38 幽霊屋敷
「ただいまぁ」
俺たちがギルドから戻ると、そこはもぬけの殻だった。
「ルナー?マナー?」
俺の呼びかけに応えるものはいない。
この家の中から生きる者の気配がしない。
「おねーちゃーん!!」
・・・
リアの呼びかけにも誰ひとり応えない。
(もう、寝たのか?)
俺は2階へ上がると、ふたりの寝室を覗いてみる。
これで、もし、本当にもし。この中で着替えたりしてたら俺は殺されるな・・・。マナに。
ドアノブを握りながらそっと扉を開く。
中は薄暗く、物音一つ聞こえない。
「やはり・・・いないか」
階段を降りると、リアも首を横に振っている。
どうやら1階にもいないようだ。
「どこいったんだろうね?2人とも」
「あぁ、・・・考えたくはないが魔族か天界に拉致られたのか?」
「いや、それはないんじゃない?あの二人、特にマナを抑えるくらいの魔力を発すれば私たちが気がつくで
しょ。天界の人間には魔力を感じる力はないみたいだけど?」
そう、俺たち魔族が神や女神とは違う大きな点。
魔力を感じることができること。
マナやルナの魔力を感じることができる。魔族の魔力も感じることができる。
気配に近いものがある。
女神にはそれがないようだ。あれば、リアや俺のことがバレているだろう。
しかし、俺たちがギルドに行っている間、そのようなものは一切感じなかった。
つまり、いきなり2人が何者かに拉致された。という可能性は少ない。
「では、二人はどこへ・・・」
「う~ん・・・。さ、さんぽ?」
「2人でか?」
「そんなこといったら、私たちも2人でギルド行ったでしょ?」
「たしかに・・・」
家も荒れていない。
襲撃の可能性は少ない。
「まぁ、探しに行くか」
リアの言う散歩が的外れとは言い切れない。
ここで待っていても気が気ではないからな。なにか揉め事を拾っていないければいいが。
俺たちは再び街へ出た。
「どこへいくんだ?」
「さっきのティグの話。気にならない?」
「ティグの話?」
今日は珍しくリアが俺を先導する形で歩いている。
いつも、なんとなく俺に合わせてくれているのだが・・・。
「そう、悪霊の話よ。もしかしたら、私みたいにはぐれ魔族がいるのかも・・・」
「おいおい、そう何度もいてたまるか。」
「だ・か・ら、確認しに行くのよ。」
「2人を探しに行くのではないのか?」
「・・・それも、街をぐるっと歩いてればどっかで合流できるでしょ」
なんだか、2人はおまけのようだな。
「だいぶ、こっちの方は暗いんだな。」
「うん、この辺、お屋敷が多くてお店や民家が少ないから道にまで明かりがたくさん届かないのよね。お庭が広すぎるのも考えものだわ」
あぁ、なるほど・・・。
それにしても、人間の世界は権力や力ではなく、基本的に全てが金なのだな。
魔界では金よりも地位や爵位、権力で決まるのだが、人間界は金さえあればだれでもちやほやされ、豪華な暮らしができるらしい。魔族にはない習慣だな。
大きな屋敷を見渡しながら歩いていると、不意に前を歩くリアの足が止まる。
「ここね・・・」
灯りが1つもついていない、真っ暗なお屋敷。明らかに、お家の屋敷とは違い無人の香りがする。
人の気配がしないってことは、すでに家主は逃げたのか?
「真っ暗だな」
「そりゃそーでしょ。人間なんて悪霊が出たら怖くてすぐに逃げちゃうわよ。とにかく、軽く偵察してみましょ?」
「べつに、依頼を受けていないんだからそこまでしなくとも」
「いいのよ、とりあえず行くだけ行って、魔族であれば話し合いに出来るでしょ?何がいるかわからない以
上、ほかの冒険者たちが除霊や退魔の魔法で仲魔を殺しに来るかもしれないのよ?」
「おまえ、今日はいやに熱いな・・・」
「あったりまえじゃない!!いい加減、私の他にも使い魔ができて先輩面したいのよっ!」
く、くだらない・・・。
先輩面したいって・・・。力強く話すリアの動機のしょぼさに驚きが隠せない。
「さぁ!いくわよ!」
屋敷の確認・・・、もとい、彼女の中では新人使い魔のスカウトをするための偵察が始まった。
「な、何もいないのかしら?」
俺たちは屋敷を一周して戻ってきた。
何も感じない。
もし、屋敷に何かしらが潜んでいるのであれば、これだけの至近距離になれば少なくとも存在くらいはうっすらと分かると思うのだが・・・。
「人間の勘違いではないのか?」
「そーなのかなー・・・。中もこう暗いとよく見えないし・・・。」
窓に顔をベッタリとつけて中を覗くリア。
はじめっから、こんなところ来る意味なんかなかったんだ。いいとこマナもルナもメインストリートの方でなにか食べたりしてぶらついているのだろ。
この街で夜に遊ぶなんていうのはそんなところが精一杯だ。
(・・・ん?)
一足先に門へ向かう俺目の前に、月明かりで屋敷の影が伸びている。
その影が、一瞬光って・・・動いた?
振り返るも、さっきと同じ風景。
気のせいか・・・。
なんとなく安心した俺は、大きなため息がこぼれる。
はぁ、早くルナに会いたい。
月を見上げて月の女神を愛しく思う。この時点で魔族としては失格だな。
それにしても、最近マナのせいで全くルナといれないではないか・・・。あいつ、どういうつもりなんだ?
バンっ!!
『いぎゃあぁぁぁああああああっ!!!』
「う、うわぁあああっ!!」
俺の背後、屋敷の方で急に大きな物音、何かが叩きつけられるような音がした。
それとほぼ同時に、リアの絶叫が聞こえる。
その、この世の終わりを迎えたような絶叫に驚き、俺まで叫び声をあげてしまう。
急いで後ろを振り向くと、そこには腰を抜かし、地面に座り込んでいるリア。
窓に張り付いた人影が一つ・・・。
マナ?ルナ?
そこには、見慣れた銀髪の少女が窓からこっちを恨めしそうに見ていた。




