29 ファーストキスは、突然に
「ぐはぁっ!!」
俺の指からシャドウ・ボムが放たれた直後、背中に複数の魔法、矢が射られた。
空にいるスカルライダーに俺の魔法は届くことはなかった。
あまりの衝撃に片膝を折り、その場に崩れる。
この至近距離で、一斉攻撃を受けるのはさすがにこたえる。
「ちょ!、大丈夫!?」
「・・・」
リアの呼びかけに片手を上げて応える。
大丈夫か大丈夫じゃないかだと、まぁ大丈夫だ。
だが、どうして?
やつらは、俺が召喚した俺の魔力で命を吹き込んだ死霊兵。
なぜ、主である俺を攻撃するのだ?
ゆっくりと背後を振り返ると、そこには再び弓を射る姿が目に入った。
瞬間、俺はすぐに飛び退く。
魔法使いたちも火炎球などの初歩的な魔法を使ってくる。
「ダークフレア!」
俺は自らが召喚した死霊ごと、すべてを焼き払う。
次の瞬間、なにか生暖かいものが俺の背中を押した。
俺が振り返ると、そこには大きな影が迫っていた。
両手を広げたよりも、もっと大きな影。
上空を彷徨っていたスカルライダーが迫ってきた。
気配に気づかなかった俺の前には、手負いのリアがいた。
全てが緩やかに動いた。
ゆっくりと、コマ送りのような感じだ。
スカルライダーは勢いよく急降下し、俺に噛み付こうとした。
それを、リアが身代わりになってくれたのだ。俺はリアに手を伸ばすも彼女には届かない。
そのまま、スカルライダーはリアの左腕に噛み付くと、勢いよく上空へ浮上していく。
一瞬、リアの身体が宙に浮くも、スカルライダーにより左腕を噛みちぎられその場に倒れ込んでしまう。
溢れる鮮血が、夜の高台を紅黒く染めた。
「ああぁぁぁぁぁぁあ!!」
リアが痛みに耐えれずに絶叫する。
「リアッ!!!」
俺はすぐにベルトでリアの肩を強く縛り止血するも、あまり効果が見込めない。
「や、やばかったじゃない?今の。・・・有能な私がいて、良かったでしょ?」
「あぁ、お前がいてよかった。だから、死ぬな。もう喋るな。すぐに片付けてルナのところへ送ってやる。彼女の治癒魔法ならどうにかなるかもしれない」
「ふふっ。そうね。私のご主人様は、魔界最強ですから・・・。少し休ませてもらうわ」
「リアっ!!リアっ!」
「大丈夫よ・・・。少し休眠状態になるだけ・・・。でも、早めにお願いね。死霊としてあなたの仲間にされるより、生きてる仲間でいたいから」
そう言うと、彼女はゆっくりと瞳を閉じた。
「ひとり死ぬぞ!」
「我らと同じだっ!!」
「死霊となりて、魔王様に従え!」
骨がコツコツとぶつかり合う音が耳に障る。
聴き慣れた死霊の声が、耳に障る。
空を羽ばたくスカルライダーの羽ばたく音が・・・耳に障る。
彼女の呼吸の粗さ。
脈拍。
体温。
そう長くは持たないだろう。
俺の初めて出来た使い魔・・・仲間を殺すわけには行かない。
「キサマらぁ。・・・」
俺はゆっくりと立ち上がると、すべてを諦めた。
使い魔一人助けられぬ男が、街を救えるか。
使い魔一人救えぬ男が、魔王軍最強なものか。
仲間を見殺しにするような者に、何ができる!
「二度と再生できぬように灰にしてくれる!!!」
抑えていた魔力を解放しようとしたとき、死霊軍のはるか後方にルナの姿が見えた。
(な、何を考えている?!なぜここにいる!?)
俺は溢れる魔力を抑えると、何も考えずに、リアを抱き上げて死霊の中へと突っ込んだ。
まだ、こいつらはルナに気づいていない。なぜいるのかわからないが、こいつを、リアを治してやる事ができる。俺は死霊兵に切られながらも、ひたすらにルナのもとへ走り込んだ。やがて、死霊たちもルナの存在に気がつく。
「ひゃあぁ!!人間がいるぞ!」
「女だ!おんながいるぞ!」
「やぁらかい肉・・・。うまいぞぉ。骨までしゃぶっても飽きない味だぁ」
骸骨兵はルナに気づくと一斉に襲いかかる。
(リア、耐えてくれよ)
俺は右手で最後の剣を抜刀し、ルナに襲いかかろうとしている骸骨兵へ後ろから砕いていく。
リアは俺に揺られながらグッタリとして担がれている。
あまり振動は起こしたくないが、彼女が魔族で、多少は頑丈であることを祈るしかない。
「ルナっ!どうしてここに!?」
「り、リアちゃんを探してたら・・・その。戦っている音が聞こえたから。役に立てないかと思って」
半分怒鳴られている状態に驚き、戸惑いながらも彼女は答えていた。
よく、人間が魔族と戦っているところに臆さず来れるな。しかも、こんな少女が。
この戦いも、負けると誰もが思うのに・・・。死にに来るものだぞ
でも、助かった。
「助かった!ルナ、こいつを癒してくれないか?」
俺はリアをゆっくりと大地に寝かす。ルナはそれが誰だかわからないようだった
「だ、誰ですか?ひどいケガですけど・・・」
「俺をかばって怪我をしたんだ。とにかく頼む!」
「は、はいっ!」
急がされるまま、彼女はリアを治療し始める。俺は襲いかかる死霊兵をなぎ払うために剣を振るった。
「癒しの光よ」
ルナはリアを抱きしめる。夜に彼女のまばゆい光は眩しいくらいだった。
しかし、これで助かる。
「えぇい!邪魔だっ!!消えよ!シャドウ・ボム!!」
5本の指に生まれた火種は高台にいる骸骨兵たちを包んで燃え上がる。
「ほん、本当に魔族が襲ってきたんですね」
「あぁ。命を持たない死霊で構成された死の軍団だ。」
目の前にいる動く骸骨。空に飛んでいる変な鳥。ところどころ炎上している森、バラバラになっている骨たち。彼女はその全てが初めて見るものだろう。
「ここに来るまでも怖かったですけど、・・・よかった。ヴァネットに会えて。生きてて良かった」
「そいつは、助かるか?」
「はいっ!もう止血は終わりました。後は、肉体のダメージなどが回復すれば・・・」
「助かって良かった。これも、全てお前のおかげだ。ルナがいなければ、そいつも死んでいた。きっと、・・・俺も理性を失っていただろう」
「理性?・・・でも、わたし・・またお荷物になっていないか-」
「そんなことはない!」
俺は、振り向かなかった。
今、ルナを見ると衝動で抱きしめてしまう。
きっと、全てから逃げてしまう。
「お前は、俺にとっては最高の女だ。俺に生きる道を、力をくれる。俺がそれに応えてみせるさ」
「・・・優しいね・・・。いつもいつも」
俺は驚き、その場で動けなくなってしまう。
背中に、温かい、柔らかい感触。
ルナに後ろから抱きしめられた俺は、あまりの心地よさに動けなくなっていた。
「ど、どうした?今は魔族を殲滅しなくては」
「うん。もう大丈夫。今度は私の番。本当に・・・ありがとう」
振り返った俺に、ルナは何も言わずにキスをした。
それは戦場に風が抜ける程度の、1瞬の出来事だった。




