43 幽霊屋敷 5
「大丈夫か?2人とも・・・」
2階のそこそこ大きな部屋、おそらくゲストルームだろうか。来客用の部屋だと思われる。
正気を失う寸前だった2人を連れて、とりあえずここまで来た。
まだ、2階も調べていないのにこの有様。
これでは、間違いなく俺たちはゲームオーバーだろう。
さて、どうするか。
「・・・俺がとなりの部屋を見てくる。その間、ここで待っていられるか?」
「えっ!?マナと二人になるの?」
「ど、どこいくのよ!こんなところにうち達をおいてっ!」
ダメだ。正気を失っている。
完全に目が、恐怖に支配されている。
「お、お前たちがいてもまた怖がるだろう?ここは、どうだ?2人で留守番は」
「いやよ・・。こわい」
「うちも、こわい・・・」
二人は立ち上がると、それぞれが俺の両手を握ってくる。
なんだ?このシチュエーション。俺はこんな状態でも、なぜか嬉しいぞ。
ルナにも頼られ、こんな可愛らしい姿が見れ、いつもはうるさいマナにド突かれることもなく、イヤミも言われず、それどころかマナにすらこんな頼られ、可愛い姿を見られる。
もしかしたら、この状態が俺にとっては『はーれむ』というやつではないのか?
マナも、普段怖いが見た目はルナと姉妹なだけあってルナに劣らず美しい。
ルナの澄んだ癒されるような青い瞳。
マナの燃えるような輝き煌く赤い瞳。
涙に潤むとまたそれがイイ。
「一緒に・・・」
「連れてきなさいよ。」
「・・・は、はい」
(これが、人間界の言う吊り橋効果。ってやつなのかもな)
置いていくことができなくなり、再び3人で俺たちは屋敷の探索に行くことにした。
ギィィィ・・・
少し錆び付いた重い扉を開くと、中は寝室だった。
2階最後の部屋。ここで、2階は全て見尽くしたことになる。
リアの姿は結局なかった。
「なにも、かわりないな」
どこの部屋も、最初に起きた怪奇現象依頼静かなものだった。
ここも、変わったところはない。
両親の部屋だろう。子供と写った写真がある。
部屋にはベットが二つ。
本棚とセンターテーブル。クローゼットも綺麗に片付いていた。
「なにも、ないですね。」
「あぁ、なにもないな」
この部屋も、特になし。
俺は正直焦っていた。
敵の動きがなくなっている事に。敵が何かしら動きを見せないとリアを助けるにも居場所がわからない。
居場所がわからないと、このまま彷徨うだけで進捗が得られない。
消耗戦になると、女神2人がいるこっちのほうが明らかに不利だ。
「仕方ない、2人とも、次に行こう。1階もよく見れば地下への扉などあるかもしれない」
開くことのない窓から下を見下ろす。
外に出る。たったそれだけのことがこれほど難しいことだとは。
「あぁ、地下ですね。全く盲点でした。急ぎましょう!」
多分、少し気が緩んだのだろう。
これも、敵の作戦なのかもしれない。
お気楽なルナが自分のペースを取り戻した瞬間だった。
「バカっ!!戻れ!」
クローゼットを見ていたマナはなんのことか理解できていないようだった。
俺は、急ぎルナのもとへ駆け出す。
ルナは、俺に怒鳴られたことに驚き、一瞬身を竦ませるが、ゆっくりとこちらに振り向いて『どうしたの?』と言いたそうな、困った笑顔をしていた。
その笑顔を最後に、俺の手が届くことはなかった。
バタンっ!!・・・
部屋の扉が勢いよく閉じる。
マナはようやく理解できたようだった。
ドアノブを数回ガチャガチャと回すも、扉は開かない。
さらに続けて回すと、閉じ込められてから5秒も経過していないだろう。
そこには、ルナの姿はなかった。
急いでマナも飛び出してくる。
「るな?・・・ねぇ、ルナは?お姉ちゃん!」
信じたくない。と言った表情でマナはあたりを彷徨うが、そこにはすでにルナの気配はない。
「ルナ!・・・ルーリエ!どこにいるの!?ルーリエ!」
「ルーリエ?」
「ルナの名前よ。ルナ=ルーリエ。ルナはルーリエって呼ばれるのがあまり好きではないの。だから、この
名前で呼べば隠れてても出てくるはず・・・。」
ルナの名前・・・か。
ルーリエ。一回も聞いたことないな。
「ルナ?でてきて・・ルナ?、お姉ちゃん」
今にも消えそうなほどの小さな、か細い声。
マナはヨタヨタと廊下をさまよい、俺から少しづつ離れていく。
「待て、危ない。危険だ。」
マナの手を掴むと、彼女は涙をポロポロと流しながらこっちに振り向いた。
肩を小刻みに震わせながら、頬をいくつもの涙が流れていく。
「・・・」
かける言葉が見つからず、俺はそのままマナの顔を見ていた。
「お姉ちゃん、ずっと一緒だったの。死んじゃうなんて嫌だ・・・。いやだよ」
「まだ、死んだと決めるのは早い。今は、少しでも早くこの屋敷にいる見えざる敵を見つけるのだ。」
「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・」
彼女の耳に俺の言葉が入っているのか?返事がない。
「マナッ!!」
俺は、マナの手を引張り寄せ、抱きしめた。
「バカ!ヴァネットのバカ!お前がもっとしっかりしてれば!!」
「あぁ、すまない。俺が悪い。だから、そこまで悲観的になるな。お前は悪くない」
抱きしめた腕の中で、マナはドンドンと俺の胸を両手で叩いていた。
なぜか、剣で斬られるよりも、槍に刺された時よりも痛い。マナの悲痛な気持ちが手から伝わるようだ。
泣きながら身体が揺れるマナを強く抱きしめた。
「お前の姉は強い。強くて綺麗な女神だ。そんな簡単に死なない。お前が天界を抜け出してまで会いに来た
姉なんだろ?お前の気持ちはみんなよくわかってる。俺がどうにかしてやる。絶対に見つける。」
「無理よ・・・人間のあんたに、何ができるのよ。」
「無理じゃない。俺が命に代えてでも、ルナを助ける。ルナのためにも、お前のためにも。そしてリアのためにも。・・・」
「うちのため?」
「あぁ。愛する家族だ。お前のためになら俺は相手が神でも魔族でも逃げはしない」
「あ、愛する・・・かぞく?」
俺はルナを愛している。ルナの妹であるマナ、お前がルナの家族ならば俺の家族も同然。ルナが愛する妹は俺も愛するべきだ。
「そうだ。だからお前は、俺が守る。お前のルナを助けたいと願う気持ち、確かに受けったぞ。」
マナは俺の腕の中で動かなくなった。
どうやら、少し落ち着いたようだ。
これで、暴走したり、いきなりどっかいったりすることはなくなるだろう。
「その、すまなかった」
「えっ?」
急に抱きしめたりしたからな・・・。
また、殴られたらたまったものではない。
「お前の気持ち、よくわかった。俺の気持ちも、わかってほしい。」
「お、お前の気持ちって。・・・それって・・・いきなりすぎるけど・・、か、考えとく」
おぉ!今日は聞き分けがいいじゃないか。
マナがルナを愛する気持ち、慕っている気持ちはよくわかる。
だが、俺もルナを愛している。そして、ルナの愛する姉妹のお前のことも同様に家族として愛している。
素晴らしき、人間の家族愛。うまく伝わったようで良かった。
「行こう、1階を探すぞ」
俺はマナの手を握り、階段を降りていった。




