39 出れない
「おまえ、今回のは2人に黙っていてやる・・・貸しな?」
「うっさいわよ!変態っ!見ないでよぉ!!」
その場に座り込み、身動きが取れずに涙目で俺を見上げるリア。
薄暗い屋敷の窓からこっちを見ていたのはマナだった。
何か言っているようだが、何も聞こえない。
窓を開けるにも、固くて動かない。
そして、身動きがとれないリアは失禁していた。
最初は、なにかこぼしたのか、濡れただけかと思ったのだが・・・。
彼女いわく、年寄りならあれで死んでた。らしい。
確かに、俺も怖かった。この平和な人間界で始めて恐怖を感じた一瞬だった。
リアの気持ちはわかる。
だが、前回のマナのパンツの件もあるからな。これは貸しってことにしておこう。
この際ずぶ濡れにして欲しい。と彼女の要望で庭にあった蛇口でリアの服をびしょびしょに濡らす。
これで、漏らしたとは気づかれないだろう。
「さて、一体何が起きてるんだ?」
「さぁ?私はもうどうでもいいわ・・・まさか、こんなところで漏れちゃうなんて・・。変身してると、見た目だけじゃなくて精神も幼女になっちゃうのかしら」
「さぁな。気の持ち用だろ?。とにかく、マナにルナが一緒じゃないのか聞いてみないといけないな」
「はぁ、・・・マナに見られてないといいな。」
ぎぎぃぃぃ・・・
重く、擦れたような音を出しながら扉が開く。
中は、うっすらと明かりがところどころについていた。
(なんだ、灯りついているじゃないか)
「いくぞ、リア」
「はぁい・・・」
乗り気じゃないリア。彼女は今、漏らしたことから立ち直れないようだ。
俺は扉を閉め、エントランスに入っていく。
「おおぉーい!!」
「お、おねーちゃーん・・・」
遠くの方で、走ってくる足音が聞こえる。
この屋敷、随分でかいな。
「まってえぇ!!しめちゃだめー!!」
遠くの方でルナの声が聞こえる。
反響して場所がどこかわからない。
「お、おねーちゃーあん!!」
「リアちゃん、扉閉めないでぇえ!!」
「と、とびら?」
俺たちが振り向くも、そこにはすでに閉まった扉がひとつ。
今更言われてもな。
バンっ!!
勢いよく扉が開くと、ルナとマナがエントランスに飛び出してきた。
「ど、どうしたんだ。2人とも・・・」
「あぁああっぁぁぁぁ・・・」
「しめちゃったぁぁ」
力なくその場に座り込む彼女たち。
閉めた?何を言っているのだ?
「どうした?さっきのはなんだ?リアがマナの顔に本気でビビってたぞ」
「こっちは必死なのよ!ここから出れないの!!」
「出れない?そんなの、ここから出ればいいじゃないか」
「それができたら苦労しないわよ!!」
マナが涙を浮かべながら俺を睨みつける。
そんな、扉閉めたくらいでそこまで怒らんでも。
「バカバカしい・・・よっと」
ん?・・・
「ほら、開かないじゃない」
力を入れて何度か引っ張ってみる。
しかし、扉はびくともしない。
おかしい。入るときはあんなに簡単だったのに・・・。
「ダメなんですよ、私たちも何回もやって、全部の部屋回ってみたんですけど、どれも外に通じる窓や扉は開かなくて・・・」
そ、そんなバカな。扉があかない?
ルナが疲れきった顔で俺を見ている。
これは、なにかまずいのか?
「ヴァヴァヴァヴァヴァ・おおおおお兄ちゃん、はは早く開けてよ!こっここここ怖いんだけどどど」
「お、落ち着けリア!まだ、なにも起こっていないし、立て付けが悪いのかもしれんぞ?」
理性を失い、漏らして、ビチョビチョに濡らして冷たい服のまま俺にしがみついてくる。
それはまるで地獄の亡者が神に救いを求めるかのようにまとわりつく。
「無駄よ、私も魔法で破壊しようとしたけど、びくともしなかったわ」
やはり、この凶暴女神はすでに屋敷の破壊を試みていたか。
リアの言うとおりだったな。
しかし、なんでこんな事に?
「それよりも、なぜふたりがここにいる?」
「私たちは・・・その、ねぇ?」
俺の質問に、マナが言いにくそうに視線を外した。
「ヴァネットが出て行ったあと、退屈だから街を歩いていたの。そしたら、屋台のおじさんにこの屋敷のことを聞いて、ギルドへ行ったヴァネットを追ってみたらいいないし・・・。ティグにこの屋敷のこと話したら、除霊の依頼があるって。私たち女神だし、簡単にできるかな?と思ったんだけど・・・。」
「その、なんか、うまくできなくて・・・よくわかんないのよ。」
「実は・・・マナも女神の力が弱くなってるの」
「はぁ?力が弱くなってる?」
女神の力が弱くなる?ルナは大天使に呪いを受けているが、マナはなぜだ?
女神は人間界では長い時間活動できないのか?
・・・いや、まてよ。
(俺の全ステータスが落ちているのも、関係があるのか?)
言われてみると、俺が弱体化しているせいで前回の戦闘は押されていたのか?
だから、死霊が操れないのか?
言われてみると、いくつか俺にも納得できるところがある。
「そうなの。それも、ここに来てから気づいたからどうにもならなくて。ここから出れないし。そこに、ヴァネットたちが現れて、呼んでも、手を振っても、叫んでも気づいてもらえなかったからマナが魔力全開で窓に体当りしたの。それで、リアちゃんがマナを見つけてくれたみたいだけど・・・。」
震えが止まらないリアを抱き上げてなだめながらも、扉を開けようと試み続けるが確かにびくともしない。
閉じ込められた?
(俺たちを閉じ込めるほどの強力な何かがいるのか?)
薄暗い屋敷での夜は、静かに更けていった。




