵の数が俺達の数と比べると些か多い故か、何体倒しても倒しても切りが見えずに、いい加減多少の『飽き』が俺達へと押し寄せ始める。
「……やべぇ、いい加減飽きて来たんだけど……」
そう溢しながらも、一切相棒を振るう手を止めずに、更に死体を十、二十と量産して行くが、それでも敵の数は一切減少した様子を見せない。
……ちと多すぎはせなんだか?
「……愚痴っても仕方あるまい。とにかく倒せ」
「殺り始めた以上は~、最後まで殺るのが礼儀ってモノでしょ~?なら~、最後まで殺らなきゃ~、ね~?
それに~、言い出しっぺのタカが投げるのは~、些か『無責任』ってヤツじゃあ無いのかなぁ~?」
『思わず』と言った感じでポロリと溢した俺の一言に対して、案外なまでに『呆れ』の感情を乗せた突っ込みを入れて来る二人。
「……とは言ったって、こうも雑魚ばかりがウヨウヨと群がって来る様な戦場に対して、『飽き』以外の何を感じれば良いんだよ?まだまだこんな状況で雑魚相手の戦闘を続けねばならないとなると、流石に飽きが来ようってモノだ……ろ!!」
そう返事をしながら、空いている左手に槍を生成し、軽い掛け声と共に全力……と言う訳ではもちろん無いが、それでも『気』による強化を施していない素の身体能力の範囲では、それなりに本気を出している『風切り』にて投擲し、敵陣の後方にて魔法を放とうとしていた杖持ちを3~4体纏めてぶち抜き、敵後衛に僅かながら動揺を与えておく。
そんな俺の行動に反応してか、敵後衛が動揺を見せた僅かな隙に対してレオがまず行動を起こした。
俺が与えた動揺から覚めて、こちらへと事前に攻準備していた撃を放とうとしたモノから順番に、身体中に仕込んでいた、もしくは『空間収納』から取り出した投擲物を使って順次無力化して行き、敵側の動揺や混乱を更に増長させて行く。
そして、そうやって乱された敵陣の後方へと、前面で俺とレオが撹乱しているのを良い事に、自分だけ気配を殺して回り込んでいたタツが強襲を掛けて、直接的に蹂躙を開始する。
「……ふぅ、どうにかなったか……」
タツが乱入したことにより、元より乱れ気味であった隊列の殆どが崩壊し始める様を目の当たりにした事により、僅かながらに浮かんでいた額の汗を拭いつつ小さく溢す。
「何だかんだ言っても~、僕達は所詮『少数』だからね~。対処のし辛い遠距離型を~、さっさと潰せたのは大きいんじゃないかなぁ~?」
俺の呟きに反応するように、レオが消費した分の暗器や投擲物を全身に再装填ながら、軽く相槌を打ってくる。
パッと見では、俺達が雑魚相手に無双しており、俄然余裕綽々でこちらの方が優位に立っており、完全に俺達が押している様にも見えるだろうが、実際の所としては、そこまで余裕が有るわけでもないし、言うほど優位に立てている訳でもない。
むしろ、俺達の方が若干不利な状況にあると言っても良いかも知れない。
一応、俺達に有利に働く様に、籠られると攻略が面倒な城塞から出てきて貰って、こうして平地戦に持ち込ませて貰っているし、こちらの戦力を過小評価しているらしき敵方は、通常種の『小鬼』しか投入していないので、個体ごとの強さも大した事が無い点も、俺達に優位に働いている。
それに、遠距離攻撃の手段に乏しい俺達が、先に敵の遠距離型を潰せた事は、今後の戦況に大きく影響する事であるのは、まず間違いは無いであろう。
……だが、それだけなのである。
確かに、個人の武力としても、装備にしても、連携にしたとしても、俺達の方が上だろう。
だが、それらの面で上だったとしても、どうにもならないのが『数』の問題である。
実際、俺は既に感覚から言うと、アストさん達と一緒に戦っていた時よりも多く、具体的に言えば、あの時の倍は既に倒している。そして、同じ様なペースで戦闘を行っている以上、タツとレオが倒した分も、似たような数になっている事は、まず間違いないだろう。
故に、俺達は既に軽く『1000』を越えるだけの数の『小鬼』を倒しているハズなのだが、それでも一向に減った様子は見えてこない。
むしろ、倒せば倒す程に、敵陣奥の城塞から補充要員が湧き出てきている様子すら、目を凝らせば観察することが出来る。
……確かに、この程度の連中であれば、多少時間と体力を消耗する事を前提として置いて良いならば、幾らでも倒すことは出来るだろう。
だが、その場合は、俺達とて無傷で切り抜ける、と言う事は、少々厳しいと言わざるを得ない。
そして、更に言うならば、敵方は極少数の上位種、特にその中でも下位のモノしか投入してきていない様子である事から、まだまだ戦力を温存しているのであろう事は、予想するのに難しくは無いだろう。
そして、もし仮に、この状況を強引に引っくり返そうと思うのならば、雑魚共の『数』に対して有効な範囲攻撃たる『魔法』を使うか、もしくはまだ城塞内に居ると思わしきボスを目指して一点集中で敵陣をぶち抜き、速攻で首を落とす位の事を敢行する必要が有るが、前者は俺達では使えないし、使えたならばとっくにやっている事なので現状不可能。
後者にしても、ボスが何処に居るのかすら不明である以上は、そうそう易々と行える様な手では無いし、無闇矢鱈に行えば、下手をしなくても雑魚共からの集中砲火を浴びる羽目になるので、最悪俺達の誰かが欠けかねない。それはあまり頂けないからね。
『命の水』がまだ殆ど一本ずつ持っているとは言えども、進んで痛い目には逢いたく無いし、出来るだけ損害の大きくなるような手段は取りたくないのが実情である。
……腕一本犠牲にして、龍の胸板に風穴開けた奴が言うな?
……ほら、あの時は、もう既に俺個人は限界を超えちゃってたから、あそこで腕取られなくても、どの道死ぬことには代わりなかったからね?ホントダヨ?
そんな、今回の戦いには関係……無くもない事を考えながらも、半ば自動で『小鬼』を凪ぎ払っていると、思う存分に敵後衛をかき回し、最早態勢立った攻撃は望めないだろう程に被害を与えて来たタツが、敵陣を後ろから真っ二つに裂きながら、俺達の方へと合流を試みるべく走ってくる。
流石に、その一騎駆けを許すつもりも、また俺達へと合流させるつもりも無いらしく、最短距離を直進してこようとするタツの前方と、俺とレオが二人掛かりで暴れていたお陰で周囲に出来つつあった空間に、周囲の雑魚や、それまでチラホラ見掛けた上位種よりも、体格や装備の類いが上等な個体が立ちはだかる。
タツの方には、自身の身の丈を越えそうな程の大剣を掲げた個体と、俺の相棒よりも若干長そうな槍を携えた個体の二体が、俺達の方には、縦長の盾と長剣を構えた個体と、自身の背丈の倍程の長さのポールアックスを肩に担いだ個体、そして、人間が使ったとしても、分類的には『大弓』に分けられるであろうサイズの弓を構え、既に矢をつがえて引き絞っている個体の三体がそれぞれ向かって来ており、そいつらの邪魔にならない様にか、他の雑魚共は当然としても、それまで指揮を採っていたハズの上位種までもが、遠巻きに眺めるだけで襲い掛かって来ようとする素振りすら見せずにいる。
「……フム?どうやら、こいつらは今まで見掛けた上位種モドキと違って、本物の上位種っぽいな。どのランクかな?」
「そうだねぇ~、しかも~、こいつらの個体としての強さも中々みたいだけど~、『指揮』だとか『統率』だとかの面の方で~、少々手強そうだよ~?もしかしたら~、切り札として温存しておいたランクの奴らでも~、投入してきたのかなぁ~?」
……となると、こいつらはアストさんの説明にも出てきた、上位種の『総統』ランクの奴らと見た方が良いだろうかね?
そんな風に考えながら、矢鱈と体格の良い奴らを観察していると、こちらの動きが無い事に焦れたのか、それとも『隙あり』と見たのかは不明だが、硬直していた戦場を強制的に動かすかの様に、弓を引き絞っていた個体が俺とレオの居た所目掛けて矢を放って来る。
武装からして、開幕の一手は恐らく弓持ちの奴なのだろう、とは予想していたので、温い射撃であったのならば、いつぞやの訓練の様に空中で掴み取ってやろうか、とも考えていたのだが、放たれた矢を見るなり、レオと共にその場を飛び退き、左右に散る形で飛来する矢を回避する。
……あの矢、最初の頃の先生のそれよりも、かなり鋭さと早さがあったけど、もしかしてこいつらって、何かしらの『武術』を習得していたりするのか……?
そんなことを考えていると、左右に別れた俺達に対してそれぞれ、レオの方には盾と長剣を持った個体が、俺の方にはポールアックスを持った個体が接近を掛けており、半ば強制的に意識が現実へと呼び戻され、眼前の敵を排除するために身体が動き始める。
長柄の武器を使うモノに共通した利点として、己の間合いを広く持てる、と言う特性が有るのだが、どうやらこの眼前の『小鬼』はこれまでの『ただ手に持っている武器を振り回す』事しか知らない間抜け共とは違い、己の持っている武器の特徴を理解し、それを武理に従って扱えるだけの知性と技術を持ち合わせているらしく、開幕放たれた横凪ぎの一撃には下手な受け方をしたのならば、その武器や防具の類いごと無惨にひしゃげさせられる様な予感を抱かせるのに、十分過ぎる程の威力を秘めていると確信させるだけの『圧』があり、流石は上位種!と心の中で、ある種の喝采を贈らざるを得ない程の迫力を纏っている。
そんな一撃をわざと回避せずに、相棒にて防御する事を選択する俺。
当然、そのまま馬鹿正直に受けてしまっては、流石の『朱烏』諸ともに叩き斬られかねない為に、垂直に受けずに角度を付けておいたり、インパクトの瞬間に相棒を手前へと僅かに引き寄せて衝撃を逃がしたり、と言った小技を駆使して受つつ、『気』による強化を用いない範囲の全力で受けてみたのだが、その場で威力を殺しきる事が敵わずに、多少のノックバックを強いられる事となってしまう。
その事実に少なくない衝撃を覚えていると、風切り音と共に俺の元へと矢が飛来し、それを慌てて回避すると、先程の攻撃の硬直が解けたらしきポールアックス持ちが、追撃するために更に前進を仕掛けて来る。
流石に、これ以上一方的な展開はあまりよろしくないので、追撃として降り下ろされた一撃を最小限のサイドステップで回避すると、こちらからも反撃の突きをお見舞いしてやる。
すると、どうやら本能的にも、これまで殺られた雑魚共の死に様からも、俺の一撃を貰うとヤバい!と言う事は理解出来ているらしく、咄嗟に降り下ろしていたポールアックスを手元に引き戻し、俺の突きに合わせるように突き出すと、その柄の部分を活用し、相棒の穂先を僅かに滑らせる事に成功し、本来喉元を貫くハズだった一撃を、肩口に掠めさせる程度の損傷で回避する事に成功する。
……ヤバい、こいつら、こっちの世界に来た当初の俺達よりも、多分強いかも知れない……。
そんなことを脳裏に過らせながらも、強襲気味に飛来する矢を回避しながら、タツとレオの戦況を確認するために、少々視線をそちらに反らす。
タツの方は、普段中々相手にする機会の無い重量武器たる大剣と、間合いの広い長柄武器である槍相手に勝機を見出だす事が出来ずに苦戦している様子であり、レオの方はレオの方で、盾で防いで剣で攻撃すると言った、最も苦手としている正攻法的な『硬い戦術』によって攻めたてられており、突破口を見付ける事が出来ず、やや焦っている様にも感じられる。
……これは、タツを確実に仕留めてから、そちらの戦力をこっちの方に上乗せして、確実に仕留めに掛かっていると見た方が良さそうだね。
しかし、こんなこと、『小鬼』共の足りない脳ミソで、考え付く様なモノなのだろうか?本能的に良さそうだったから、とか言う理由で仕掛けられた事だったら、何だか嫌だな!?
頭の片隅でそんな下らない事を考えながらも、目の前の敵は、こちらが『本気』で掛からねばならない相手である、と認識した為、思考傾向が戦闘一色に変わって行く事を自覚しながら、早めに片付けて他の二人の援護に回るべく、相棒を構えて突き進むのであった。
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