46 幽霊屋敷 8
どこかで見たような顔。
俺は壁からすり抜けてきた少女を見たときにそう思った。
「そっちは・・・危ないです。行かないほうがいいわ」
今にも消えそうな声で、少女は語りかけた。
「君は・・・?向こうにはなにがあるんだい?」
「いま、先生は新しい生徒を迎えるんだって・・・。」
「先生?」
あぁ、この少女は2階にあった写真の少女だ。よく似ている。
新しい生徒?なんのことだ?
「ねぇ?もしかして新しい生徒って・・・お姉ちゃんたちじゃ」
少女はマナの問い掛けには答えなかった。
「今なら、私の部屋の窓から逃がしてあげるから・・・二人はもう逃げたほうがいい」
「そんな、お姉ちゃんたちは!?」
「ごめんなさい・・・。」
次の瞬間、少女の顔に明らかな同様の色が見える。
「あぁ、みんなが・・先生が来るって・・・早く・・・ここから」
彼女はそう言いながら姿を煙か霧のように消してしまった。
「な、なんだったんだ?」
「あれが、幽霊?」
「お前、女神だろ?見たことないのか?」
「な、ないわよ!うちらの仕事は魂の選定。幽霊と魂は別物よ!」
そうなのか?
ま、本職が言うなら間違いないだろう。
しかし、俺の死霊使いとしてのアンテナも何も感じない。
幽霊と死霊もまた似て非なるものか?
「それは、それとして・・・」
「あ、あんなの聞いたあとに行けるわけないじゃない!あの向こうにはなんかいるんでしょ?先生とかいうのが!」
キッチンに繋がる扉。なぜだろう、気のせいだと思いたい。凄まじいまでの威圧感。
あの扉の向こうで何が起きている?
気配がないのがまた一段と怖い。
「しかし、ルナとリアもいるかもしれん・・・」
「それは、わかってるけど。・・・~!!わかったわ!行くわよ!相手がどんなヤツだって星の女神の名のもとに倒すんだから!」
「お前、言ってることとやってることがチグハグだぞ・・・。」
俺の後ろに隠れながら勇んでいるが、腰が引けている。
「いいのよ!早く行くわよ!」
覚悟が決まったのか、マナはゆっくりと俺の背中を押す。
(おいおい、まだ心の準備が)
ギィィィ・・・
「ま、待て!!!あいた!!扉があいた!!」
目の前で、扉がゆっくりと開いた。
中は、何も見えない。
深淵。
廊下には月明かりが入るのに、なぜだ?扉一つ向こうはまるで別次元のようだ。
「なにも・・・見えないわね」
「だれかぁ!なかに誰かいるのか!?」
廊下から呼びかける俺たちの声に応える者はいない。
ただ、声は闇に吸い込まれるように消えていった。
少しの沈黙のあと、
『あぁぁぁああああああっ!!』
「ひやっ!!」
「・・!」
突如、目の前の闇から声というには荒々しい、叫び声が聞こえた。
驚きのあまり声も出なかった。
(なにか?獣でもいるのか?この先には)
「ね、ねぇ・・・」
「わかってる。」
空気が流れている。
風、と呼ぶべきなのか、暗い闇の中に空気が吸い込まれてる。
「誘われてるのか・・・」
俺たちはゆっくりと闇の中に足を踏み込んだ。
空間の中は、リアが以前作った異空間とは少し違った。
何が違うか?と言われても分からないが異空間、と呼べるものかすら怪しい。
辺りを見回すも、人の姿、形を確認できない。
バタンッ!
背後の扉が勢いよくしまった。
まぁそうなるだろう。ここまでくれば俺でもわかるさ。
問題は、敵がどこにいるか・・・。
「ルナー、リアー。返事してくれー」
「お、おねえちゃーん」
真っ暗な空間を歩き続けると、何かを蹴飛ばした。
カラカラカラ・・・
(ん?)
足元に落ちているものを拾い上げる。
えんぴつ・・・?
拾ったものをマナに見せると、瞬間、手を伸ばした先も見えないほどの闇が一気に光に包まれる。
「ま、眩しい!」
「今度はなんだ?」
まばゆい光に目を奪われ、俺たちは目を伏せる。
急に、あたりがざわつきだした。
人の気配ではないが、なにか複数の気配がする。
「はいっ!今日はみなさんに新しいお友達のご紹介です!りあちゃーん!るなちゃーん!」
「お、おはようございます・・・。」
「みんなおっはよー!!ルナだよー!」
光に目が慣れ、自分の周りを見回してみると目の前には整列した机、机に向かって座る子供。正面には黒板と20代の男性の姿。その横には、赤毛と銀髪の少女の姿。
「ルナ・・・、リア」
リアは元々幼女の姿だったせいかすぐにわかるが、リアと同じくらいまで幼くなった銀髪の少女。あれはルナだろう。
あれは・・・また。可愛い。
「はい、自己紹介をお願いします。今日は、転校生のルナちゃんとリアちゃんのお父さんも来ているんだよー。いつもみたいにいい子にしてくださいねー!」
「はーい!」
「では、リアちゃんから!」
「は、はい・・・。あの、リアです。・・・よろしく」
リアはゆっくりとルナの後ろに隠れてしまう。
あいつ、あんなキャラだったのか?
「はいっ、次はるなちゃん」
「はーい!ルナでーす!本は嫌いです!遊ぶのが大好き!なかよくしてくだしゃい!」
「はい!よく出来ました!みなさん、仲良くしてあげてね!」
「はーいっ!」
なんだ?この茶番は。
「お姉ちゃん・・・可愛い!!」
このシスコン女神が!
「今はそんなこと言っている場合ではないだろう。助けるぞ!」
「も、もう少しだけ・・・」
「手遅れになっても知らんぞ!」
「わ、わかったわよ!お姉ちゃん!お姉ちゃん!!帰るよ!!」
「リア、リア!!起きろ!」
俺たちは2人のもとに駆け寄り、話しかけてみるが2人の目は死んでいた。
「ママ、まだ学校きたばっかりだよ?」
「パパ、リアは起きてるけど・・・」
だ、ダメだ。洗脳なのか、一切俺たちの声が本人に届いていない。
「いいから来い!!」
俺がリアの腕を掴むと、周りに居た子供たちが群がってくる。
「ダメだよ!」
「離してよ!新しい友達!!」
「ヴァ、ヴァネットー」
頼りない声でこっちを見るマナ。どうやら向こうも状況は同じのようだ。
(あいつは・・・)
マナの後方、さっき廊下で現れた少女ではないか。あの少女は俺たちに危害を加えていないようだ。
あの子は、ほかの子供と何かが違う。
リアとルナも、ほかの子供とは何かが違う。
「おい、先生よ!」
「はい?なんでしょうか?」
とぼけた感じで先生は聞き返してくる。
「お前は、なぜここにいる!?」
「な・・・ぜ・・・?おかしなことを。教師が生徒に教育してなにがいけないのですか?」
先生は首をかしげる。
「お前は、ここにいるべきものではない!なぜ、この屋敷の少女の気持ちを裏切った!」
「ヴァネット?何言ってるの?」
マナが子供たちを振り払って隣に駆け寄ってくる
「こいつは、人間ではない。この屋敷の少女、リア、ルナ。すべて憶測だ。これは禁呪。閉魂だ。」
「閉魂??なにそれ。」
「生きてる人間から命。魂を抜き取る魔法だ。遥か昔に途絶えたはず・・・。」
「そ、それを使うとどうなるの?」
「肉体から魂を抜かれ、肉体はそのまま朽ちる。魂は抜かれた相手の従順な玩具になる。あの二人のように
相手を受け入れてしまうのだ」
そう、以前魔界でも死者の腕輪というアイテムがあった。魔界でも1つしかないレアアイテム。ネクロマンサーが所持を許される死霊を操ることが出来る腕輪。あれに近いものだ。
「そ、それがどうしたっていうの?」
「あいつは、この屋敷に住んでいた元教え子、さっきの少女だ。二階に写真があったろう。それに、今捕まえたリアとルナの魂を抜いたんだ。いくらあの二人でも魂を抜かれたなら抵抗もできないだろうよ。ただ、わずかな理性で抵抗を続けているだ。他の子供とは違って俺たちの邪魔をしてこないのが証拠だ。いいとこ、ハーメルンの笛吹にでもなったつもりで先生として活動するために子供をさらったんだろう」
ピキッ・・・
先生の顔に、細い線が入った。
「そんな、お姉ちゃんたちの体は?肉体はどこに行ったの?」
「大丈夫だ。肉体に興味がなくほったらかしならあいつをどうにかすれば魂は肉体に戻る」
「い、急いでどうにかしないと!!」
ピキッ・・・
その顔に亀裂が入ると、頬の皮膚が崩れ落ちた。




