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女神の彼氏は死霊使い?  作者: き・そ・あ
本編 神も悪魔も幽霊嫌い
13/63

10 格安物件

「じゃあ、行ってくる」


「はいっ。待ってますね!」


 ・・・


「すまぬ。留守を頼んだぞ」


 俺はその場から逃げるように立ち去った。

 ここは、町のはずれにある牧場。の納屋だ。

 ギルドで受けた仕事が今日もあり、夜間現場へと駆り出されていく。


 昨晩、俺の働きが気に入ったと言っていた名前のしらない男が、この牧場の息子で、使っていない納屋なら少しの間貸してくれる。と話をギルドに持ってきてくれた。

 さすがに、毎晩野宿では人目もあるからな。それに今はひとりではない。俺は基本寝なくても活動できるが、人間の娘がいてはそうもいかないだろう。

 俺は彼の好意に甘えることにして、宿に泊まる事ができるお金が貯まるまで厄介になることにした。


 そこで、さっきのあれだ。

 ルナからの申し出で、仕事に行く前はこう言って欲しい。と言われて言ってみたが、なんだ。あの顔が熱くなるような、モヤモヤとした感情は・・・。恥なのか?恥ずかしい。と感じた時と同じような感覚だったが・・。モヤモヤした理由がわからずなぜか余計にモヤモヤしてしまう。


(もし、魔界でもこのように伴侶が出来ていたなら同じような暮らしをしていたのだろうか。)


 納屋に浮かぶ頼りない灯りをみながら、そんな事を考えてしまう。

 魔王軍として生まれて、このような感情は初めてだ。

 俺は納屋に浮かぶ灯りを愛おしく思い、見えるギリギリの範囲まで振り返りながら仕事へと向かった。




「お帰りなさい!お疲れ様でした!!」


「あ・・・あぁ。ただいま」


 俺が仕事から戻ったのは、まだ朝日も登って間もない頃だった。

 街でも起きている人間は少ない。

 ルナも、まだ寝ているものだろうと思い、物音を立てないように密偵シャドウウォーカーのスキルまで使って帰ってきたのだが、扉を開けると俺が帰ってくるタイミングがわかっていたかのようにルナがこっちを見て待っていた。


「まさか、ずっとそのままで待っていたのか?」


「はいっ!すぐに帰ってくると思ったので」


「・・・」


 馬鹿だ。こいつは。

 人間からしたら一晩は長いだろう。

 生命活動を維持するために、睡眠も必要なはずだ。

 それを、俺が戻ってくるまで待っているなんて・・・。


「あの、もしかして、嬉しくなかったですか?」


「なにがだ?」


「あの、・・・男性はこのようにお出迎えされると嬉しい。と聞いたものですから。」


 だれが、どこのバカがこのクソ真面目な堅物にそんなことを吹き込んだのだ!

 相手が喜ぶから、私はずっと待っていました。

 そんな自己犠牲の精神をもってまで、誰かの為に行動するのが人間の心理なのか?


「嬉しくない」


「えっ?す、すいません。気が利かなくて・・・。その、、ごめんなさい」


「寝ろ」


「え?」


 俺はそばにあった布をルナへ放り投げる。


「ぅわっぷ!」


「黙って、少し寝ろ。俺も、ここで少し寝る。体が持たないぞ」


「はい、すいません」


 別に、嫌いではない。

 魔王軍として活躍していた俺が、人間の国を滅ぼし帰ってくる。

 そこに、笑顔で待っていてくれる伴侶がいたらきっと、嬉しい。

 だが、こいつは人間だ。

 俺が喜ぶと思って行動してくれたことはありがたい。

 それを、うまく表現できない。

 布に包まるルナを見て、上手く自分の気持ちを伝えることができないことに歯がゆさを感じていた。




「今日はどこに行きますか?」


 俺の隣には、ニコニコで笑うルナの姿があった。とりあえず、今日も、昨日もバイトでお金は手に入った。

 正直、行くアテなんかなかった。


 バイトも、橋の補修が終わってしまったせいでもうない。

 仕事がないのだ。

 これでは、ふたり揃ってホームレスになる。


「この街って、古い建物多いですよね」


 ルナが市街区を見ながら呟く。

 確かに、言われてみれば他の街よりも年季が入った建物が多い。

 まぁ、もとは小さな村だったからな。その名残かもしれん。

 俺は黙ってあたりに視線をうつす。

 人間、人間。

 普段なら、即時に殺しているであろう人間が、今真横を歩いている。

 その人間に、なにか感情を抱いている。


「てます?・・・ヴァネット!」


 俺は意識を集中しすぎてとなりで呼ぶルナの声が聞こえなくなっていた。

 急に腕を引っ張られて体勢崩した俺はそのまま地面に膝をついてしまう。


「すまん。ぼーっとしてた」


「私といても、つまらないですか・・・」


「いや、そんなことはない!すまぬ。我の誤ちだ」


「我?ふふっ、ヴァネットって、たまに変なこと言うのね」


 しまった。気が動転して、口が滑った。


「焦って、ついな。変だな。おれ」


 ルナの微笑みにつられて、一緒に笑ってしまう。


「あ、傷が出来てる。膝のところ」


 彼女は傷を見るなり、


「このくらいなら、簡単に私の回復魔法で治るので任せてください!」


 そう言うと彼女は俺の膝にそっと手を差し伸べる。


「いやいやいや!!いい!このままで!回復魔法など不要だ!」


 俺は一瞬で後ろに飛び退いた。


「で、でも。私のせいでこの傷は・・・」


「これは、呼ばれたことに気がつかなかった我の不始末。戒めるためにこのままでよい」


「はぁ・・ヴァネットがいいなら別にいいけど・・・」


 回復魔法なんてかけられた時には大ダメージをおってしまう。

 仮にも、この体は生命活動を停止した死霊軍の長である。

 いきなり生命活動を活発にする回復魔法なんて使われた日にはどうなるのか想像ができない。


「・・・ん?」


 俺が飛び退いた路地裏の空家から、微妙な負のオーラを感じる。

 そこには、


『空家』


『貸家』


『格安物件』


 と張り紙があった。


「どうしたの?」


 ルナが近づいてくる。


「何か、感じるか?」


「なにかって?」


 神官のルナはわからないようだ。よほどの雑魚か、強力な何かか・・・。

 俺は神経を集中させるも、空気に漂う微妙な負のオーラの出処がわからない。


「格安物件かぁ。納屋を出れたら、こんなところにちゃんと住んでみたいよね」


 ルナが見る空家は、見た目こそ古いがガラス越しに見える内装は綺麗なもので、誰かが毎日手入れをしているようだった。


「とりあえず、話だけでも聞いてみるか?」


 俺は空家にあったチラシを一枚取ると、管理している人間のもとへ向かった。

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