30 覚醒した女神
「今までごめんなさい。わがままに付き合わせちゃった。」
彼女は少し残念そうな、悲しいような・・・。なにか儚げなモノを見るような表情で俺を見上げていた。
先程、一瞬触れたように感じる唇の温もり、なにか・・・いい匂い。ルナの顔。
あれは・・・。キスだったのか!?
うううう、生まれてからキスなんてしたことないぞ!
それが、まさかこんなところで・・。なにも人間に変身している時に・・・。相手はルナで申し分ないのだが。
「いや、それはいいのだが・・・。急にどうしたというのだ」
ルナは一瞬微笑むと、その背中には白い翼が大きく羽ばたいた。
天界に使える者の証。
翼と共に、今まで感じなかった魔力をルナから感じる。
「わたし・・・」
「お前、まさか・・・」
黙り込むルナは静かに頷いた。
『女神。』
ルナは大きく羽ばたくと、空に舞い上がる。
初めてみた天界の上級民族。女神。まさか、こんな身近にいたとは・・・。
しかし、なぜだ?俺が人間界にいるせいで、神から派遣されたのか?
「浄化の光」
ルナの翼から白く輝く光が放たれ、地上にいる骸骨兵を貫く。
骸骨兵はルナの攻撃を受けると、そのまま音もなく崩れ去る。
浄化されたのだ。魂の解放。とも呼ぶべきか。
あの死霊の魂は神のもとへ向かった。魂の選定を行い、輪廻するだろう。
それが女神の浄化の光。
あれだけいた骸骨兵が一瞬で消え去るとは・・・。どうやら俺の率いていた死霊軍は天界相手では最高に不利らしいな。
「ルナ・・・。本当に女神なんだな」
俺は彼女を見上げていると、それに気づいたルナは一瞬微笑んだようにも見えた。
「ああぁああぁあああ!!」
スカルライダーが奇声をあげてルナ目掛けて突っ込んでくる。
だが、それは決して当たることはなかった。翼を手に入れたルナはには余裕すら見えた。
「汚らわしい不死者たち・・・。神のもとへ行き、己が魂と向き合いなさい。レイ・ヴォルグ」
ルナの手から光り輝く巨大な槍が生まれる。
神々しい、とはよく言ったものだ。夜空から流れ星が落ちてきたのではないか?と思うほどにその先行は眩しく、見るものを圧倒させる。
「逝きなさい・・・」
彼女は小さく囁くと、スカルライダーに槍を放つ。
それを、まるで求めているかのように避けようとしないスカルライダー。
死を覚悟したのか、浄化されたいのか、それはわからない。
槍が勢いよくスカルライダーの体を貫くと、その大きな体は力を失いゆっくりと地上に向かって落ちてくる。
貫かれた槍から、スカルライダーの体は浄化されていき、落下中に腐った肉は全てなくなっていた。地上には骨がぶつかり、乾いた音を立てながら粉々になった。
(女神の力・・・恐ろしいな。こんな女神があと何人いるのだ?)
俺は背筋が冷たくなる感じを覚えた。
もし、この死霊軍を率いていたのが俺だったら・・・。
そう思うと恐ろしい。俺ももしかしたら浄化されていたかもしれない。
ゆっくりと地上に戻ってきたルナは、何も言わなかった。
「ルナ」
沈黙を破ったの俺だった。
彼女はその声に驚いていた。
「は、はいっ」
「名前の通り、本当に月の女神ルナだったんだな」
「・・・うん、黙っててごめん。なんか、人間相手に、自分は女神です!なんて言っても信じてもらえないと思って・・・。それに、女神の力を使うとは思っていなかったから。騙しててごめんなさい」
申し訳なさそうにルナは頭を下げた。
翼が、うっすらと消えていく。
「ルナ、翼が・・・」
「あぁ、時間切れなの。気にしないで」
「時間?」
翼で飛ぶのは、時間制限付きなのか?
そんな話聞いたことないが。
「私、天界から逃げてきたの」
「なにか、悪いことしたのか?」
「うぅん、悪いかわからないけど、人間の魂を選定するのが私の仕事だったの。でもね、ここ最近すっごく死ぬ人間が多くて・・・。きっと魔族のせいだと思うけど」
(ドキッ・・・)
確かに、魔王軍は人間界で国を破壊してきたからな。それがルナの重荷になっていたのか・・・。
彼女が天界を逃げた理由は、我々魔族、強いて言えば俺にもあるのか。
「それで嫌になって・・・。人間の魂をみているうちに、私も自由になりたいって思うようになって・・・。天界から逃げたんだけど大天使さまに見つかっちゃって・・・」
「女神でも、ルナはドジなんだな」
「うるさいですっ!まぁ、そのときに呪いっていうか、禁呪をかけられたのよ。『人間の温かみを知り、他
人を愛し、慈しみ、女神としての心を育てること』。いつ達成できるかわからないモノよ。呪いを解くには大天使を倒すしかない。でも、実際には無理。だから諦めてたんだけど・・・」
「でも、今は女神の力が使えるじゃないか」
「これはっ・・・その・・・キスしたから・・・」
下を向きながらモジモジとして、風の音にかき消され何も聞こえない。
「あぁ?聞こえないぞ?」
「もぅっ!!いいの!たまたまで、もう使えません!!」
急に顔を赤らめて怒鳴り出すルナ。女というのはよくわからん。
まぁ、なんだ。無事に皆生きてるな。
仮にも魔王軍相手に、よく頑張った。
さすがに疲れた俺はそのまま草むらに倒れこむ。
「でも、なんとか家、守れたねっ!」
戦いを終え、満面の笑顔で笑いかけるルナの背後に、白く輝く光が見えた。




